法律解釈の手筋

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東大ロー期末試験 上級民事訴訟法 2016年度(松下淳一問) 解答例

 

解答例

 

 

第1 第1問 小問1 (以下、民事訴訟法は法名略。)

 1 抗弁とは、請求原因と両立し、かつ、請求原因が存在することによる権利の発生を障害し、これを消滅させ、又は権利の行使を阻止する法律要件に該当する事実[1]をいう。

 2 本件訴訟物は、XのYに対する所有権に基づく甲土地所有権移転登記手続請求権である。

(1) Xの主張Aは、時効取得の主張であるが、かかる主張の要件事実について、検討する。

民法145条及び162条2項によれば、①10年間の継続占有②自主占有③平穏占有④公然占有⑤他人の物の占有⑥占有開始時に善意かつ無過失⑦時効の援用が取得時効の法律要件となる。しかし、判例により、⑤は要件とならない。186条2項により、①は、始期と終期のポイント占有で足りる(法律上の事実推定)。また、186条1項によって、②ないし④及び⑥のうち悪意が推定される(暫定真実)。

以上をまとめると、取得時効の要件事実は、①ある時点で占有していたこと②①の時点から10年の期間満了時点で占有していたこと③①の時点で、自己が権利者であると信じるにつき、無過失であること④援用権者が相手方に援用の意思表示をしたこと、となる。

(2) これに対して、Yの主張Bは、占有の客観的性質からXに所有の意思がないものとされる主張である。かかる主張は、請求原因事実とならないため、Xの上記主張と両立する。また、所有の意思がないとなれば、取得時効の要件を充たさないため、Xの上記主張による法律効果の発生を障害するものである。

   したがって、主張Bは抗弁にあたる(他主占有権原の抗弁)。

第2 第2問 小問2[2]

 1 ①について

 (1) まず、XY間の使用貸借の成立の主張は、YがP訴訟において主張していたものであるため、Q訴訟においてYが主張したものとみることができるかが問題となるが、PQ両訴訟は控訴審において併合(152条1項)されている以上、Q訴訟との関係でも主張がなされたとみることができる。

 (2) 次に、そうだとしても、Q訴訟との関係で使用貸借の成立は、Yの請求原因と両立し、かつ、権利の発生を障害する抗弁事実であるところ、それをYが主張している場合にも、かかる事実を認定してよいか。弁論主義第1テーゼに反しないかが問題となる。

   ア 弁論主義とは、判決の基礎をなす事実の確定に必要な資料の提出を当事者の権能かつ責任とする建前[3]をいう。そして、かかる弁論主義として、裁判所は、当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることはできない、という弁論主義第1テーゼが導かれる。弁論主義の趣旨は、私的自治の訴訟法的反映に基づく当事者の自律的水平空間の確保にあり、その機能は当事者への不意打ち防止にある。そこで、「事実」とは、当事者の最低限の不意打ち防止となる主要事実に限れば十分である。また、自律的水平空間の確保の観点から「当事者」とは、両当事者をいう(主張共通の原則)。そして、「主張」とは、訴訟資料と証拠資料の峻別の観点から、弁論期日になされる必要がある。

   イ 本件では、使用貸借の成立は抗弁事実にあたり、主要事実という「事実」にあたる。また、それを一方「当事者」たるYが、弁論期日において「主張」している。

   ウ したがって、弁論主義第1テーゼに反せず、許される。

 (3) よって、控訴審裁判所は、Xが争っているXY間の使用貸借の成立を認定することができる。

 2 ②について

 (1) 上記のように、Q訴訟において抗弁が認められる以上、裁判所はQ訴訟について原判決を破棄し、請求棄却判決をすべきである。

 (2) もっとも、Yとしては、Q訴訟においては主張Bをしていなかったのである。このような場合に、いきなり裁判所が請求棄却判決をすることは、Yに対して不意打ちを与える危険性がある。そこで、裁判所としては、Yに対し釈明権を適切に行使すべきである。

第3 第3問 小問1[4]

 1 Xの本問主張は認められない。

 2 「前訴でYが主張した相殺により甲債権は既に消滅している」との主張

 (1) 訴訟上の相殺の法的性質については、私法行為と訴訟行為が併存すると考える。

 (2) もっとも、上記法的性質は、訴訟上の相殺によって、私法上の効果を認めるかどうかの結論を左右しない。実体法上の効果は、個別具体的に検討すべきである。

   ア そして、相殺の抗弁については、反訴提起の実質がある以上、裁判所の何らの判断もなされず却下された場合にも私法上の効果を認めることは、被告の権利を不当に害することとなる。

     そこで、訴訟上の相殺の抗弁は、特段の意思表示がなく、かつ、裁判所の判断を受ける場合に限り私法上の効果を認める条件付き意思表示と捉えるべきと考える。

   イ 本件では、Yは相殺の抗弁について何らかの特別の意思表示をしていない。また、前訴はXの訴えの取り下げによって訴訟が終了しており、Yの相殺の抗弁は裁判所によって何らの判断もされていない。

   ウ したがって、Yの本件相殺の抗弁について、私法上の効果は生じていない。

 (3) よって、Yが主張した相殺により甲債権は既に消滅している、とのXの主張は認められない。

第4 第2問 小問2[5]

 1 相殺の抗弁は判決理由中の判断であるが、例外的に既判力が生じる(114条2項)。

  相殺の抗弁は、それ自体が訴訟物となり得、反訴提起の実質があるからである。もし仮に、相殺の抗弁に既判力が認められないとすると、相殺の抗弁によって前訴で請求棄却判決を得た被告が、相殺に供した同債権を訴訟物として後訴において給付訴訟を提起することが妨げられない。すると、後訴において前訴被告の請求が認容される可能性があり得る。しかし、かかる請求を認めることになれば、実質的に前訴原告に二重の支払いを負わせることになる。逆に、相殺の抗弁が認められず、前訴請求認容となった場合にも前訴被告が相殺に供した同債権を訴訟物として後訴において給付訴訟を提起することも妨げられない。通常、同一の債権については一回の審理のみが許され、後訴では既判力により遮断されるのに対し、相殺については、相殺の抗弁と後訴提起によって二回審理してもらう手続保障を前訴被告に与えることになり、当事者の公平に反する。

   そこで、民事訴訟法は「相殺をもって対抗した額について既判力」が生じるとした。

 2 本件については、相殺に供した400万円のうち300万円については、甲債権が存在し相殺に供されたため、300万円の甲債権の不存在について既判力が生じる。また、100万円については、そもそも甲債権が存在しないとの判断に達しているため、その意味で100万円の甲債権の不存在について既判力が生じる。

 3 以上より、400万円の甲債権全体について不存在との既判力が生じる。

以上

 

[1] 新問研21頁参照。

[2] モデル判例として、最判昭和41年9月8日参照。なお、同判例について、高橋宏志・重点講義(上)485頁参照。

[3] 高橋概論115頁参照。

[4] 本問と同様の問題を論じたものとして『ロースクール演習民事訴訟法[第2版]』(法学書院、2018年)問題24参照。

[5] 同様の問題を論じたものとして『ロースクール演習民事訴訟法[第2版]』(法学書院、2018)問題24、勅使川原和彦『読解民事訴訟法』(有斐閣、2015)196頁以下参照。なお、これの応用の問題として司法試験予備試験平成29年度設問2参照。