法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成29年度(2017年度) 民法 解答例

解答例

第1 設問1

1 XはY及びZに対して抵当権(369条1項)に基づいて物上代位(372条・304条1項)を行使して、2016年9月分の賃料支払請求をすることが考えられる。

(1) Xは2016年7月15日にAに対し2億円の融資をしており、かかる債権を被保全債権として同日に甲建物について抵当権の設定を受けている。

    また、AはYZと甲建物の賃貸借契約を締結しており、2016年8月15日にXはAのYZに対する賃料債権に差押えをした。

(2) もっとも、 本件物上代位の目的物はAのYZに対する賃料債権であるところ、賃料債権に物上代位は認められないのではないか。

ア 304条1項の文言には「賃貸」と規定されている。また、賃料債権への物上代位を認めても抵当設定者の使用収益権自体を奪うことにはならない。

    そこで、賃料債権に物上代位は認められる[1]と考える。

イ 本件は賃料債権である。

ウ したがって、物上代位は認められる。

(3) そうだとしても、かかる賃料債権はすでにAがBに対して債権譲渡しており、Xの差押えに先立って確定日付ある証書によって通知(467条2項)しているところ、物上代位が認められないのではないか。

   ア まず、AB間における債権譲渡は将来債権譲渡であるが、2014年6月から2017年5月まで、と適宜の方法により目的債権の始期及び終期が明確にされており識別可能性を有する[2]ため、かかる本件債権譲渡は有効といえる。

   イ それでは、本件債権譲渡と物上代位どちらが優先するか。

   (ア) 304条1項ただし書が差押えを必要とした趣旨は、第三債務者を二重弁済の危険から保護する点にあるところ、一般債権者に対しては抵当権の登記によって公示がなされている。また、債権譲渡が優先するとすれば、債務者が債権譲渡によって容易に物上代位権の行使を免れ、抵当権者の利益を不当に害することになり妥当でない。

そこで、債権譲渡は「払渡し又は引渡し」に含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が供えられた後においても、物上代位権を行為しすることができる[3]と考える。

(イ) 本件では、BC間での代物弁済は債権譲渡である。

(ウ) したがって、Xの物上代位が優先する。

2 以上より、Xのかかる請求は認められる。

第2 設問2

1 Xは設問1と同様の請求をする。

(1) もっとも、Xの物上代位に先立って、物上代位の目的債権には相殺の合意がなされているのだから、これによってXは物上代位が認められないのではないか。

   ア まず、本件相殺の合意は確かに物上代位に先立つ賃貸借契約の締結時になされている。しかし、相殺は毎月月末に発生する賃料債権を受動債権とするものであるから、「払渡し又は引渡し」たる相殺の意思表示は、2016年8月15日になされた差押えよりも後の毎月月末になされるといえる。

     したがって、相殺の合意をもって「払渡し」にあたるとして、物上代位の差押えに対抗することはできない。

   イ 次に、YZの協力金は、物上代位の差押えを受ける前に取得した自働債権であるとして、511条反対解釈により、Xの物上代位に対抗することができないか。

(ア) 確かに、511条の反対解釈によれば、相殺権者は差押え前に取得した自働債権をもって相殺できるとも思える。しかし、抵当権については、抵当権設定登記により代位される可能性のある債権に対する抵当権者の優先的価値支配が公示されている。そのため、抵当権者の物上代位と相殺については、抵当権設定登記時を基準としてその優劣を決すべきである。

     そこで、抵当不動産の賃借人は、抵当権者が物上代位の差押えをした後は、抵当権設定登記後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって抵当権者に対抗することはできないと考える[4]

   (イ) 本件では、YのAに対する相殺の自働債権たる協力金は、Xの甲に対する抵当権設定登記時である2013年7月15日より前の2013年6月20日に取得している。他方、ZのAに対する相殺の自働債権たる協力金は、Xの甲に対する抵当権設定登記時である2013年7月15日より後の2013年7月20日に取得している

(ウ) したがって、Yの相殺は認められるが、Zの相殺は認められないと考える。

(2) よって、YはXに対して相殺を対抗できるが、ZはXに対して相殺を対抗できない。

2 以上より、Xのかかる請求はZに対してのみ認められる。

以上

 

[1] 最高裁平成元年10月27日第2小法廷判決参照。

[2] 最高裁平成11年1月29日第3小法廷判決参照。

[3] 最高裁平成10年1月30日第2小法廷判決参照。

[4] 最高裁平成13年3月13日参照。