法律解釈の手筋

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債権譲渡と相殺の手筋-最高裁昭和昭和50年12月8日第一小法廷判決-

 

1.最判昭和50年12月8日

【事案】

訴外会社AはYに対し、弁済期昭和42年12月3日、金額261万4000円の売掛債権(以下「本件売掛債権」という。)を有し、Yは、右売掛債務支払のために、同年7月3日金額を右同額、満期を同年12月3日とする約束手形(以下「本件約束手形(1)」という。)をAに宛てて振り出し、これをAの取締役兼従業員であつたXに交付した。他方、Yは、Aに対し、同会社がYに宛てて振り出し交付した手形一七通、金額各10万円、合計170万円の約束手形債権(以下「本件手形債権」という。)を有していたが、Aが、昭和43年1月13日倒産し、本件手形債権につき期限の利益を喪失したため、その弁済期は同日到来した。ところが、Xは、本件約束手形(1)を紛失したので、昭和42年8月5日Aに対し右手形金相当額を弁償し、その代償として同年9月14日Aから本件売掛債権の譲渡を受け、Aは同日Yに対し右債権譲渡の通知をし、その頃右通知はYに到達した。その後昭和43年6月3日Aは本件約束手形(1)につき除権判決を得た。そして、XがYに対し、本件売掛債権及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて提起した本訴第一審第二回口頭弁論期日(同年7月24日)において、Yは本件手形債権をもつてXの本訴請求債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。

 

【判旨】

「原審の確定した以上の事実関係のもとにおいては、上告人は、本件売掛債権を受働債権とし本件手形債権を自働債権とする相殺をもつて被上告人に対抗しうる」(傍線部筆者)として、Yの相殺を認めた。

 

 

2.債権譲渡と相殺の優劣

(1)本判決

 本判決は、債権譲渡通知前に自働債権を取得したのであれば、弁済期の先後を問わず相殺の意思表示を債権の譲受人に対抗できる(いわゆる無制限説)としたとの理解が通説的見解である。

 しかし、「原審の確定した以上の事実関係のもとにおいては」との文言及び事案の特殊性に照らすと、本判決は無制限説を採用したとまではいえず、事例判決にとどまるとの見解もある(本事案は、債権譲渡人は会社で、債権譲受人がその会社の取締役であり、債権譲受人は、債務者が会社に対し債権を有していることを当然に知り得る立場にいた事案であった。すなわち、債務者に相殺の抗弁を認めても、債権譲受人にとって酷とまではいえなかった。)。

(2)改正法469条1項

「債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。」

 改正法では、いわゆる無制限説にたつことを明らかにし、解釈論に終止符をうった。

 

3.差押えと相殺の優劣-最大判昭和45年6月24日-

判例は無制限説に立っており、具体的帰結は債権譲渡と相殺の場合と変わらない。

 

4.参考論証(債権譲渡と相殺の優劣)

(1) 本件では、相殺の意思表示の前に受働債権について債権譲渡通知がなされているが、このような場合でも、第三債務者は債権譲渡通知前に債務者に対して取得した債権を自働債権として、相殺をすることを債権譲受人に対抗することができるか。

ア 「譲渡人に対して生じた事由」(468条2項)とは、抗弁発生の基礎となる事由をいい抗弁事由発生の一般的抽象的可能性があれば足りるところ、自働債権と受働債権の弁済期の先後は問われていない。また、相殺の担保的機能は最大限保護すべきである。

 そこで、債務者は債権譲渡通知前に受働債権を取得している限り、受働債権と自働債権の弁済期の先後を問わず、相殺適状に達していれば、相殺をもって債権譲受人に対抗できると考える。

イ 本件では、債務差の取得した受働債権は、債権譲渡通知日である〇月〇日よりも前/後である。

ウ したがって、債務者は債権譲受人に相殺をもって対抗することができる/できない。