法律解釈の手筋

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東大ロー期末試験 上級刑事訴訟法 '18年度 再現答案 【評価:A】

 

再現答案

 

 

 

第1 第1問 (以下、刑事訴訟法は法名略。)

 1 Kらが公道上に設置されたごみ集積所に出したごみ袋を密かに回収し、中身を点検した行為について

 (1) 上記行為は、領置(221条)にあたり、「強制の処分」(197条1項但し書)にあたらないか。もし仮に上記行為が領置に当たらないとすると、差押え(218条1項)として令状が必要であるにも関わらず令状発付を受けていない点で令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)に反し違法になるとも思えるため、問題となる。

   ア 領置が「強制の処分」にあたらず令状が不要とされている趣旨は、当該物の占有取得過程に強制的要素が伴わないからである。そこで「遺留した物」とは、占有者が自らの意思によらずに占有物を離脱・放棄した場合だけでなく、占有者が自らの意思によって占有物の占有を離脱・放棄した場合も含むと考える。

   イ 本件では、Xは自己のごみ袋を自宅付近の公道上に設置されたごみ集積所に出している。公道上であれば、不特定多数の通行人からそのごみ袋の存在を認識され、また取得される可能性がある。このような公道上のごみ集積所にごみ袋を放棄することは、占有を放棄したといえる。確かに、このように解すると被処分者がごみを自由に処分できなくなるとも思える。しかし、被処分者は自らのごみを他人に占有取得されるのがイヤでれば、自ら焼却場にもっていくことやごみ収集車が来た時を見計らってごみ集積所にごみを出せば良いのである。そうだとすれば、本件ごみ袋は占有者Xが自らの意思で他人に取得され得る公道上のごみ集積所に出した時点で、その占有は離脱・放棄したものといえる。またかかるごみ袋が他の者の占有にあるという事情もない。

   ウ したがって、本件ごみ袋は「遺留した物」にあたり、Kらの上記行為は領置にあたる。よって、令状主義に反して違法ではない。

 (2) もっとも、かかる処分は任意処分(197条1項本文)として適法か。

  ア 「取調」とは、広く捜査活動一般を指す。そして、同項本文は捜査比例の原則を定めたものである。そして、被処分者の意思に反していない場合でも、行為規範の点から同原則は及ぶ。そこで、「目的を達するために必要な」とは、捜査のために必要かつ相当と認められる場合をいうと考える。

  イ 本件被疑事実は、強制性交罪(刑法177条)という懲役5年以上の重大な事件であり、捜査の必要性は高い。また、本件被疑事実で犯人が使用した白色のワンボックスカーと思われる車が犯行現場から100メートルほどの離れた地点で防犯カメラに記録されており、かかる車の所有者がXであると判明しているところ、Xが本件被疑事実の犯人である疑いが極めて強い。そうだとすれば、本件被疑事実の犯人の精液とXのDNAを今日信用性の非常に高いDNA検査をするため、Xのごみ袋から髪の毛や精液付きのティッシュを取得する必要性が高い。また、Xの車両の前部には、塗装がはがれた箇所があり、被害者Aに衝突したときにはがれたものであることを推認させる点で、Xが犯人であるとの疑いを強め、上記捜査の必要性が高くなる。これに対して、Kらの上記行為は、2週間ごみ袋の中身を4回回収するという捜査のために必要最小限度の領置にとどまる。また、これにより第三者の利益を侵害しているわけでもない。したがって、捜査の必要性と相当性が認められる。

    よって、上記行為は任意捜査としも適法である。

    以上より、Kらの上記行為は適法である。

 2 Kらが、Xが使用した紙コップを回収した行為について

 (1) Kらの上記行為は領置にあたるか。前述の基準に照らして検討する。

   ア 本件では、上記行為と異なり、KらがXに対して紙コップに入った冷茶を飲むように勧め、Xはそれによって紙コップの茶を飲みKらが紙コップを回収している。もし仮に、Xがかかる事情を知っていれば、Kらから出された紙コップに口をつけることもなかったのであるから、Kらの紙コップの回収は、Xの瑕疵ある意思に基づく占有取得であり、Xの意思に反した占有取得として差押えにあたるとも思える。しかし、もし仮にKらが当該物を回収しDNA検査をすることが分かっていれば占有を放棄しなかったことは、ごみ袋も同様である。そして、本件でもXは自らの意思で取調室に紙コップを残していったといえ、紙コップの占有放棄はXの意思によるといわざるを得ない。したがって、Kらのいわば欺罔的な態様によってXに茶を飲ませ紙コップを回収したことは、紙コップの占有取得過程の強制的要素に影響を及ぼさない。この点で、同様の事案で強制処分性を肯定した東京高裁決定は不当である。

   イ よって、Kらの上記行為は領置にあたる。

 (2) もっとも、Kらの上記行為が任意処分として適法か。前述の基準によって判断する。

   ア 捜査の必要性については、前述のとおりである。確かに本件では、Xは素直に任意同行に応じており、Kの質問にも合理的な返答をしており、防犯カメラのX所有の車がうつっていたことは仕事で川崎市内に行っていたからであること、車の前方の塗装がはがれているのは、スーパーの駐車場の壁に前部をぶつけたからであることなど、Xの犯人性の疑いを弱めるとも思える。しかし、この程度のアリバイ供述は容易であるし、何より供述である以上信用性が非常に高いわけではない。また、本件ではごみ袋の回収によるDNA検査が功を奏しておらず、Xを呼び出し、直接DNAを検出できる物を取得する他なかったのである。Kらの捜査の態様としても、Xに茶を飲むように勧めたにすぎず、積極的に欺罔行為を行ったわけでもないため、働きかけの態様も強くない。DNAの取得方法も、紙コップの唾液から取得するというもので社会的相当性の認められる行為であるといえる。

   イ したがって、必要かつ相当な行為といえ、Kらの上記行為は任意処分としても適法である。

 (3) 以上より、Kらの上記行為は適法である。

第2 第2問(1)

 1 本件では、甲事件や丙事件をXが行ったという事実から、Xがかかる事件を起こすような犯罪性向を推認し、そこから類似事実である乙事件についてXの犯人性を推認しようとするものであると考えられるが、このような立証は許されるか。

 2 顕著な特徴・相当程度類似の例外

 (1) 被疑事実による立証は、犯人の犯罪性向を推認し、そこから同種事件の犯人性の推認を経るが、特に二段目の推認は不確かな弱い推認であり、誤った事実認定を導くおそれが高く、また争点を拡散させるおそれもある。そこで、原則として類似事実証拠は排除されると考える。もっとも、①類似事実が顕著な特徴を有し、②それが公訴事実と相当程度類似しているような場合には、上記推認過程を経ることがないため、例外的に許されると考える。

 (2) 本件では、平成29年8月3日という同日に、川崎市内という同じ場所で、女性の背後から自動車を衝突させて転倒したという、乙事件と類似の甲事件と丙事件が問題となっている。確かに、同日の午後9時から11時半までという密接した時間帯に、同じ川崎市内で女性が自動車に衝突されるという点で、顕著な特徴があるとも思える。しかし、甲事件や丙事件では、その後に女性が強制性交の被害を受けそうになっているか受けたという事情があるのに対し、乙事件ではそれがない。そして、川崎市という人口の多い市であれば、交通事故のよく発生することが考えられるところ、乙事件のような交通事故が生じることはそこまで珍しいとも。そうだとすれば、乙事件についてX以外の者が犯人であるという危険性を凌駕できるほどの強い推認力が甲事件及び丙事件にはない。

    さらに、本件では、甲事件及び丙事件では、犯人は顔全体を覆うマスクをし、かつ、犯行に使用された車両が白色のワンボックスカーであったという事情がある。そこで、乙事件においてもこのような事情が認められれば、川崎市内でこのような犯行を午後9時から午後11時半に行った者はX以外におよそ考えられないと考える。しかし、乙事件では被害者Bは気絶しており、犯人の様子や犯行に使用された車両も見ていないため、かかる類似事実から推認することもできない。

 (3) 以上より、本件では、甲事件と丙事件の犯人がXであることから、それと乙事件の犯人がXであることの間接事実として事実認定に用いることができない。

第3 第2問(2)

 1 類似事実から犯人の主観的要素を推認することが許されるか。

 2 故意か偶然かが問題となる場合には、前後に連続して類似の事件が行われた場合には、当該行為も偶然に行われたとは到底考えられないことによって、故意を有していたことが直接推認されると考える、そこで、かかる場合には、二重推認を経ることがないため、例外的に立証に用いることが許されると考える。

 3 本件では、甲・乙・丙全ての事件がXによってなされている。そして、どれも同日の午後9時から11時という近接した時間に川崎市内で行われており、甲事件・乙事件では、強制性交罪がなされている。そうだとすれば、甲事件・丙事件に先行する乙事件が単に偶然の交通事故だったとはいえず、女性Bに対する強制性交の目的を有していたことが強く推認されるといえる。

   したがって、かかる立証は例外的に許される。

 4 以上より、甲事件と丙事件をXが行った事実を間接事実としてXが強制性交の目的で自動車をBに衝突させたことの事実認定に用いることができる。

以上

解答実感

・約3800字(思考時間20分/答案作成時間100分)

・日本語不安定すぎて心配になる。

・法律解釈も相当にやらかしている。当初、意思に反しない占有取得だとしているのに、被侵害利益を想定して捜査の必要性との法益権衡を検討しようとしたため、大幅にその名残が残ってしまった書きぶりになっている。しかし、友人との話では、別途DNAというプライバシーの利益を想定することは可能であるのでは、との指摘があった。あり得る筋かもしれないが、私見は物の占有を放棄している以上その物に伴う一切の利益を放棄していると考えるため、やはり任意処分の相当性判断は行為規範的に考えるのがしっくりくる。

・類似事実証拠排除法則…。結構怪しいと思っていたが、本当に出るとは…、しかも(2)はいわゆる偶然行為の理論。これに関しては規範を用意していなかったためその場で規範をその場で創出することになったが、あまり成功した論証とはいえない。あてはめもかなり弱い。他の人もそこまで対策していないと信じたい。結論は、今考えてみてもおそらく(1)が×で(2)が〇が正解筋と思われるので、そこは外していないように思われる。

・評価予想はA。しかし、4単位だからA⁺欲しい…無理かな…?