※2024年2024年1月22日更新。
1.はじめに
※この項目は他の書評記事でも記載した内容と同じなので、そちらをすでに読んでいただいた方はこの項目を飛ばしていただいて構わない。
ここでは、受験生がよく使用している会社法の基本書や演習書について、個人的な書評を交えながら、紹介する。
まず、前提として、僕は人にはそれぞれに合った勉強法があると考えている。基本書等を読まなくても予備校教材だけで予備試験に1年程度で合格できる人もいれば、基本書等や演習書等を通じて深い理解をすることで司法試験に合格できる人もいる。
僕はどちらかといえば後者側の人間だった。予備校のような論点を紹介する教材だと、どうしても論点の文脈が分からなかったりするが、基本書では、原理原則から説き起こして各論点を説明するため、スッと入ってくる感じがあった。
これから紹介する基本書等は、そのようなタイプであった僕が紹介する基本書等になるため、予備校教材だけで十分合格できるタイプの受験生が無闇に手を出すことは、全くお勧めしない。また、仮に手を出すにしても、無闇やたらに全ての書籍を購入するのは、消化不良を起こし、弊害の方が大きくなるおそれがある。自分のキャパシティとの兼ね合いは非常に大事であることに注意してほしい。
今現在予備校教材でよく理解できていない部分がある方や成績に伸び悩んでいる方にとっては、もしかすると最良の教材になり得る。立ち読みからでも良いので、一度気になった書籍を読んでみることを勧めたい。
2.基本書
(1) 山口青本
2015年2月出版。548頁。
刑法の基本書の決定版である。
入門書を読み終えた者が次に手にする基本書は、まず間違いなくこれであると断言できる。山口先生の自説がほぼ展開されず、基本的な内容に終始し、網羅性を極めたコンパクトな1冊であり、内容も非常に分かりやすい。
また、コンパクト故に短答用の勉強にも使いやすいので、この1冊は持っておいて損をしないであろう。
執筆者の山口先生が最高裁判官になられたせい(?)で、改訂が2015年で止まってしまっていることだけが唯一のネックであるものの、総論と各論を1冊でここまでコンパクトにした書籍は他にないため、やはり必携の1冊といえると思う。
(2) 井田刑法
2020年12月出版。697頁。
行為無価値の代表である井田先生の基本書である。
内容は、一言で言ってしまえば、格調高い。「刑法と刑罰法規」の項目で40頁ほど割いており、読めば分かると思うが、かなり重厚な印象を受ける。
行為無価値の基本書の代表格なので、その点を重視するのであれば、井田刑法が最も良いと思う(僕は、受験生時代は井田刑法をメインの基本書に採用していた。)。もっとも、1冊通読するには相当腰が折れるため、辞書的に、気になる項目だけを読んでいくのが良いと思う。
(3) 山口刑法
2010年3月出版。690頁。
刑法の大家、山口先生の2冊組の基本書である。山口青本とは変わって、自説の論述ももちろん厚い。有力な行為無価値からの論述なので、山口先生の学説に完全に則って答案を書いても問題ないと思うことからすれば、この2冊に完全に頼るのも悪くないと思う。
ただ、青本の方でも指摘したように、執筆者の山口先生が最高裁判官になられたせい(?)で、改訂が完全に止まってしまっていることがネックである。2冊組の基本書は他に良い書籍が多いので、あえて山口先生の基本書を採用する意味は、現状は低いというのが僕の印象である。
(4) 基本刑法
2019年3月出版。536頁。
2023年4月出版。584頁。
基本シリーズ特有の、簡単を事例を冒頭に設定し、それを基に解説していく、というスタイルを採用している。事例を念頭に置きながらの解説のため、説明も入ってきやすいと思う。
また、同書籍は原理的な議論をできる限り省略し、コラムに寄せている点で、最も受験生及び受験対策を意識した内容になっているといえる(これは基本シリーズ全体に共通していえることであるが。)。ただ、個人的には、基本書としては若干物足りない印象を受けるのと、採用している説が現代の主流からは外れたものを採用している点が気になる(最近は口述試験対策として多くの受験生がこちらを参照しているように見受けられるが、個人的にはあまりおすすめしていない)。
堅苦しい書籍が好きじゃない方や、できる限り平易な文章が良い、という方は、この基本書が最も合っていると思う。
(5) 西田刑法
2019年3月出版。520頁。
2018年3月出版。588頁。
西田先生の基本書であるが、西田先生が亡くなられて以降は橋爪先生が補講という形で改訂をしている。
原理原則的な説明もありつつ、簡潔で明瞭な文章であり、かなり読みやすい基本書である。2冊組の刑法の基本書の中では、この書籍が一番分かりやすくとっつきやすいのではないかと思う。行為無価値や結果無価値をあまり気にしない(もしくは、そこの議論を自分で判断可能である)のであれば、西田先生の基本書を使用するのが一番良いと思われる。
3.副読本
(1) 悩みどころ(橋爪連載)
2022年12月出版。524頁。
東京大学の橋爪隆教授の法学教室の大人気連載を書籍化したものである。
行為無価値・結果無価値の議論には深入りせず、事例を用いて論点についての解説をしていく。橋爪先生の文章能力の高さもさることながら、少しずつ異なった事例を用いて各事例の帰結の違いを説明していく論理の美しさは、他の追随を許さない。刑法の副読本の完成度としては、これを超えるものは現れないんじゃないかとさえ思っている(この書籍が改訂されずに情報が古くなってしまった場合には、仕方なく他の書籍に乗り移るしかないと思うが。)。
正直、刑法の深い理解は、この2冊があればほぼ問題ないといっても過言ではないと思っているくらいには、僕はこの書籍の完成度は異次元のレベルだと思う。この書籍を理解できるレベルになれば、ほぼ間違いなく刑法の上位者に入れると思う。
刑法を一通り学び、刑法の勉強が好きだからより深い理解をしたい、という方はぜひこちらの書籍を手に取ることを勧める。
(2) 佐伯本
2013年4月出版。458頁。
佐伯先生の法学教室の人気連載を書籍化したものである。
学説や有力説を深掘りしながら論述していく流れを採っており、おそらく今の受験生からすれば少し古い印象を受ける書籍なのではないかと思う。特に、刑罰理論や罪刑法定主義の項目もあるので、かなり堅苦しい書籍と思われるかもしれない。ただ、佐伯先生の文章は非常に分かりやすく、原理原則面に深掘りするところもあるが、それが刑法理論を深く理解する一助になる
もっとも、この書籍の非常にネックなところが、各論が書籍化されていないところである。
そのため、同じ佐伯先生の各論で副読本を揃えたい場合には、法学教室の連載をコピーする必要がある(個人的にはコピーして読む価値のある内容だとは思っている。)。
少し情報が古くなってきてしまった(特に、因果関係論はすでに危険の現実化論をベースに論じるのが当たり前になってしまっているので、この書籍の因果関係論の項目が受験的にはほとんど役立たなくなってしまっていることは看過できない。)ことや、悩みどころが総論・各論共に発売された現状からすれば、悩みどころではなくこちらを購入するメリットはほとんどなくなってしまったかな、というのが正直な感想である。
個人的に佐伯先生の文章が好きなので紹介してみた。読み物としてとても面白いので、休憩や趣味の時間にでも読んでみてほしい。
4.演習書
(1) 徹底チェック刑法
2022年6月出版。294頁。
2022年6月に発売されたということもあり、最新の基本書といえる。
因果関係の項目で、相当因果関係説を「かつての有力説」と紹介し、危険の現実化も直接実現類型と間接実現類型を当然のこととして解説したり、実行の着手の項目で、犯行の進捗度を問う学説を近時の有力説として紹介するなど、刑法の基本のアップデートをしようという意気込みを感じる。内容としては、簡単な短文事例を用いて、刑法の各分野について解説していく、というものである。
網羅性も問題なく、解説も判例・多数説をベースに解説しており初学者ないし初めて演習を始めようとする者を対象にしていると思われるため、初めて演習問題を解こうとしている方が最も手に取りやすい書籍の1冊だと思う。
ただ、解説は基礎的な内容に終始しているので、この1冊で予備試験(は、これで十分かもしれないが、司法試験)に合格できるだけの知識や理解ができるわけではないことに注意されたい。
ちなみに、同書籍のコラムの「知っておきたい罪数のパターン」と「65条の各適用例」は短答用にも使える(ただし、すべての事例をカバーしているわけではないので注意されたい。)ので、同書籍を購入しない場合でも、ここだけコピーしておくと便利だと思われる。
※有斐閣で一部の項目について試し読みができるうえ、事例のみをピックアップした事例集もPDFでゲットできる。購入に迷っている方は、一度有斐閣のHPでそれらを確認してみるのも良いと思う。
(2) 刑法事例演習教材
刑法の事例演習書の決定版という位置づけである。
第3版によってアップデートされ、情報の古さも問題なくなったため、司法試験を見据えた勉強をしたい方や、より刑法について深い理解をしたい人が解くのに最適の1冊である。
という世間的な評価はしたものの、個人的には、解説が薄く解答例も示されていないことからすると、1人で使用するのには少し不向きなのではないかと思っている。
仮に同書籍を利用するのであれば、悩みどころを副読本として手元に置き、刑法事例演習教材の解説で理解しきれなかったところを悩みどころで補完していく必要があると思う。
(第2版からアップデートをしていないが…)僕のブログにもある程度の解答例があるので、それらを参照していくと良いと思う。
(3) 刑法事例の歩き方
2023年12月出版。554頁。
刑法事例演習教材を個人的には勧められないものの「じゃあ演習書はどれがいいんですか?」と聞かれたときに、他に勧められる書籍がなく困っていたのであるが、最近ついに自信をもって進められる書籍が登場した。
それが、この『刑法事例の歩き方』である(「歩き方」と省略したいと思う。)。こちらも法学教室に連載された内容を書籍化したものとなる。難易度としては、刑法事例演習教材よりもワンランク下という位置づけらしいが、あまり大きな差はないように思う。
歩き方の良いところは、実際に問題を解く際の思考過程や答案作成過程に合わせて解説が組み立てられており、まず論述の順序や問題意識を解説した後に、判例・学説を紹介し、その後にあてはめの解説、という流れを採用しているところである。また、判例・学説の解説もかなり深いところまで解説がされており、新司法試験まで十分に対応可能な書籍であるといえる。これからは、歩き方が刑法演習書のスタンダードになるものと予測する。ちなみに、徹底チェック刑法と刑法事例演習教材のリファレンスがされており、上記の2冊の演習書と一緒に用いるのにも使いやすい1冊といえる。
ちなみに、最後に「座談会――答案作成に向けた学習のポイント」という項目がある。有力な教授達が普段語らない答案作成方法についてかなり詳細に語っているので、こちらはぜひ必読されたい。
5.判例集
(1) 判例百選
2020年11月出版。224頁。
2020年11月出版。256頁。
定番であるが、刑法も判例集を買うのであれば判例百選一択だと思う。必要な判例はすべて網羅されているし、解説も必要十分な内容になっている。
(2) 判例刑法
2023年4月出版。574頁。
2023年4月出版。592頁。
各判例の事案と判旨を掲載する形式で、解説は付されていない。なので、悩みどころや歩き方などの解説で出てきた判例の判旨を確認するなどの利用には向いているが、これ単体では学習に向かないと思われる。
判例百選に掲載されている判例で必要十分だと思うので、個人的にはあまりお勧めをしないものの、多くの判例の判旨を確認したい方は、こちらの購入をお勧めする。
6.おわりに
かなり多くの書籍を紹介させていただいたが、冒頭にも記載したように、決して全ての書籍を購入することを勧めているわけではないことに注意してほしい。僕も、受験生の頃に全てを使用していたわけではない。
僕の書評を読んでいただいた上で、今の自分にとって必要な書籍はどれか、というのをしっかり吟味していただいた上で、各書籍を読んでみてほしい。
以上