法律解釈の手筋

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一橋ロー入試 平成30年度(2018年度) 刑事訴訟法 解答例

解答例

第1 小問1[1]

 1 本判決が、第1審判決を「当事者の訴訟活動を基礎として形成」されていると評価しているのは、刑事訴訟法が当事者追行主義を採用していると評価したためであると考える。当事者追行主義とは、当事者が手続遂行の主導権を持つ方式をいう。以下、具体的な規律をあげる。

 2 第1に、刑事裁判の審判対象は、検察官が明示する「訴因」であり(256条3項前段)、裁判所は、その訴因についてのみ審理判決する権限と責務を負う(378条3号前段)。

 3 第2に、公判手続の中心である証拠調べ請求の権限は、当事者である検察官、被告人及び弁護人にあり(298条1項)、裁判所は、自ら証拠調べを自ら行う訴訟法上の義務はない。

 4 第3に、証拠調べの1つである証人尋問では、刑訴法304条は裁判官が証人尋問を行った後、検察官、被告人または弁護人が尋問するのを原則としているものの、実務上は当事者が主導する交互尋問方式により行う運用が定着している(規則199条の2)。

 5 第4に、公判前整理手続(316条の2以下)で認められる訴因の変更、争点整理、証拠調べ請求等の公判準備のための手続(316条の5第1項参照)は、当事者追行主義の健全、的確な作動のために必要不可欠な制度である[2]

第2 小問2

 1 直接主義について

 (1) 直接主義とは、判決裁判所は証拠を自ら直接取り調べなければならず、事実の認定は証拠の源泉に基づくべきであるという考え方をいう[3]。その趣旨はできる限りの正確な事実認定及び事案解明にある。

 (2) 人証の場合には、証人尋問制度を採用している(304条、199条の2)。一方で、供述代用書面については伝聞法則(320条1項)により、原則として証拠能力が否定される。このように、供述代用書面ではなく、人証を優先している現行法は、直接主義の現れである。

 2 口頭主義について[4]

 (1) 口頭主義とは、公判廷におけるコミュニケーションを書面ではなく口頭で行う審理形式をいう[5]。その趣旨は、すべての訴訟主体が同時的かつ直接的に参加すること可能にする点にある。口頭主義が現れている規律は以下のとおりである。

 (2) 判決は口頭弁論に要することを定めている(43条1項)。

 (3) 検察官は、審理の冒頭において起訴状を朗読しなければならず(291条1項)、これに対しては被告人及び弁護人に陳述の機会が与えられる(291条4項)。

 (4) 証拠調べのはじめに、検察官は口頭で証拠により証明すべき事実を陳述しなければならない。

 (5) 書証の証拠調べの方式は朗読が原則とされる(305条)。

 (6) 証拠調べ終了後には、当事者に事実及び法律の適用について口頭で意見をする機会が与えられる(293条)。

 (7) 以上のように、条文によって口頭による陳述を義務づけているのは、口頭主義の現れであるといえる。

第3 小問3

 1 裁判員は法律の専門家ではない一般国民を裁判手続に参加させるものである。そこで、審理を迅速で分かりやすいものとする必要がある(裁判員法51条参照)。

 2 審理を分かりやすいものとするためには、人証中心の直接主義が、それにかなう。また、6人の裁判員の参加によって(裁判員法2条2項本文)、より多数の者が同時的に裁判に参加できるようにしないといけない。それには、口頭主義がその要請にかなう。

 3 以上より、直接主義・口頭主義を徹底する状況が生まれたといえる。

以上

 

[1] 酒巻・9頁、リークエ8頁を主に参考にして作成した。

[2] この他に、起訴状一本主義(256条6項)も裁判所の予断を排除することで、当事者追行主義に資する機能を有するとされる。酒巻・257頁。

[3] 酒巻・327頁参照。

[4] 酒巻327頁を主に参照。

[5] 酒巻・327頁。