法律解釈の手筋

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平成30年 予備試験 行政法 解答例

解答例

第1 設問1[1]

 1 勧告について

 (1) 「処分」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。

 (2) Xは以下の主張をすべきである。

すなわち①本件勧告については49条の意見陳述の機会の付与という行手法21条1項類似の手続保障が与えられており、法が不利益処分であると認める趣旨である。②本件勧告に従わないと処分性の認められる公表がなされることが定められており(条例50条)、勧告に従わなければ相当程度の確実さをもって公表されることにかんがみれば、実行的な権利救済の観点から勧告の時点で処分性を認めるべきである。

 (3) もっとも、これに対してY県は以下の反論をすることが想定される。

    ①に対して、意見陳述の機会は聴聞よりも手続保障として弱い以上、不利益処分を認める趣旨とまではいえない。②に対して、そもそも後述のとおり公表にも処分性が認められない。また、公表が事業者に著しい不利益をもたらすことにかんがみれば、比例原則の観点から、勧告に従わないときに必ず公表されるわけではないといえる。したがって、相当程度の確実さをもって公表されるということもできない。

(4) 以上の反論を踏まえて、Xは以下の主張をすべきである。

   ①については、確かに聴聞手続よりは手続保障としては弱いものの、行政指導と勧告を明確に分けて勧告にのみ49条を規定していることにかんがみれば、不利益処分であるが聴聞手続よりも弱い手続保障を与えた趣旨ということができる。また、②については、勧告がされる場合、条例25条4号に違反すると知事が判断しているのであり、その後も事業者が同様の行為を行えば、公表を避けることはできない。

2 公表について

(1) Xは以下の主張をすべきである。

   すなわち、①公表によって事業者の名誉及び信用が毀損されるという法効果が生じる。また、②公表行為は事業者の信頼は失墜し事業継続が困難になる制裁的機能が認められる以上、権力的事実行為である。

(2) これに対して、Y県は以下の反論をすることが考えられる。

①に対しては、法的仕組みからすれば公表それ自体によって事業者になんらかの法的効果が生じるわけではない。②また、事業者の信頼の失墜という点も公表の結果にすぎない。したがって、公表行為は非権力的事実行為にすぎない

したがって、処分性が認められない。

 (3) 以上の反論を踏まえて、Xは、①について、名誉及び信用の毀損は事後的救済が困難である以上、抗告訴訟としての差止訴訟を認める必要があること、②について、公表による事業者の不利益が甚大なものである以上行政庁としても制裁的措置として公表行為を捉えていることをあわせて主張すべきである。

第2 設問2

 1 第1に、Xの行為は25条4号に該当しない以上、本件勧告は違法であると主張すべきである。

 (1) 25条4号及び48条に要件裁量が認められるか。

   ア 裁量が認められるか否かは、規定の文言、国民の権利義務の制約の程度、専門技術的判断の要否の観点から判断すべきである。

   イ Y県は、勧告処分は特にXに不利益な効果を及ぼすものではないことや、25条4号の文言及び48条の「消費者の利益が害されるおそれ」という文言は抽象的であることから、裁量が認められると反論することが考えられる。

   ウ これを踏まえて、Xは以下のように主張すべきである。

     すなわち、勧告は公表という制裁的措置につながる不利益処分である以上国民の権利義務を制約するものである。また、条例は消費者保護の観点からの不適正な取引行為の禁止をするものであり、専門技術的判断を要しない。以上にかんがみれば、25条4号及び48条の文言は若干抽象的ではあるものの、裁量を認める趣旨ではないと考えられる。

 (2) 本件では、Xの従業員の一部が、購入を断っている消費者に対して、(ア)「水道水に含まれる化学物質は健康に有害ですよ。」、(イ)「今月のノルマが達成できないと会社を首になるんです。人助けだと思って買ってください。」と繰り返し述べて浄水器の購入を勧誘していた。しかし、かかる勧誘は消費者を「威迫」するものではないし、「迷惑」をかける程度の勧誘でもない。また、水道水が有害であるとしても浄水器を買わなければならないわけではなくミネラルウォーターを購入すればよいだけであるし、従業員が会社を首になるということも消費者にとってはどうでもよいことであるから「消費者を心理的に不安な状態」にするとはいえない。また、欺罔的手段や執拗な勧誘等をしているわけではないから「正常な判断ができない状態」にするものでもない。

    したがって、Xの行為は25条4号に該当しない。

 (3) また、Xは今後は適正な勧誘をするよう従業員に対する指導教育をしたと主張しており、今後同様の勧誘がなされることはないと推察されるため「消費者の利益を害するおそれ」もないといえる。

したがって、48条の要件も充たさない。

 (4) よって、Xは以上の主張をすべきである。

 2 第2に、Xは、要件充足性が認められたとしても、本件勧告は比例原則に反して違法であると主張すべきである。

(1) 確かに、「できる」との文言を使用している以上、効果裁量を認める趣旨であるとY県に反論されることが想定されるものの、前述のXの主張のとおり48条に効果裁量は認められない。

(2) 本件では、Xの行為は25条4号及び48条の要件を充足するか微妙な事案であり、悪質性が低い。また、Xの違反行為はこれが初めてであり、違法の程度が低い上、上記勧誘を行っていたのはXの一部の従業員にすぎない。以上にかんがみれば、本件では少なくとも行政指導にとどめるべきであったにもかかわらず、勧告という重い処分をしたといえる。

(3) したがって、本件勧告は比例原則に反する。

   よって、Xは以上の主張をすべきである。

 3 第3に、Xは、もし仮に効果裁量が認められるとしても、裁量の逸脱・濫用(行訴法30条)が認められると主張すべきである。

 (1) まず、裁量が認められるとしても、事業者の権利義務を制約する侵害処分であることにかんがみれば、その裁量は狭いと考える。

    そこで、事実の基礎を欠くか、判断過程が合理性を欠く結果当該処分が社会観念上妥当を欠く場合には裁量の逸脱濫用が認められると考える。

 (2) 本件では、Xは意見陳述において、上記勧誘行為は従業員の一部がしたにすぎないこと及び今後は適正な勧誘をするように従業員に対する指導教育をしたことを主張しているにもかかわらず、かかる主張を受け入れていない。しかし、かかる事由は消費者保護の観点から定められた条例48条に基づく処分において考慮しなければならない事由であるといえる。それにも関わらずかかる事由を考慮しないことは、考慮不尽にあたり、判断過程に誤りがあるといえる。したがって、その結果本件勧告処分は社会観念上妥当を欠く。

 (3) よって、本件勧告に裁量の逸脱・濫用が認められる。

    以上より、Xは以上の主張をすべきである。

以上

 

[1] 消費生活条例の勧告→公表における処分性を検討するものとして、橋本博之『行政法解釈の基礎—「仕組み」から解く—』(日本評論社、2013年)80頁以下参照。