法律解釈の手筋

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平成29年度(2017年度) 東大ロー入試 公法系 解答例

解答例

第1 設問1 

地方自治の本旨とは、権力分立と民主主義の学校という地方自治の意義にかんがみれば、住民自治と団体自治を意味する。

住民自治とは地方自治が住民の意思に基づいて行われるという民主主義的要素であり、団体自治とは地方自治は国から独立した団体に委ねられ、団体自らの意思と責任の下でなされる自由主義的・地方分権的要素である。

第2 設問2

1 地方自治体に外交権が認められるか。

2 地方自治体の法的性質は、地方自治という公法上の制度を保障することによって、間接的に地方自治の本旨を保障しようとするものである。

そうだとすれば、自治体外交権が地方自治の本旨に含まれる場合には「行政を執行する権能」として認められると考える。しかし、外交という事務は全国的な影響を有するものであり、国の責任においてなされるものである。したがって、「行政を執行する権能」として当然に地方自治の事務として認められるわけではないと考える。

3 よって、本問下線部ⓑを根拠として「自治体の外交権」を基礎づけることはできない。

第3 設問3

1 青少年育成条例では、法律で規制されている図書よりも広い範囲を有害図書としてその販売等を規制しているところ、「法律の範囲内」(憲法94条)とはいえず許されないのではないかが問題となる。

2 「法律の範囲内」かどうかは、両者の対象事項と規定文言を比較するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に、矛盾抵触があるかによって判断しなければならないと考える[1]

3 青少年育成保護条例の目的は、青少年の健全な育成を促進する点にあるのに対し、わいせつ物頒布等罪(刑法175条)の保護法益は性風俗の環境を保全する点にあるところ、両者の目的は同一とはいえないと思われる。そして、青少年保護育成条例の有害図書規制がわいせつ物頒布等罪の目的と効果を阻害するともいえない。

4 したがって、青少年保護育成条例の有害図書規制は憲法94条に反しない。

第4 設問4

1 国の委託または命令を受けて行う地方公共団体の事務は法定受託事務として行われる(地方自治法2条9項)。

2 法定受託事務とは、法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるものである(同項1号)。

3 法定受託事務は、機関委任事務が廃止されて規定されたものであり、3つの相違点がある。第1に、法定受託事務は、地方公共団体の事務とされており、法律または政令により委任されている点である。第2に、法定受託事務は、法令所管大臣等の地方公共団体に対する関与が実体的にも手続的にも制限されている点である。第3に、国地方係争処理委員会が設置された点である(同法250条の7)[2]

以上

 

[1] 徳島市公安条例事件判決(最大判昭和50年9月10日)参照。

[2] 以上の説明について樋口陽一ほか『憲法Ⅳ』(青林書院、2004年)267頁参照。