法律解釈の手筋

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令和2年度(2020年度) 東大ロー入試 刑事系 解答例

解答例

第1 設問1(本設問では、刑法は法名略)

1 Yの罪責

(1) Yが、Aを自働車(以下、Aを入れていた自動車を「本件車両」という。)後部のトランク内に入れ、よって、Aを死亡させた行為に、監禁致死罪(221条)が成立する。

ア 「監禁」とは、一定の場所からの脱出を困難にして移動の自由を奪うこと[1]をいうところ、Yは、Aを自動車後部のトランクに入れ、トランクのカバーを閉めて脱出不能にして移動の自由を奪っている。したがって、Yの上記行為は、「監禁」にあたる。

イ Aには死という結果が発生している。

ウ Yの上記行為とAの死との間には、本件車両に、Bが運転していた自動車(以下「B車両」という。)が、Bの前方不注意のため時速約60キロメートルで後方から追突したという介在事情が存在するものの、なお因果関係が認められる。

(ア) 法的因果関係とは当該行為に結果発生を帰責できるかという問題であるところ、当該行為の危険性が結果へと現実化した場合には因果関係が認められると考える。

(イ) 本件では、Aに死因となった傷害が生じたのは、本件車両にB車両が時速約60キロメートルで衝突したことによるところ、Yの上記行為そのものによってAに死因となった傷害が生じたわけではない。しかし、本件車両とB車両が衝突したのは、本件車両を路上に停止していたからであり、衝突行為はYが誘発したといえる。確かに、Bの過失行為は重大な過失であり介在事情として異常性を有するため、因果関係が否定されるとも思える。しかし、車のトランクというのは人が中に入ることを想定しておらず、人を防護する機能を有していない。そうだとすれば、軽微な衝突事故でもAが死亡する可能性が高かったといえる。このように軽微な事故でも重大な事故でも被害者が死亡する危険性がある以上、衝突事故というかたちで抽象化されると考える。したがって、Aの死因となった傷害は、Yの上記行為の危険性が結果へと間接的に現実化したといえる[2]

(ウ) したがって、Yの上記行為とAの死との間に因果関係が認められる。

エ よって、Yの上記行為に監禁致死罪が成立する。

(2) 以上より、Yの一連の行為に監禁致死罪が成立し、後述のとおり、Xと共同正犯が成立し、Yはかかる罪責を負う。なお、後述のXの占有離脱物横領罪については、Yには何らの犯罪も成立せず、罪責を負わない。

2 Xの罪責

(1) XYが共謀の上、Yが1(1)の行為をした点について、監禁致死罪の共同正犯(60条、221条)が成立する。

ア Xに共同正犯の客観的構成要件充足性が認められる。

(ア) 共犯の処罰根拠は、正犯者を介して法益侵害を惹起した点にあり、一部実行全部責任の根拠は、各犯罪者が役割分担を通じて、犯罪達成のために重要な寄与ないし本質的な役割を果たした点にある。

 そこで、①共犯者間の共謀及び②共謀に基づく実行行為が認められれば共同正犯の客観的構成要件を充足すると考える。

(イ) 本件では、XとYは、Aを拉致してXの別荘に連れて行って監禁することを計画しているところ、拉致する点において自動車での監禁についての意思連絡もあったといえる。また、XはYの兄貴分であり、本件計画立案について重要な役割を果たしている。さらに、AはXと対立する者であり、Xは自己の犯罪として行う正犯意思も有していた。したがって、XY間には共謀が認められる(①充足)。Yは、前述のとおり実行行為を行っており、かかる共謀に基づく(②充足)。

(ウ) したがって、Xは共同正犯の客観的構成要件を充足する。

イ よって、Xに監禁致死罪の共同正犯が成立する。

(2) Xが、A所有の家屋から現金、貴金属類(以下、「本件客体」という。)を持ち出した行為について、占有離脱物横領罪(254条)が成立する。

ア 本件客体は、Aたる「他人の物」である。

イ 本件客体は、A死亡によって、Aの「占有を離れ」ている。

(ア) 占有とは財物に対する事実上の支配をいう。そして死者に占有は認められないのが原則であるが、①被害者を死亡させた犯人との関係で②致死行為と窃取行為との間に時間的場所的連続性が認められる場合には、例外的に死者の占有が認められると考える[3]

(イ) 本件では、Xは監禁致死罪の共謀共同正犯であり、被害者を死亡させた犯人である(①充足)。もっとも、Xの上記行為は、Aの死から半日が経過しており、かつ、Aが死亡した場所から200キロメートル離れた時点での行為であるところ、時間的場所的連続性が認められない(②不充足)。確かに、Xの上記行為時点で、Aが死亡したことをAの親族や知人は気づいておらず、本件Aの家屋はAの死亡後から財産の管理状況に変動は生じていない。しかし、財産の管理状況の変動によって占有の有無を決するとすれば、時間的場所的連促成要件は意味をもたなくなる上、致死行為に関与していない者との関係でも占有を肯定されることになりかねない。

(ウ) したがって、本件客体はAの「占有を離れ」たといえる。

ウ よって、Xの上記行為に、占有離脱物横領罪が成立する。

(3) 以上より、Xの一連の行為に①監禁致死罪の共同正犯②占有離脱物横領罪が成立し、両者は併合罪(45条)となる。Xは、かかる罪責を負う。

第2 設問2(以下、刑事訴訟法は法名略)

1 第1に、本件差押えは、差押許可状記載の物件ではないため、差押許可状に基づく差押えとしては許されない。

2 第2に、本件差押えは、逮捕に伴う無令状の差押え(220条3項、220条1項2号)としても許されない。

(1) 本件では、Xの覚せい剤所持が判明しているため、現行犯逮捕の要件(212条1項)を充足する。したがって、本件差押え自体は、220条1項2号の要件を充足する。

もっとも、Xの現行犯逮捕に先行する、Xの身体を床に押さえつけて、ズボンのポケット内に手を入れ、ビニール袋を取り出した行為(以下、「本件行為」という。)は、無令状捜索として違法であり、かかる違法性が本件差押えにも承継される結果、本件差押えは違法である。

(2) 違法性の承継については、先行手続が違法な場合において、先行手続と後行手続との間に密接な関連性があるときは、先行手続の違法性の程度を十分考慮して、後行手続の違法性を判断すると考える[4]

(3) まず、本件行為は、逮捕に伴う無令状の捜索(220条3項、220条1項2号)の要件を充足せず、違法である。

ア 逮捕に伴う無令状の捜索が許される趣旨は、逮捕の現場には逮捕に係る被疑事実に関連する証拠の存在する蓋然性が一般的に高い点にある。そこで、捜索時点において、「逮捕する場合」、すなわち逮捕の要件を充足していることが必要である。

イ 本件では、Kは、Xが白い粉末上のものが入ったビニール袋を、テーブルの上からとって、ズボンのポケットに入れるのを目撃しているにすぎず、かかる物件が、覚せい剤であるかどうかについては明白ではない。以上にかんがみれば、Xが「現に罪を行」(212条1項)っているとはいえず、本件行為の時点で現行犯逮捕の要件を満たさず、「逮捕する場合」にあたらない。

ウ 本件行為は、Xの身体を床に押さえつけて行われており、Xの意思を制圧する。また、本件行為の部位は、ズボンのポケットという性器に近い隠し場所であり、ジャケットの内ポケットと異なってプライバシー保護の要請が非常に高い場所である。そうだとすれば、上記プライバシーの利益は客観的保護に値すると考える。したがって、このような部位から物を取り出すPの上記行為は、私的領域の侵入であり、人の身体について証拠物等の探索・発見を目的として行われる強制処分たる「捜索」(218条1項)[5]にあたる。

エ よって、本件行為は、違法である。

(4) 次に、Xの逮捕は、本件行為によって発見された覚せい剤によって現行犯逮捕の要件を充足しており、違法な先行手続によってもたらされた状態を利用している。また、本件差押は、かかる現行犯逮捕に伴う無令状差押えとしてなされており、現行犯逮捕を利用しているところ、一連の手続には同一目的・直接利用の関係が認められる。また、本件行為は、令状主義に反する重大な違法が認められる。

したがって、本件行為の違法性は、本件差押えに承継される。

(5) よって、本件差押は、逮捕に伴う無令状の差押え(220条3項、220条1項2号)としても許されない。

3 第3に、別の被疑事実に関する証拠物であることが一見明白な物件を発見し、それを緊急に保全する高度の必要性が認められる場合には、緊急差押え[6]として、裁判官の令状なしにその物件を差し押さえることが認められ、本件行為は、かかる緊急差押えの「必要な処分」(222条1項、111条1項)として許されないかが問題となるが、緊急差押えを定めた明文の規定は存在しないため、強制処分法定主義(197条1項但し書)に反し、許されない。

したがって、かかる観点からも本件差押えは許されない。

4 以上より、本件差押えは、違法である。

以上

 

[1] 山口青本・233頁。

[2] いわゆる間接実現類型の亜型。トランク監禁事件判決(最決平成18年3月27日)参照。橋爪連載(総論)・第2回91頁参照。

[3] 最判昭和41年4月8日刑集20巻4号207頁。

[4] 最判昭和61年4月25日刑集40巻3号215頁。

[5] 酒巻・100頁。

[6] 緊急差押えについては、酒巻・109頁参照。