法律解釈の手筋

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『刑法事例演習教材[第2版]』 問題7 「男の恨みは夜の闇より深く」 解答例

解答例

第1 甲乙がAの顔面を強打した行為について

 甲乙が「共同」して、Aの顔面を強打し、それによって側頭部を路面に強く打ちつけ、側頭部に加療4週間程度を要する頭部打撲傷を負わせ、生理的機能を障害し「傷害」させ行為は、傷害罪(204条)の「犯罪を実行」したとして、傷害罪の共同正犯(60条、204条)が成立する。

第2 甲乙がAのハンドバックを持ち去った行為について

 1 甲乙が共同して第2の行為を行った点について、器物損壊罪の共同正犯(60条、261条)が成立する。

 (1) 甲乙は、器物損壊罪の限度で共同正犯の客観的構成要件を充足する。

ア 一部実行全部責任の処罰根拠は、各共犯者が役割分担を通じて犯罪達成のために重要な寄与ないし本質的役割を果たした点にある。そこで、①「共同」して②「犯罪を実行」した場合には、共同正犯の客観的構成要件を充足すると考える。

イ まず、乙は後述のとおり不法領得の意思を有しており乙の主観においては窃盗罪であるのに対し、甲の主観においては器物損壊罪であるところ、器物損壊罪の限度で、共同遂行合意が認められる。

(ア) 「共同」とは、共犯の処罰拡張限定の観点から、特定の犯罪の共同遂行合意と考える。そして、共犯者間の主観において成立する犯罪が異なる場合には、構成要件の実質的重なり合いの認められる限度で、軽い罪の共同遂行合意があったと考える(部分的犯罪共同説)[1]

(イ) 本件では、甲乙はAのハンドバックを持ち去るという犯行計画(以下「第1犯行計画」という。)を立てている。第1犯行計画について乙の主観においては後述のとおり窃盗罪が成立する。これに対して、甲は不法領得の意思が認められず、甲の主観において第1犯行計画について窃盗罪は成立しない。「損壊」とは、他人の物の効用を害する一切の行為をいうところ、第1犯行計画は器物損壊罪の客観的構成要件を充足するところ、甲の主観では、器物損壊罪が成立する[2]。したがって、甲乙間には異なる構成要件の認識が認められる。

窃盗罪と器物損壊罪に構成要件的重なり合いが認められるかであるが、窃盗罪の保護法益は、占有にあるとされるものの、その背後にある本権についても保護していると考えられるため、所有権を保護法益とする器物損壊罪と保護法益が共通である。また、その行為態様も、器物損壊罪が「損壊」行為を広く捉えるため、共通するといえる。したがって、軽い罪の器物損壊罪の限度で実質的な重なり合いが認められ[3]、甲乙間には器物損壊罪の共同遂行合意があるといえる。

   (ウ) したがって、甲乙は「共同」している(①充足)。

   ウ 甲乙は、上記共謀に基づいて、第2の行為にでている。第2の行為はAに同ハンドバックの利用を困難にする行為であり「損壊」にあたるところ、器物損壊罪たる「犯罪を実行」したといえる(②充足)。

  エ したがって、甲乙は器物損壊罪の共同正犯の客観的構成要件を充足する。

(2) まず、甲については器物損壊罪の故意(38条1項)が認められる。また、甲はAのハンドバックを焼却しようとしているため、権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い利用処分する意思[4]のうち、利用処分意思に欠け、不法領得の意思が認められない。次に、乙は不法領得の意思を有しているものの、前述のとおり窃盗罪と器物損壊罪は構成要件の実質的重なり合いが認められるため、軽い罪である器物損壊罪の限度でも故意が認められる。

(3) よって、甲乙に器物損壊罪の限度で共同正犯が成立する。

2 第2の行為について、乙に窃盗罪の単独正犯(235条)が成立する。

(1) Aのハンドバックは「他人の財物」にあたる。

(2) 乙が第2の行為を実行した点は直接正犯として、乙が甲の行為を利用した点に間接正犯として「窃取」行為が認められる。

  ア 「窃取」とは、他人の財物を、その占有者の意思に反して自己又は第三者の占有下に移転する行為をいう。そして、実行行為性が認められるためには、正犯性が必要である。

  イ 第2の行為のうち、乙が自ら第2の行為を実行した点は「窃取」行為にあたる。また、甲が第2の行為を実行した点についても、甲は器物損壊罪の故意しか有していないため、軽い罪の故意しか有さない者を道具として利用したとして、乙が甲の行為の因果経過を支配したといえる。したがって、乙が甲を利用した行為が「窃取」行為にあたる。

  ウ したがって、「窃取」にあたる[5]

 (3) 乙はAが死んだと誤信しているものの、なお窃盗罪の故意が認められる。

   ア 故意とは構成要件該当事実の認識・認容をいう。窃盗罪については、他人の財物が他人の占有にあることの認識が必要である。死者には原則として占有が認められないため、被害者が死亡していると誤信していた場合には占有の認識が欠け、原則として窃盗罪の故意が認められない。もっとも、①被害者を死亡させた犯人との関係では、②時間的場所的接着性が認められる限り、なお占有が認められる[6]と考えるところ、行為者の主観を基礎にして上記事実の認識が認められる場合には、占有の認識が認められ、窃盗罪の故意が認められると考える。

   イ 本件では、乙の主観において、乙は甲と共に被害者Aを死亡させた犯人である(①充足)。また、第1行為と第2行為は時間的場所的に接着しており、かかる事実を乙も認識しているといえる(②充足)。

   ウ したがって、乙にはAのハンドバックがAの占有にあるとの認識が認められ、窃盗罪の故意が認められる。

(4) 乙はAのハンドバックと売却しようと考えているところ、不法領得の意思が認められる。

 (5) よって、第2の行為について、乙に窃盗罪の単独正犯が成立する。

第3 甲乙がBを殴打した行為について

 1 甲乙が共同して第3の行為を行った点について、傷害罪の限度で共同正犯(60条、204条)が成立する。

 (1) 甲乙は、暴行罪の限度で共同正犯の客観的構成要件を充足する。

   ア 甲乙は、B対して暴行を行う旨の犯行計画を現場で合意している(以下「第2犯行計画」という。)。まず、第2犯行計画について乙の主観においては、後述のとおり事後強盗罪(238条)が成立する。これに対して、甲は窃盗犯ではないため、甲の主観において事後強盗罪(238条)は成立しない。また、甲は乙が窃盗犯人であることの認識を欠くため、65条1項によって甲に事後強盗罪の共同正犯が成立することはない。したがって、乙の主観においては、第2犯行計画について暴行罪が成立するにとどまる。そうだとすれば、甲乙間では、第2犯行計画について異なる構成要件の認識が認められる。

     暴行罪と事後強盗罪は、どちらも被害者の生命・身体を保護法益としている点で共通性が認められる。また、行為態様も不法な有形力を行使する点で共通である。したがって、両者の間には構成要件の重なり合いが認められ、軽い罪の暴行罪の限度で共同遂行合意が認められる(①充足)。

   イ 甲乙は、上記合意に基づいて、Bを殴打して「暴行」行為を行い、結果として加療3週間を要する「傷害」を負わせているため、傷害罪の「犯罪を実行」したといえる(②充足)。

   ウ したがって、甲乙は傷害罪の共同正犯の客観的構成要件を充足する。

 (2) 甲には、傷害罪の故意(38条1項)が認められる。また、乙には後述のとおり事後強盗罪の故意が認められるところ、前述のとおり傷害罪との重なり合いの認められるため、軽い罪である傷害罪の限度でも故意が認められる。

 (3) よって、甲乙に傷害罪の限度で共同正犯が成立する。

 2 第3の行為について、乙に事後強盗罪致傷罪(240条、238条)が成立する。

 (1) 乙は、前述のとおり窃盗罪(235条)が成立するところ、「窃盗」にあたる。

 (2) 乙が第3の行為を実行した点については直接正犯として、乙が甲の第3の行為を利用した点については間接正犯として「暴行」が認められる。

   ア 事後強盗罪の「暴行」とは、強盗罪との均衡から①窃盗の機会に②相手方の反抗を抑圧するに足りる不法な有形力行使が必要であると考える。また、実行行為性が認められるためには、前述のとおり正犯性が必要である。

   イ 第3の行為のうち、乙が実行した点については相手方の反抗を抑圧するに足りる(②充足)。また、窃盗行為である第2の行為と時間的場所的に接着しているといえ、窃盗の機会に行われている(①充足)。したがって、「暴行」行為にあたる。また、甲が実行した点についても、甲は傷害罪の故意しか有していないところ、軽い罪の故意しか有さない者を道具として利用したといえ、乙が甲の行為の因果経過を支配したといえる。したがって、乙が甲を利用した行為が「暴行」行為にあたる。

   ウ したがって、第3の行為は「暴行」行為にあたる。

 (3) 甲は、事後強盗罪の故意(38条1項)を有している。

 (4) 甲はBからの「逮捕を免れ」る目的を有している。

 (5) Bは第3の行為によって加療3週間の打撲傷という傷害を負い「負傷」している。

 (6) よって、第3の行為について、乙に事後強盗致傷罪が成立する。

第4 罪数論

 1 甲の一連の行為について、①傷害罪の共同正犯②器物損壊罪の共同正犯③傷害罪の共同正犯が成立し、それぞれ保護法益も行為も異なるため、併合罪(45条)となる。

 2 乙の一連の行為について①傷害罪の共同正犯②窃盗罪③事後強盗致傷罪が成立し、②は器物損壊罪の限度で③は傷害罪の限度で甲と共同正犯が成立する。②は③に吸収され、①と③は併合罪(45条)となる。

 3 以上より、甲乙はそれぞれかかる罪責を負う。

以上

 

[1] 最近は部分的犯罪共同説を最終的な共同正犯の罪名処理の問題として展開されることが多いが、本来的には共同実行の意義の問題であることについて山口青本・153頁参照。

[2] 本書解説は、第2の行為が「損壊」行為にあたらないとの評価が自然であることを前提としているが、「損壊」行為を広く捉える判例・通説からは、「損壊」にあたるとの認定が自然であると思われる。橋爪連載(総論)・第5回108頁参照。

[3] 橋爪連載(総論)・第5回107頁参照。

[4] 最判昭和26年7月13日参照。

[5] このように、部分的犯罪共同説を前提とした場合、一方の共犯者の重い罪については、間接正犯を成立させる必要が生じる。橋爪連載(総論)・第20回110頁参照。

[6] 最判昭和41年4月8日参照。なお、かかる見解については占有離脱物横領罪が成立するにとどまるとする反対説が有力である。もし仮に反対説を採った場合は、客観的には窃盗罪主観的には占有離脱物横領罪となり、抽象的事実の錯誤(占有離脱物横領罪の故意に対応した客観的構成要件充足性)が問題となり、通説は両罪の構成要件の実質的重なり合いを認めるため、占有離脱物横領罪が乙に成立する。