法律解釈の手筋

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平成26年度(2014年度) 東大ロー入試 公法系 解答例

解答例

第1 設問1[1]

1 本件通達は、Xの思想良心の自由を侵害し、憲法19条に反し違憲ではないか。

2 まず、Xの君が代に対する否定的評価は、憲法19条の保護範囲に含まれるか。

(1) 君が代起立斉唱事件判決(以下「平成23年判決」という。)[2]によれば、君が代に対する考えは、X自身の歴史観ないし世界観から生ずる社会生活上ないし教育上の信念等ということができるとして、思想良心の自由の保障が及ぶと考えていると思われる。

(2) 「思想及び良心」の意義については、信仰に準ずべき世界観・人生観等個人の人格形成の核心をなすものという信条説がある。しかし、かかる見解にたったとしてもXの上記自由は憲法19条の保護範囲内に含まれると考えられるため、保護範囲については含まれることに争いはないと考える。

3 もっとも、本件通達はかかる自由を制約するか。

(1) 平成23年判決は、学校の儀式的行事における国歌斉唱の際の規律斉唱行為は、一般的、客観的にみて儀礼的所作としての性質を有し、かつ、外部からもそのように認識されるため、本件通達に基づく職務命令が上記自由に対する直接的な制約とはならないとする。一方で、規律斉唱行為は本来的に教員の日常業務には含まれない以上国旗及び国家に対する敬意の表明の要素を含むといえるとする。そして、そのような行為を命ずる本件通達に基づく職務命令は、Xの上記思想と異なる外部的行為の強制となり、間接的制約となる面があることを認める。

(2) かかる判例に対しては、思想良心の自由は個人の意思に基づくものであり、客観的な認識から制約の有無を判断すべきでないとの考え方もある。しかし、個人の精神的自由であるからといって少数者からの視点のみで制約の有無を決するとすれば、釈迦的機能不全を引き起こすおそれがある。また、判例は、起立斉唱行為について国旗及び国家に対する敬意の表明の要素を含むとしており、少数者に一定の配慮を示しているといえる。

したがって、判例の見解に賛成である。

また、本件では本件通達の合憲性が問われている。本件通達は、Y県立学校の各校長に対してなされているものであり、Xの行為自体を強制するものではない。しかし、その後Xの思想と異なるが外部的行為を強制する校長の職務命令は本件通達に基づくものである以上、本件通達の憲法適合性を問題とするのが妥当である。

4 それでは、本件制約は正当化されるか。

(1) 上記のとおり、私見は判例に賛成するところ、本件通達の目的及び内容並びに上記制約の態様等を総合考慮し、上記制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるかによって決すると考える。

(2) 入学式等において君が代を斉唱する目的は、入学式に参加する生徒に君が代が国歌であることを伝え、重要な式典の際に君が代を斉唱する慣習があることを伝える点にある。確かに、かかる慣習は諸外国においても行われており、重要な目的であるといえる。しかし、かかる目的を達成するために、教職員の国家斉唱時の起立斉唱が必要であるかは疑問である。教職員に対して起立斉唱を求める目的それ自体は、入学式等における円滑な進行を図る点にあるが、教職員が君が代の斉唱時に起立斉唱をしないことがどれだけ式典の進行を乱すことになるかは明らかでない。また、もし仮に乱すのであれば、当初から式典に参加しないという手段を取らせることもあり得るはずである。そうだとすれば、上記制約を許容し得る程度の必要性はないといえる。

したがって、本件制約は正当化されない。

5 よって、本件通達は、憲法19条に反し、違憲である。

第2 設問2 (以下、行政事件訴訟法は法名略。)

1 「一定の」処分(3条7項)とは、裁判所が請求を特定して判断可能な程度に請求が特定されていることをいうところ、本件では、本件職務命令違反に違反することを理由とするすべての懲戒処分としているところ、かかる処分は戒告・減給・停職処分の3つしかありえないため、裁判所の判断は可能といえる。

2 戒告・減給・停職処分はいずれも国民の権利義務を直接形成またはその範囲を画定する公共団体の法律上認められた行為であり「処分」である。

3 Y県教委は本件職務命令に違反した教職員に対し懲戒処分を行っているため、Xが本件職務命令違反により懲戒処分を受ける蓋然性は高く、一定の処分が「されようとしている」。

4 もっとも、「重大な損害を生ずるおそれ」(37条の4第1項)があるといえるか。

(1) 国民の権利利益の実効的な救済及び司法と行政の権能の適切な均衡の双方の観点から、「重大な損害」とは、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることになどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なもの[3]をいうと考える。

(2) 本件では、本件通達を踏まえて懲戒処分が反復継続的かる累積加重的にされる危険が現に存在しており、事後的な損害の回復が著しく困難である。したがって、執行停止による救済は容易ではなく、差止判決による事前救済の必要性がある。

(3) よって、「重大な損害」も認められる。

5 本件では、「損害を避けるために他に適当な方法がある」ともいえない。

6 以上より、本件差止訴訟は適法である。

第3 設問3[4]

1 法定外抗告訴訟であるとの主張について

法定外抗告訴訟とは、行政処分に関する不服を内容とする訴訟をいうと考える。

本件では、懲戒処分の予防を目的とする義務不存在確認訴訟であるが、かかる目的は法定広告訴訟である差止訴訟によって達成できるため、事前救済の争訟方法としての補充性を欠く。

したがって、かかる主張は認められない。

2 公法上の当事者訴訟としての確認訴訟(4条)であるとの主張について

(1) 確認訴訟では、確認対象範囲限定の必要性から、確認の利益が必要である。確認の利益とは、紛争解決のために必要かつ適切であることをいう。

(2) まず、本件職務命令に従う義務は現在の法律関係についてのものであり、確認対象の適切性はある。また、本件職務命令違反は勤務成績の評価を通じた昇給等に係る不利益という行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とするものであるため、差止訴訟とは異なる目的を有し、方法選択の適切性が認められる[5]。そして、かかる行政処分以外の処遇上の不利益も反復継続的かつ累積加重的にされる危険があり、Xの法的地位に現実の危険を及ぼすものであり、即時確定の利益がある。

したがって、本件訴訟は、紛争解決のために必要かつ適切といえる。

(3) よって、かかる主張は認められる。

以上

 

[1] 同様の事例を解説するものとして、木村草太『憲法の急所』第4章第1問、『判例から考える憲法』第2問参照。

[2] 最判平成23年5月30日参照。もっとも、上記の判旨が保護範囲について論じているかどうかは必ずしも明らかではない。むしろ、起立斉唱をしない自由、という行為自体を捉え保護範囲内にあるかどうかを論じていると読むこともできる。

[3] 最判平成24年2月9日参照。

[4] 前掲平成24年判決参照。

[5] 他に方法選択の適切性が認められる場合としては、①後続行為に処分性を認めることが困難な場合②今後なされる措置や不利益の内容が十分特定できない場合③将来受けるであろう不利益が刑事制裁である場合など、広告訴訟を適切に提起しがたい場合が考えられる。サクハシ・355頁参照。