法律解釈の手筋

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東大ロー期末試験 上級民事訴訟法 2017年度(松下淳一問) 解答例

 

解答例

 

第1 第1問 小問1

 1 理由付否認とは、相手方の主張する事実と両立しない事実を積極的に主張する陳述[1]をいう。

 2 本件訴訟物は、Xの甲建物所有権である。Xはかかる権利の発生を基礎付ける事実      として、「自分が甲建物を建築した」との主張①をしている。Xが甲建物を建築したのであれば、Xが甲建物の所有権を原始取得するため、請求原因事実となる。これに対して、Yの主張②は「甲建物を建築したのはYである」との主張であるが、かかる主張はXの上記主張と両立しない。

 3 したがって、主張②は主張①との関係で理由付否認にあたる。

第2 第1問 小問2[2]

 1 裁判所の心証によれば、現在甲建物はXとYの共有に属することになるところ、甲建物の2分の1の共有持分権の限りでの一部認容判決をすることができるか。処分権主義(246条)に反し、許されないのではないか。

 (1) 処分権主義とは、原告がその石で訴訟を開始させ、かつ審判の対象を設定・限定することができ、さらに当時者がその石で判決によらずに訴訟を終了させることができるとする規律[3]をいい、その趣旨は私的自治の訴訟法的反映にあり、その機能は被告への不意打ち防止にある。

    そこで、①原告の合理的意思に反せず、②被告への不意打ち防止にならない場合には、原告の申立事項と異なる判決も許されると考える。

 (2) 本件訴訟物はXの甲建物所有権である。これに対して、裁判所の判決はXの甲建物の2分の1の共有持分権を有することの確認判決であり、申立事項と異なる。しかし、共有持分権の法的性質は複数の所有権が併存し、相互に制約しているものであり、単独所有権と共有持分権は実体法上包含関係にあると考える。そうだとすれば、裁判所の本件一部認容判決は、いわゆる質的一部認容判決にあたる。そして、原告としては、できる限り甲建物について自己の権利が認められることを望むはずであるため、請求棄却判決ではなく共有持分権確認の一部認容判決をすることは合理的意思に反せず(①充足)、また、被告Yとしても、一部認容判決は甲建物にXの所有権が認められるよりは有利であり、不意打ちとはならない(②充足)。

 (3) したがって、裁判所は、甲建物の2分の1の共有持分権の限りでの一部認容判決をすることができる。

 2 もっとも、XYは、Aからの相続によって、甲建物がXYの共有になったという法律構成に気づいていない可能性がある。このような場合に裁判所が上記判決をすることは、結果的に当事者に不意打ちを与える危険がある。そこで、裁判所は、かかる法的観点をXYに指摘し、当事者に攻撃防御を尽くさせるべきである[4]。また、一部認容判決を基礎づける事実の主張はYがしており、Xはかかる主張を援用していない。このような場合に裁判所が上記判決をするとなると、原告の求めていない判決をすることになるおそれがあり、Xに不意打ちを与える危険がある。そこで、裁判所は、Xに対し、上記一部認容判決をしてよいかの釈明をすべきである[5]

第3 第2問 小問1

 1 まず、本件におけるZの訴訟参加がいかなる類型のものであるか。

 (1) Zは当事者として参加しているため、補助参加(42条)でないことは明らかである。また、ZはXの提訴前に係争物たる貸金返還債権を譲り受けたと主張しているため、参加承継(49条1項)もあり得ない。そして、XのYに対する既判力がZに及ぶこともない(115条1項各号参照)ため、共同訴訟参加(52条1項)もなし得ない。

 (2) XのYに対する貸金返還請求権とZのYに対する貸金返還請求権は、同一の発生原因に基づくものである。また、XとZは同債権について前主後主の関係にあり、ZはXに対して対抗要件なく自己の債権の帰属を主張できるため、両債権は実体法上両立しえない。したがって、Zは、本訴請求との関係で、「訴訟の目的の……主張する第三者」(47条)にあたる。

 (3) よって、ZはXY訴訟に独立当事者参加したものと考えられる。

2 独立当事者参加において、通説は、Yの本問のような認諾を無効と考える。理由は、以下のとおりである。

   通説によれば、独立当事者参加の制度趣旨は、事実上の合一確定の要請にあるとされる。すなわち、本訴請求において参加人に不利な判決がされることにより、訴訟外で事実上不利な地位に置かれる参加人を保護するため、本訴請求に牽制権を与える点にある。このような立場からは、事実上の合一確定に反する当事者の訴訟行為は無効と考えられる。

   本件において、Yが本訴請求において認諾することを認めるとすれば、ZがXの請求認容を阻止するために本訴請求に独立当事者参加した意義が失われることになる。そうだとすれば、Yの請求認容は、合一確定の要請に反する。

3 よって、通説によれば、Yの認諾は無効である。

第4 第2問 小問2[6]

 1 (ⅰ)について

 (1) ZのYに対する請求とZに対する請求について

   ア Zが控訴している以上、上記請求は控訴審に移審する。

   イ 裁判所は、「XのZへの債権譲渡は有効で、現時点での当該貸金返還請求権の帰属者はZである」との心証を形成しているため、原審を破棄し、Zの両請求を認容する判決をしなければならない。

 (2) XのYに対する請求について

   ア この点について、多数説は、Xが控訴審について控訴人の地位につくか、被控訴人の地位につくか、控訴での当事者としての地位を有しないかの見解の違いはあるものの、XのYに対する請求は控訴審に移審した上、原判決を破棄し、XのYに対する請求を棄却しなければならない、とする。判例も、上記結論を採る。

     かかる判決は、Yが控訴していないにも関わらず、Yに有利に判決を変更することになるため、利益変更禁止の原則(304条)に反することになる。しかし、かかる処理をしないとすると、独立当事者参加が目指した事実上の合一確定の要請という趣旨が没却されることになる。そこで、利益変更禁止原則よりも合一確定を重視し、上記処理を認める[7]

   イ しかし、かかる結論は妥当でない。

   (ア) そもそも、独立当事者参加における本訴請求と参加請求は既判力が抵触する関係にはなく、法律上の合一確定の要請は働かない。事実上の合一確定の要請のみをもって法律上の合一確定の要請を規律する40条が準用されることは過剰な規律であり、すなわち、立法の過誤である。

      そこで、40条準用は制限的に解釈されるべきである。

   (イ) 本件における本訴請求と参加請求は、せいぜい同時審判申出共同訴訟が妥当する関係であるところ、同時審判申出共同訴訟の場合は、上記のような移審の効果まで保障するものではない。

      したがって、Yが控訴していない本件において、XのYに対する請求は移審しないと考える。よって、裁判所は、XのYに対する請求については何らの判決もすべきでないと考える[8]。なお、この場合Yは両負けという結果になり妥当でないとも思えるが、それはYが控訴しなかった結果であり、不都合はない。このようなことは同時審判申出共同訴訟でも起こりうるものである。

 2 (ⅱ)について

 (1) XのYに対する請求について

    まず、裁判所は当該貸金返還請求権がZに帰属するとの心証を形成した以上、XのYに対する請求は理由がないことになるため、原判決を破棄し、請求棄却判決をすべきである。

 (2) ZのXに対する請求およびZのYに対する請求について

    私見によれば、Zが控訴していない以上、上記両請求は移審しない。したがって、裁判所は、上記両請求について何らの判決もすべきでない[9]

以上

 

[1] LQ226頁参照。

[2] モデル判例として、最判平成9年3月14日及び最判平成9年7月17日参照。本問を具体的に論じたものとして高橋宏志・重点講義(上)733頁以下、山本和彦「法的観点指摘義務違反による既判力の縮小」『民事訴訟法の現代的課題』(有斐閣、2016)284頁以下参照。

[3] 高橋概論102頁参照。

[4] 前掲平成9年7月判決の判示する釈明義務である。

[5] 私見。かかる釈明は義務とまではいえないが、前掲平成9年7月判決の藤井補足意見のように、所有権確認の訴えで共有持分権確認判決をすることは申立事項を超えるとの理解もありうるところであり、原告の意思を確認したほうが望ましいという観点からの釈明である。

[6] 本問と同様の問題を論じるものとして、『ロースクール演習民事訴訟法[第2版]』(法学書院、2018年)問題31参照。また、高橋宏志・重点講義(下)534頁以下参照。

[7] もし仮に、かかる結論を指示する場合には、Xが控訴においていかなる地位に立つかの論証をもう少し展開すべきと思われる。

[8] 以上の見解について、『民事訴訟における手続運営の理論』(有斐閣、2013)特に246頁参照。

[9] 通説によっても、本問の場合はZの両請求は移審しないと考えられている。参加人Zが控訴していない以上、事実上の合一確定の要請は維持しなくともよいと考えられるからである。高橋宏志・重点講義(下)534頁参照。