法律解釈の手筋

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令和元年度 司法試験 民事訴訟法 解答例 

解答例 

第1 設問1 (以下、民事訴訟法は法名略。)

 1 課題(1)

 (1) Yは、本件定めがA地方裁判所を専属的合意管轄の合意であると主張するものであるが、本件定めは競合的合意管轄の合意にすぎず、本件訴訟はB地方裁判所の管轄にも属するため、「訴訟の全部又は一部が」A地方裁判所の「管轄に属しない」とはいえないと主張する。

 (2) 本件定めは「本件契約に関する一切の紛争は、B地方裁判所を第一審の管轄裁判所とする」と契約書で定めるものであるところ、合意管轄(11条1項、2項)の要件を充足する。

 (3) もっとも、本件定めは競合的合意管轄の合意にすぎないところ、本件訴訟はB地方裁判所の管轄にも属しないか。本件定めが専属的合意管轄の合意又は付加的合意管轄の合意のいずれであるかが問題となる。

   ア 専属的合意管轄であるか競合的合意管轄であるか明確でない場合には、当事者の合理的意思によって決するが、それも明確でない場合には、当該契約が附合契約であるときには、競合的合意管轄の合意であると考える。なぜなら、附合契約においては、一方当事者が専属的合意管轄の合意である旨を明確に定めることが可能であったにもかかわらずこれをしなかったという点から、競合的合意管轄を定める意思であることが合理的に推認されるといえるからである。

   イ 本件では、本件定めは、「B地方裁判所を第一審の管轄裁判所とする」と定めるにすぎず、付加的合意管轄の定めである旨が明確ではない。しかし、「第一審の専属的合意管轄裁判所とする」とも定めていないため、専属的合意管轄の定めである旨も明確でないといえる。次に、本件定めの解釈について当事事者の合理的意思も明確でない。そして、本件定めは、Yが用意した本件契約の契約書に記載されたものであり、一方当時者が定型的に定めた附合契約にあたる。

   ウ したがって、本件定めは競合的合意管轄の合意である。

 (4) 本件訴訟は、原状回復義務の履行としての400万円の金銭返還請求訴訟であるところ、義務履行地は債権者たるXの現在の住所、A市である(民法484条1項後段)。したがって、A市地方裁判所についても本件訴訟の管轄が認められる(5条1号)。

 (5) よって、本件訴訟はA地方裁判所に管轄にも属するため、「訴訟の全部又は一部が」A地方裁判所の「管轄に属しない」とはいえず、16条1項の要件を充足しない。以上より、かかる主張は認められる。

 2 課題(2)

 (1) 本件定めが専属的合意管轄であるとしても、17条の趣旨の類推適用により、例外的にA地方裁判所で審理されるべきであると主張する。

 (2) 確かに、17条は、当該訴訟が第一審裁判所の管轄に属する場合の規定であるため、専属的合意管轄の合意がなされた場合に、合意管轄の裁判所と異なる裁判所に訴訟が提起されたときは、17条を直接適用することはできない。

 (3) しかし、それでは訴訟遅滞や当事者の衡平をするおそれがある場合にも移送処理ができない結果、訴訟が進まないおそれがあり、妥当でない。

   ア そもそも、17条の趣旨は、公益上の観点から、他の管轄裁判所への移送を認める趣旨である。そして、専属的合意管轄についても、その性質は通常管轄である以上、公益上の要請から移送することは認められると考える。

     そこで、17条の趣旨を類推適用して、専属的合意管轄裁判所での審理が訴訟に著しい遅滞をもたらす場合や、当事者の衡平を害するおそれがあるときは、例外的に移送しないことも許されると考える[1]

   イ 本件では、原告Xの居住地及びLの事務所はA市中心部にある。また、Yは本店がB市にあるものの、全国各地に支店を有する会社であり、A支店はA市中心部に存在する。そして、本件車両は現在、XがA市にある自宅で保管しているところ、本件車両を証拠物として証拠調べ請求する場合には、A地方裁判所で審理が行われている方が、審理がしやすい。以上にかんがみれば、当事者及び訴訟代理人はA市に集中しており、B地方裁判所で訴訟することは当事者の衡平を害するし、かつ、証拠もA市に集中している以上、B市地方裁判所で訴訟をすることは審理を著しく遅滞するおそれがある。

   ウ したがって、16条2項、17条の趣旨の類推適用により、移送しないことが認められる。

第2 設問2

 1 ④の事実を認める旨の陳述に当事者拘束力の生じる裁判上の自白が成立しないか。

 (1)  当事者拘束力の生じる自白とは、相手方の主張する事実と一致する、自己に不利益な事実を認めて争わない旨の陳述をいう。当事者拘束力の趣旨は、第1次的には不要証効(179条)によって生じる相手方の信頼保護であり、間接的に、裁判所拘束力によるコスト管理の要請にある。 

そこで、「事実」とは、裁判所拘束力と同様に、主要事実に限ると考える。

    また、「不利益」かどうかは、基準の明確性から、証明責任の分配基準によって決すると考える。証明責任は、ある一定の法律効果が有利に働く者が、当該法規の要件事実について、証明責任を負う。そして、その要件事実は、実体法の趣旨を基準に、立証の難易、証拠との距離等によって微調整する。

 (2) 本件では、訴えの追加的併合がなされているところ、それぞれの請求との関係で検討する。

   ア 原状回復による400万円の金銭返還請求との関係

   (ア) 上記請求の要件事実は、(ア)XY間の本件契約締結事実(イ)Xの売買代金支払事実(ウ)Yの本件車両引渡事実(エ)Yの債務不履行(オ)催告及び相当期間の経過(カ)解除の意思表示である。

   (イ) ④の事実は、上記の要件事実を基礎づける具体的事実のいずれにもあたらず、法的効果の発生を基礎づける具体的事実たる主要事実に該当しない。本件事故が起きたという事実は、体重の軽い子供3人が上段ベッドに乗って壊れたということから、大人2名が上段ベッドに乗っても壊れたであろうことが経験則上推認されるところ、本件車両が、上段ベッドに2名が就寝可能であるという本件仕様を有していないことを推認させる事実にあたる。そして、本件仕様を有していないという事実は、エYの債務不履行を基礎付ける具体的事実たる主要事実であるところ、④の事実は、間接事実にあたる。

   (ウ) したがって、上記事実は、かかる請求との関係では自白にあたらない。

   イ 債務不履行に基づく損害賠償請求との関係

   (ア) 同請求の要件事実は、(a)XY間の本件契約締結事実(b)Xの売買代金支払事実(c)Yの債務不履行(d)Xの損害の発生及びその額(e)(c)と(d)との間の因果関係である。

      ④の事実は、前述のとおり、(c)Yの債務不履行の間接事実にあたる。もっとも、上記請求との関係では、④の事実は、本件事故によって本件損壊事実が発生したことを主張するものであるところ、(e)の、Yの債務不履行と損害の発生及びその額との間の因果関係を基礎付ける事実たる主要事実にもあたる。

   (イ) 上記事実はXも主張しているところ、XY間において一致している。また、因果関係の事実は、その損害賠償請求をする債権者の側に主張立証責任がある点について争いはないところ、債務者Yにとって不利益な事実にあたる。Yは本件訴訟の第1回口頭弁論期日において④の事実を認める陳述をしている。

   (ウ) したがって、④の事実は、かかる請求との関係では、自白にあたる。

 (3) よって、④の事実には当事者拘束力が認められる。

 2 もっとも、Yが④の事実を認めたのは、損害賠償請求が追加的併合される前であり、かかる時点では、400万円の金銭返還請求しかなく、④の事実は間接事実にすぎず、裁判上の自白は成立しない。このような場合に、訴えの追加的併合がされたとき、裁判上の自白の成立を認めてよいか。

 (1) 自白の意義は前述のとおりであり、その法的性質は観念の通知である。かかる法的性質からは、訴えの変更によって自白が成立するとしても、それを後から撤回することは許されないとも思える。

    しかし、当事者拘束力の間接的根拠である裁判所拘束力の趣旨は、私的自治の訴訟法的反映にあるところ、自白によって不利益を受ける当事者の意思が前提となっている。そうだとすれば、訴えの変更によって係争利益が大きく変わるときは、自白するかどうかの意思を釈明によって確認すべきであると考える。

 (2) 本件では、前述のとおり、損害賠償請求が併合されている。前訴の400万円の金銭返還訴訟だけであれば、Yとしては、原状回復請求権として400万円と等価性の認められる本件車両の引渡しを請求できるため、敗訴したとしても大きな損害とまではならない。しかし、損害賠償請求については、Yは100万円という新たな出捐を強いられるものであるから、Yにとって、原状回復請求訴訟と係争利益が大きく異なっているといえる。

 (3) したがって、裁判所は、かかる点についてYに自白をするかどうかの意思を確認すべきであり、Yがこれに応じない場合には、撤回が認められる。

第3 設問3

 1 まず、220条1号ないし3号には当たらないため、同条4号該当性が問題となる。

 2 同条4号該当性においては、同条4号二の自己専利用文書に該当するかどうかが問題となる。

 (1) 自己線利用文書にあたるかどうかについては、文書の作成目的、記載内容等の事情から判断して専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり、個人・団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過しがたい不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事情のない限り、自己線利用文書にあたると考える。

 (2) 個人のプライバシーにかかわる日記は上記要件を充足するところ、本件で証拠調請求されている書証が日記であることは考慮すべきである。

 (3) もっとも、本件日記の執筆者であるTは既に死亡しており、そのプライバシー要請の保護は後退しているのではないか、という事項は考慮すべきである。しかし、現在のZは、(ウ)のように述べており、なおプライバシーを保護すべきであるという事項も考慮すべきである。

 (4) また、現在の本件日記の所持者であるZによれば、本件日記には、(イ)の事実が記載されているところ、かかる部分についてはTのプライバシーの利益を侵害しないものであり、一部提出(223条1項後段)が可能であるという事項を考慮すべきである。

以上

 

[1] 2009(平成21)年度司法試験短答式民事系57問肢エ参照。