法律解釈の手筋

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令和3年度 予備試験 刑法 解答例

解答例

第1 乙の罪責(以下、刑法は法名略。)

1 乙が、Xの介護に疲れ果てたことから、同人を殺害しようと決意し、某月30日、自宅において、手で同人の首を絞め続け、よって、同所において、同人を窒息により死亡させた行為について、殺人罪(199条)が成立する。

(1) 乙の上記行為は、Xの生命侵害を惹起するに足りる現実的危険性を有する行為であり、「人を殺」す行為にあたる。

(2) Xは、死亡し、甲の上記行為との間に因果関係も認められる。

(3) Xは同月25日からしばしば「死にたい。もう殺してくれ。」と言っていたが、同発言はXの真意ではなく、乙もXの真意を認識していたため、乙には、殺人罪の故意(38条1項)が認められる。

(4) よって、乙の上記行為に殺人罪が成立する。

2 以上より、乙の一連の行為には殺人罪が成立し、乙はかかる罪責を負う。

第2 甲の罪責

1 甲が、某月16日夜、Yの自宅において、Y管理に係る甲所有の帳簿(以下「本件帳簿」という。)を持ち出して窃取した行為について、窃盗罪(235条、242条)が成立する。

(1) 本件帳簿は甲の所有権に帰属するものであるから、「他人の財物」(235条)にはあたらない。しかし、本件帳簿は、甲の「自己の財物」であり、かつ、Yは不法に本件帳簿を占有しているものの、以下のとおり「他人が占有」しているといえるため、「他人の財物」とみなされる(242条)。

ア 242条の趣旨は、自力救済禁止の原則による事実的財産秩序の保護にあるところ、保護法益は占有権であると考える。そこで、行為者自身が所有する財物であっても、他人が事実上支配している場合には「他人が占有」すると考える。

イ 本件では、Yは本件帳簿をY宅にて管理していたところ、Yの事実上の支配が及んでいたといえる。

ウ したがって、本件帳簿はYはという「他人が占有」していた。

(2) 甲の上記行為は、Yという他人が占有する財物を、Yの意思に反して自己の占有に移転し「窃取」した。

(3) よって、甲の上記行為に窃盗罪が成立する。

2 甲が、同日深夜、自宅近くの漁港防波堤付近において、自己所有に係る本件帳簿に、所携のライターで点火して放火し、よって、本件帳簿を焼損し、そのまま放置すれば、本件帳簿を経て上記防波堤に駐車してあった原動機付自転車及び上記防波堤周辺の釣り人を焼損させるおそれのある危険な状態を発生させ、もって公共の危険を生じせた行為について、建造物等以外放火罪(110条2項)が成立する。

(1) 甲の上記行為は、本件帳簿という建造物等(109条、110条)以外の物に点火する行為であり、「放火」する行為にあたり、同行為によって、本件帳簿は独立燃焼を継続するに至り「焼損」した。

(2) 「公共の危険」とは、108条109条に規定される建造物等に対する延焼の危険の他、特定又は多数の人の生命、身体又は建造物等以外の財産に対する危険も含まれる。本件では、防波堤に山積みにされていた魚網に本件帳簿の火が燃え移ったことで、原動機付自転車に延焼する危険や、釣り人5人が本件帳簿の焼損により発生した煙に包まれているところ、特定の人の生命、身体や財産に危険が生じたといえる。したがって、本件では、「公共の危険」が発生したといえる。

(3) 甲には、放火の故意が認められる(38条1項)。なお、上記行為の際、魚網、原動機付自転車及び釣り人の存在をいずれも認識していなかったものの、かかる点は、甲の建造物等以外放火罪の成否を左右しない。

ア 110条1項は、公共の危険の発生を加重結果とする結果的加重犯として理解できるところ、公共の危険に対する認識は不要であると考える。

イ 本件でも、甲が上記行為の際、魚網、原動機付自転車及び釣り人の存在をいずれも認識していなかったことは、甲の故意が認められない事情とはならない。

(4) よって、甲の上記行為に建造物等以外放火罪が成立する。

3 甲が、某月30日、自宅において、乙の上記第1の1の行為を目撃した際、Xが乙に事故の殺害を頼み、乙がこれに応じてXを殺害しているのだと誤信しながら、乙を制止せずにその場から立ち去った行為に、同意殺人罪の幇助犯(202条後段、62条1項)が成立する。

(1) まず、甲の上記行為について、甲が乙を道具として利用して因果経過を支配したといえるような事情はないため、甲に殺人罪又は同意殺人罪の間接正犯は成立しない。

(2) 次に、甲には、乙との間で、Xに対する殺人罪又は同意殺人罪を行う旨の意思連絡すなわち共謀も認められないため、殺人罪又は同意殺人罪の共同正犯も認められない。

(3) 甲の上記行為は、殺人罪の「幇助」行為にあたる。

ア 幇助とは、実行行為の遂行を促進し構成要件該当事実の惹起を促進することをいう。そして、不作為によっても幇助行為はなしうるものの、自由保障機能の観点から、作為との構成要件的同価値性が必要であると考える。すなわち、①作為の容易性・可能性を前提とした②作為義務違反が必要であると考える。

イ 乙の第1の1の行為は、甲の自宅で行われており、甲の自宅には甲、乙及びXしか居住していないことにかんがみると、甲以外の者に、乙の犯行を阻止する措置を講ずることを期待することは困難であるといえる。また、Xは甲の実父であり、甲はXに対して扶養義務を負うところ(民法877条1項)、一定の身分関係が認められる。さらに、乙は甲の妻であり、甲は乙に対して相互扶養義務を負うところ(民法752条)、乙との関係でも一定の身分関係が認められる。以上にかんがみれば、甲は、乙に声をかけたり、乙の両手をXの首から引き離そうとしたりする法益保護義務及び犯罪阻止義務を負うと考える。かかる義務の履行は容易であったにもかかわらず(①充足)、甲は上記行為のとおり、かかる義務を履行していない(②充足)。

ウ したがって、甲の上記行為は、「幇助」にあたる。

(4) 甲の幇助行為と乙の実行行為との間には、因果性が認められる。

ア 共犯の処罰根拠は、正犯者を介して法益侵害を惹起した点にある(因果的今日反論)。したがって、幇助行為と実行行為との間に、因果性が必要である。不作為による共犯についても同様であり、正犯者による構成要件実現が促進・強化されれば足り、結果回避可能性までは必要ではないと考える。

イ 本件では、甲が上記作為義務を履行した場合には、乙の犯行を直ちに止めることができた可能性は高かった以上、甲の不作為によって構成要件の実現が促進・強化されたといえる。

ウ したがって、甲の幇助行為と乙の実行行為との間に因果性が認められる。

(5) もっとも、甲は、乙が、Xの依頼に基づいてXを殺害することにしたと誤信しており、殺人罪の故意が認められない(38条2項、38条1項)。

(6) したがって、甲には殺人罪の幇助犯は成立しない。

(7) もっとも、甲には、同意殺人罪の幇助という故意に対応する客観的構成要件充足性が認められる。

ア 構成要件は違法有責行為の類型化であり、その該当性は規範的に検討すべきである。そこで、構成要件の実質的重なり合いが認められる場合には、構成要件の重なり合う限度で軽い罪の構成要件充足性が認められると考える。そして、構成要件が重なり合うかどうかは①保護法益と②行為態様から考える。

イ 本件は、甲の主観では同意殺人罪の幇助であり、客観的には殺人罪の幇助が問題となっている。同意殺人罪と殺人罪は人の生命という保護法益の限度において両者は共通し、かつ、「殺」す行為という行為態様も共通している。

ウ したがって、軽い罪である同意殺人罪の限度で、構成要件の実質的重なり合いが認められる。

(8) よって、甲の上記行為には、同意殺人罪の幇助犯が成立する。

4 以上より、甲の一連の行為に①窃盗罪②建造物等以外放火罪③同意殺人罪の幇助犯が成立し、それぞれ行為態様も侵害法益も異なる以上併合罪(45条)となり、甲はかかる罪責を負う。

以上