法律解釈の手筋

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「ケースで考える債権法改正 第5回 請負における報酬債権」 ((法学教室467号、2019年8月号)89頁)

【解答例】

第1 事例1

 1 ①について

 (1) BはAに対し、634条に基づく5000万円の割合的報酬請求をすることができない[1]

 (2) 請負人Bは、注文者Aから、市役所前の市道の舗装を1平方メートルあたり2万円代金総額1億円で請け負った(以下「本件契約」という。)。

Bは、本件契約に基づき工事を半分まで履行した。

    もっとも、Bの工事をしていた地方に大地震が発生し、市道には数か所大きな陥没ができ、工事の続行が不可能な状態になってしまったため、「仕事を完成することができなくなった」(634条1号)。

    本件では、Bの出来高割合は5割である。

 (3) これに対し、Aは、その後本件契約の目的であった市道の舗装という仕事は完成していないところ、「注文者が利益を受ける」にあたらないと反論することが考えられる。

   ア 「注文者が利益を受ける」とは、割合的報酬請求を認める程度に、仕事の一部完成結果を注文者が享受していることをいうと考える。

   イ 本件では、市役所前の市道を石畳風に舗装するためにAはBと本件契約を締結している。本件契約で大事なのは、市道の見た目の統一感であることからすれば、その半分だけがBによって舗装されたとしても、その後市道全部が舗装されていない現在の状況では、AはBの工事の一部履行結果によって利益を享受しているとはいえない。

   ウ したがって、「注文者が利益を受ける」ときにあたらない。

 (4) よって、Aの反論が認められ、Bのかかる請求は認められない。

 2 ②について

 (1)  BはAに対し、634条に基づく5000万円の割合的報酬請求をすることができる。

 (2) BがAと本件契約を締結したこと及び、その契約に基づき半分の工事を履行したことについては、前述と同様である。また、Bは経営破綻のために工事の継続はできなくなっているところ、「仕事を完成することはできなくなった」(634条1号)。本件におけるBの出来高割合は5割である。

 (3) 本件では、Aは残りの工事をC社に引き継がせ、工事を完了しているところ、AはBの工事の履行結果を享受しているため、①と異なり、「注文者が利益を受ける」ときにあたる。

 (4) よって、Bのかかる請求は認められる。

 3 ③について

 (1) BはAに対し、536条2項前段に基づき6500万円の報酬請求をすることができる[2]

 (2) BがAと本件契約を締結したこと及び、その契約に基づき半分の工事を履行したことについては、前述と同様である。また、AはB社に工事の中止を求めているところ、これによってBは工事の履行を継続することができなくなっており、履行不能が認められる。そして、AのBに対する工事の中止の要請は、市民から予算の無駄遣いであるとの批判を受けたことからなされたものであり、「債権者の責めに帰すべき事由」(536条2項前段)にあたる。

 (3) これに対して、Aは、Bの報酬請求が認められるとしても、Bは工事の半分の履行を免れている結果、原価3500万円の支出を免れているため、かかる3500万円は「自己の債務を免れたことによって利益を得た」(536条2項後段)にあたる。

 (4) よって、報酬請求1億円から、上記3500万円を控除した6500万円について、Bのかかる請求は認められる。

第2 事例2

 1 BはAに対し、641条に基づく6500万円の損害賠償請求をすることができる。

 2 BがAと本件契約を締結したこと及び、その契約に基づき半分の工事を履行したことについては、前述と同様である。その後、Aは、Bが本件契約の仕事を完成させる前に、本件契約を解除している。

    したがって、Bの641条に基づく損害賠償請求は認められる。

 3 それでは、損害額はいくらか。

 (1) 同条の趣旨は、請負契約は注文者の利益のためである以上、注文者にとって不要になった請負契約はいつでも解除できるとした反面、請負人の利益を確保する点にある。

     そこで、同条の損害は、①仕事が完成すれば得られたであろう利益(費用相当額を除く)②解除時までに支出した費用③解除によって生じた追加費用の合計額から④解除によって請負人が受けた利益を控除したものであると考える[3]

 (2) 本件では、Bは半分の工事を履行しており、すでに3500万円の原価たる費用を支出している(②)。また、Bは、仕事が完成すれば、粗利益として合計3000万円の利益を得られたはずであった(①)。

 (3) したがって、6500万円の損害及び解除によってBが要した追加費用から、Bが解除によって受けた利益を控除した額が「損害」として認められる。

 4 よって、Bのかかる請求は認められる。

 

[1] 割合的報酬請求の要件事実は、①請負契約締結事実②請負契約に基づく仕事の一部履行③それ以降の仕事の継続ができない状態であること(「注文者の責めに帰することができない事由」についての主張は不要である。注文者の帰責事由が認められれば全額の報酬請求権が認められるのに、かかる主張立証責任を負担させるのは不合理だからである。)又は仕事完成前の請負契約の解除④一部履行された仕事の給付により注文者が利益を受けること⑤注文者の受けた利益の割合である(④⑤ではなく、出来高割合を主張すれば足りる旨の見解もある。この場合、事例1①では、工事部分で滅失してしまった点についての主張立証責任をAが負うことになる。)。以上の要件事実については、中村知己『新債権法における要件事実と注上記歳のポイント』(新日本法規出版、2019)357頁参照。

[2] 潮見各論Ⅰ・245頁では、「民法536条2項の法意に照らして」と表現しており、直接の発生根拠規定とは見ていない。536条2項は報酬請求権の発生根拠規定たり得るかについては、本連載・92頁も参照。

[3] 中田・517頁。なお、潮見各論Ⅰ・246頁によれば、損害は「①それまでに請負人が投下した費用相当額(中田の②に相当)」(括弧書は筆者による)「②履行利益(中田の①に相当)」「③拡大損害」としている(おそらく中田の③損害及び④控除を排斥する趣旨ではない。また、中田も潮見の③損害を排斥する趣旨ではない)。しかし、潮見は続けて「②の賠償と①の賠償は択一的な関係に立ち、両者を重ねて請求することは、評価矛盾をきたすゆえに、許され」ないとしており、この点で、①②の合計額を損害として認める中田より損害の範囲を限定している。損害の範囲をどこまで認めるかについては、本連載・94頁以下も参照。