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令和3年度 予備試験 民事訴訟法 解答例

問題文

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解答例

 第1 設問1(以下、民事訴訟法は法名略。)

1 小問1

(1) 第1に、Yは、XY間には債権債務関係がないことを争うため、Zの側へ共同訴訟参加をすることが考えられるが、そもそもYには本件訴訟における被告適格が認められない上、本件訴訟でZに生じる既判力がYに拡張されないため、共同訴訟参加(52条1項)が認められない。

(2) 第2に、Yは、Zに対し所有権に基づく所有権移転登記手続請求を定立し、Xの側へ共同訴訟参加をすることが考えられる。

ア 債権者代位訴訟が提起されても、被代位債権の債務者は管理処分権を喪失しないところ(民法423条の5前段)、債務者Yは、上記請求について原告適格を有する。

イ 本件訴訟は係属中である。

ウ それでは、Yの上記共同訴訟参加が「合一にのみ確定すべき場合」(合一確定の必要性)であるといえるか。

(ア) 合一確定の必要性が認められる場合とは、第三者が原告又は被告の共同訴訟人として訴訟参加した結果、類似必要的共同訴訟又は固有必要的共同訴訟が成立する場合をいう[1]。そして、類似必要的共同訴訟にあたる場合とは、敗訴判決の確定によって既判力が訴訟参加人に拡張され、訴訟参加人の裁判を受ける権利が損なわれる場合であると考える。

(イ) 本件では、Xが本件訴訟に敗訴した場合、後述のとおりXに生じた既判力がYに拡張される。

(ウ) したがって、Yの上記共同訴訟参加は、「合一に確定すべき場合」にあたる。

エ よって、Yの上記共同訴訟参加は認められる。

オ もっとも、Yは、共同訴訟参加による場合、例えば、Xが被代位債権の存在を基礎づける事実を主張し、これをZが自白したような場合、当該自白は原告側にとって有利な訴訟行為である以上、これをYが争うことができないと考えられる。そうだとすると、本件のようにYがXY間に債権債務関係はないと考えているような場合には、Yは、Xに対しても牽制する地位を得る必要があるため、独立当事者参加によるべきであると考える[2]

2 小問2

(1) Yは、Xに対して本件不動産をYZが共有することの確認の訴えを提起して、独立当事者参加をすることが考えられる[3]

(2) まず、権利主張参加(47条1項後段)として上記参加が認められるか。

ア 独立当事者参加の制度趣旨は、片面参加が許容された現在においては、本訴の原告の請求認容により自己の不利益を被ることになる第三者による牽制を認める点にある(第三者保護説)。そして、ここでいう「自己の不利益」とは何かが問題となる。本訴請求認容判決や訴訟上の和解が本訴当事者間で成立することによって、本訴原告の権利に裁判所によるお墨付きが付くという不利益を意味すると考える見解がある。しかし、これでは補助参加との区別がつかない点で妥当でない。そこで、補助参加の利益との区別の観点から、「自己の不利益」とは、単なる事実上の不利益を超えて参加人の権利実現が困難になるという強い事実上の不利益を意味すると考える。したがって、「訴訟の目的……第三者」とは、参加人の権利実現の困難となるおそれが認められる第三者をいうと考える。もっとも、本訴当事者間の訴訟上の和解等の自由な訴訟追行を制約することとの均衡の観点から、参加人は、自己の権利実現の困難性の主張だけでなく、その疎明も要すると考える[4]

イ Xは、本件訴訟において、ZからYに対して遺産分割を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める訴えを提起しているところ、本件訴訟にかかる請求が認容されたとしても、本件不動産の所有権移転登記がYへ移転するだけであり、Yとしては、その後Zへ再度登記を戻せばよいのであって、権利の実現が困難となるようなおそれはない。

ウ したがって、Yは「訴訟の目的……第三者」にあたらず、権利主張参加が認められない[5]

(3) 次に、詐害防止参加(47条1項前段)が認められるか。

ア 独立当事者の制度趣旨は前述のとおりであるところ、「権利が害される……第三者」とは、単に本訴当事者が詐害意思を有しているのみでは足りず、判決効が及ぶ第三者を意味すると考える[6]

イ 本件では、Yは、後述のとおり本件訴訟の確定判決により生じるXの既判力が拡張される者である。

ウ したがって、Yは「権利が害される……第三者」にあたり、詐害防止参加が認められる[7]

第2 設問2

1 本判決の既判力がYに及ぶか。

(1) 既判力とは、前訴確定判決の後訴における通有性をいい、その趣旨は紛争の一回的解決という制度的要請にあり、その正当化根拠は手続保障充足に基づく自己責任にある。そこで、既判力は、手続保障の与えられていた訴訟当事者間にのみ及ぶのが原則である(115条1項1号 相対効原則)。

本件判決はXZ間の訴訟における判決であるため、Yに既判力は及ばないのが原則である。

(2) もっとも、それでは紛争の蒸し返しにつながり、妥当でない。

ア 法定訴訟担当の場合、法定訴訟担当者による代替的手続保障が認められるため、例外的に被担当者にも判決効が及ぶと考える(115条1項2号)。

イ 債権者代位訴訟の債権者は、民法423条1項本文に基づく管理処分権を与えられていること、債権者代位訴訟の相手方となる第三債務者に二重応訴の負担を負わせることは妥当でないことから、法定訴訟担当者であると考える。したがって、本件訴訟のXは、Yの法定訴訟担当となる。

ウ よって、本件判決のXに生じる既判力は、Yに拡張される。

2 本件判決の効力はAに及ぶか。

(1) まず、Aは、本件訴訟の当事者やXの被担当者ではない。また、Yとの関係においても、115条1項2号ないし4号の既判力が拡張される場合にはあたらないため、既判力の拡張は認められない。

(2) それでは、本件判決の既判力が拡張されたYとの関係で、いわゆる反射効がAに及ばないか。

ア 反射効とは、当事者間に既判力の拘束のあることが、当事者と実体法上特殊な関係すなわち従属関係ないし依存関係にある第三者に反射的に有利または不利な影響を及ぼすことをいう。まず、反射効ないし既判力の拡張を実体法的観点から認める見解があるが、これは、既判力が訴訟法上の効果のみ持つとすることと整合しない。次に、判決効拡張の根拠から、その根拠が妥当する場合には反射効を肯定してよいとする見解がある。しかし、かかる見解は、債権者勝訴の場合の保証人には反射効が及び、債権者敗訴の場合の保証人には反射効が及ばないという結論の違いが説明できない。そこで、このような明文の規定がなく、明確な基準が存在しない反射効を認めることはできないと考える。

イ したがって、本件においても、Yに拡張された判決の効力の反射効はAに及ばない。

(3) また、反射効とは別に、Yに拡張される既判力が、反射的効果として、あるいは既判力類似の効力として拡張されるとする見解[8]もあるが、内容が不明確であり、法律上の根拠も欠くため、これも認められない。

(4) よって、本件判決の効力はAに及ばない[9]

以上

 

[1] リークエ・590頁。

[2] 長谷部・366頁。

[3] 債務不存在確認訴訟を提起することも考えられる。どちらを提起するかで、論じる内容が異なることにはならない。権利主張参加の場合、請求(訴訟物)又は請求の趣旨の非両立性(以下、単に「請求の非両立性」と記載することもある。)から判断する見解に立ったとしても、脚注(4)のとおり、本問の事案では、そもそも当事者適格の非両立性を問題にすることができず、請求の非両立性で検討することになるが、その場合、共有権確認訴訟、債務不存在確認訴訟のいずれであっても、非両立という結論で異ならないと思われるからである。詐害防止参加の場合、詐害意思説、判決効説いずれによっても、請求の内容によって参加の可否が異なることはないからである。

[4] 畑瑞穂「多数当事者訴訟における合一確定の意義――独立当事者参加訴訟を中心に――」福永古稀(2005年)・142頁及び145頁、菱田雄郷「独立当事者参加につて――権利主張参加を中心に――」小島古稀(2008年)699頁、八田卓也「独立当事者参加における民事訴訟法四〇条準用の立法論的合理性に関する覚書」490頁以下参照。近時は、独立当事者参加が40条を準用していることが「立法の過誤」なのではないかとの指摘がされ、独立当事者参加の規定を削除すべきであるとの立法論が有力に主張されているところである。畑教授、菱田教授、八田教授の上記各論文は、なお独立当事者参加の立法論的意義を見出すため、参加要件を限定的に解する見解であり、近時の有力説である。なお、「立法の過誤」を主張する見解については、三木浩一「多数当事者訴訟の審理ユニット」同『民事訴訟における手続運営の理論』(有斐閣、2013年)・特に218頁以下、山本弘「権利主張参加の要件について――不動産の二重譲渡事例を中心として――」同『民事訴訟法・倒産法の研究』(有斐閣、2019年)・337頁。個人的には、立法の過誤説を支持するものであるが、本問との関係では採りえないため、本文では、参加要件を限定的に解する見解に立って検討している。

[5] いわゆる請求の非両立性で判断する見解に立つ場合には、債権法改正によって債務者の管理処分権が喪失されなくなったこととの関係で(民法423条の5参照)、なお権利主張参加が認められるか(最判昭和48年4月24日民集27巻3号596頁のとの関係で、どのように考えるか)を論じることになると思われるかもしれないが、そもそも本件の事案では、YがZに対して給付訴訟を提起しない以上、423条の5の管理処分権の問題とはならない。423条の5の管理処分権の問題は、YのZに対する給付訴訟の問題であって、YのXに対する訴訟の話ではない。換言すれば、YがXに対して提起する共有確認訴訟又は債務不存在確認訴訟は、平成29年の債権法改正前においても、Yに当事者適格が当然に認められるものであり、XのZに対する給付訴訟との関係で、当事者適格の非両立性が問題とならない。したがって、請求の非両立性で判断する見解に立つ場合、当事者適格の非両立性ではなく、単純に請求の非両立性で判断せざるを得ないと思われる。その場合、共有権確認訴訟であれば、登記移転請求権がYの単独所有権を前提にしているため、請求が非両立といえそうであるし、債務不存在確認訴訟であれば、登記移転請求権がXのYに対する貸付債権の存在を前提にしているため、請求が非両立といえそうである。したがって、権利主張参加が認められるかもしれない。しかし、更に検討すると、権利主張参加を認めるほどの強い牽制の必要性がYにあるのか、問題があるように思われる。例えば、債務不存在確認訴訟であれば、XZ間訴訟が終了した後に、XのYに対する貸金返還請求訴訟においてYは争うことが充分可能であるし、共有権確認訴訟であれば、XZ間訴訟が終了して、XがZの登記をYに移転したとしても、後からYが勝手にZに登記を戻せば良いだけであるといえる。したがって、例えばZがXの請求を何ら争っていないような場合に、Yが訴訟参加をしてまで、あえて当該訴訟で争わせる必要性がどこまであるかは疑問となる。これは、そもそも独立時当事者参加が40条準用をしていることが立法の過誤ではないか、という問題意識に関連する。請求又は請求の趣旨の非両立性で判断する見解が、広範に権利主張参加を認めるため、40条準用が過剰な規制となってしまっているのである。この点については、脚注(4)の各論文を参照。

[6] いわゆる判決効説。兼子体系・412頁、畑・前掲注(4)142頁。新堂・845頁も、判決効の及ばない参加人への40条準用を否定するため、実質的に判決効説と同じ帰結となる。かかる見解に立つ場合、判決効が第三者に及ぶ場合には、その第三者は係属中の訴訟に共同訴訟的補助参加することで介入権を行使できる以上、立法論的には、詐害防止参加の規定を削除すべきことになる。

[7] 詐害防止参加との関係では、詐害意思説、判決効説いずれにおいても、請求の定立内容が詐害防止参加の可否に関わらない。そもそも請求の定立を要するかについて争いのあるところである。髙橋重点講義(下)・520頁は「請求なき当事者」を認めるのであり、かかる見解の存在からも、請求の内容は詐害防止参加の可否に影響しないことが分かる。なお、判例(最決平成26年7月10日集民第247号49頁)は、これを否定する(ただし、山浦裁判官の反対意見あり)。

[8] このような反射的効果としての効力の拡張を認める見解として、伊藤・665頁。何が拡張されるかは定かではないが、新堂・789頁もこの見解に近い。

[9] 類似必要的共同訴訟との関係での説明ではあるが、瀬木・538頁は、反射効を認めない。松本=上野・711頁も参照。