法律解釈の手筋

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令和3年度(2021年度) 東大ロー入試 刑事系 解答例

解答例

第1 設問1(設問1では、刑法は法名略。)

1 Xが、Aに対し、同人の顔面を手拳で殴打し、よって同人を死亡させた行為に傷害致死罪が成立する。

2 Xが、A宅において、Aの写真にライターで火をつけたものの火が枕やベッドに燃え移らなかった行為について、非現住建造物放火罪(109条1項)が成立する。

(1) A宅は、Aが一人暮らしをしている家であり、かつ、Aは寝室に運ばれる前にすでに死亡していたものであるから、Xの上記行為時点においてA宅は「現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物」にあたる。

(2) Xの上記行為は、火の独立燃焼を惹起する現実的危険性を有する行為であり、非現住建造物放火罪の実行行為にあたる。

(3) 「焼損」とは、火が媒介物を離れて独立燃焼を継続するに至った状態をいうところ、本件では、媒介物であるAの写真が全て燃えると自然に消えたものであるところ、媒介物を離れることがなかった。したがって、Xの上記行為によって「焼損」には至らなかった。

(4) Xは、上記行為時、Aが意識を失ったにすぎないと誤信していたものの、故意(38条1項)が認められる。

ア 故意責任の本質は、反規範的行為に対する道義的非難にあるところ、主観的に成立する犯罪と客観的に成立する犯罪が同一の規範たる構成要件内で符合している限り、故意が認められる。また、異なる場合でも、構成要件が実質的に重なり合う限度で規範的障害を克服したといえ、軽い罪の故意が認められる。構成要件的重なり合いが認められるか否かは、①保護法益②行為態様の観点から決する。

イ 本件では、客観的には、A宅に対する非現住建造物放火罪が成立する。これに対して、Xの主観では、Aはまだ生きているものと誤信しているのであるから、A宅に対する現住建造物放火罪(108条)が成立する。そして、両者は、個人の生命身体を保護法益とするか否かという点では異なるものの、公共の危険の保護という限りで共通し(①充足)、放火行為という点で行為態様も共通する(②充足)。以上にかんがみれば、非現住建造物放火罪の限度で重なり合いが認められる。

ウ したがって、Xには非現住建造物放火罪の故意が認められる。

3 よって、Xの上記行為に非現住建造物放火罪が成立する。

4 なお、Xの上記行為に中止犯(43条但し書)は成立せず、必要的減免は認められない。

(1) 甲は、特に何らの中止行為も行っていないものの、「犯罪を中止した」といえる。

ア 同条但し書の趣旨は、犯行を自ら中止した者については避難可能性が減少する点にある。そこで、自然の因果経過によって結果発生が生じる場合には何らかの積極的結果防止措置が必要であるが、自然の因果経過によって結果発生が生じない場合には不作為をもって足りると考える。

イ 本件では、Xは、燃える写真の入った灰皿をサイドテーブルに置いたまま、窓から外に出て逃走している。灰皿は燃焼性がなく、そのままにしていれば写真は自然に鎮火するものであるから、不作為によって中止行為たり得るところ、Xの本件逃走行為は不作為にあたる。

ウ したがって、Xは「犯罪を中止した」といえる。

(2) もっとも、XはA宅の呼び鈴がなり、荷物の配達を知らせる声で慌てて上記中止行為に及んでいるところ、「自己の意思」によるものとはいえない。

ア 同条但し書の趣旨は、前述のとおりであるところ、行為者が外部的障害によらずに自発的に行動した場合には、自己の意思によるものといえる。もっとも、人の意思決定は少なからず外部的事情を受けるところ、当該事情が行為者に必然的に中止を決意させるものでない限り、自己の意思によると考える。

イ 本件では、Xは呼び鈴の音に慌てて窓から逃走しており、かかる事情は甲に必然的に中止行為を決意させるに足りる程度のものであったといえる。

ウ したがって、「自己の意思」によるとはいえない。

(3) よって、甲に中止犯が成立しない。

第2 設問2(設問2では、刑事訴訟法は法名略。)

1 本件DVDが伝聞証拠にあたるか。あたるとして、伝聞例外の要件を充足するか。

2 Bの供述部分について

(1) 本件DVDに録取されたBの供述部分は、伝聞証拠にあたるか。

ア 伝聞証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠であって、②当該公判廷外供述の兄用の真実性を証明するために用いられるもの、という。伝聞証拠の証拠能力が原則として否定される趣旨は、知覚・記憶・叙述・表現の各過程に誤りが介在するおそれがあるにも関わらず、反対尋問等によって信用性を判断できないところ、誤判防止の観点から証拠能力を否定する点にある。そこで、内容の真実性を証明するために用いられるか否かは、要証事実との関係で決すると考える。

イBの供述は、公判廷外供述であることは明らかである(①充足)。また、Bの供述によって、後述のとおりAの供述の存在と内容若しくはAの供述とおりの事実があったことを証明しようとするものである。そうだとすれば、Bの供述は、後述のとおり、Xに犯行の動機があったことを証明するものとしてその内容の真実性が問題となる(②充足)。

イ したがって、Bの供述部分は伝聞証拠にあたる。

(2) それでは、本件Bの供述部分に伝聞例外が認められるか。本件は検察官の面前におけるDVD録取が問題となっているところ、321条1項2号の要件を充足するか否かが問題となる。

ア まず、DVD録取部分は、公判廷外の供述を内容とするものであるが、DVDという機会による正確性によって知覚、記憶、叙述、表現の各過程に誤りが介在するおそれが低く、伝聞法則の趣旨が及ばない。したがって、321条1項柱書の供述者の署名・押印は不要であると考える。

イ 次に、Bは取調直後に交通事故により死亡しているため、供述不能要件(同項2号本文前段)を充たす。

ウ したがって、伝聞例外の要件を充足する。

3 Aの供述部分について

(1) 本件DVDには、Bの供述の中にAの供述も含まれるところ、再伝聞(324条2項)にあたるか。前述の基準により検討する。

(2) Aの供述は、公判廷外供述である(①充足)。もっとも、本件では、本件DVD及びA宅から発見されるであろう写真データから、Xに本件犯行の動機があったことを証明し、それによって、要証事実であるXの犯人性を推認するものであると考えられる。かかる場合、Aの供述の存在自体から、AがXの秘密を写した写真を提示する意思を有していたことを推認し、A宅のサイドテーブルにある燃えた写真様のものが残っている事実と併せて、AがXにXの秘密を写した写真を提示したことを推認することができる。以上にかんがみれば、本件DVDは、Aの供述の存在とその内容を問題とするものであって、内容の真実性を問題としない(②充足)。

(3) したがって、Aの供述部分は非伝聞である。

4 よって、本件DVDは、Bの供述部分は伝聞証拠にあたるものの、伝聞例外にあたり、証拠能力が認められる。以上より、裁判所は、本件DVDを証拠として採用し、取り調べることができる。

以上