解答例
第1 小問1[1]
1 Xは、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(以下「法」という。)19条1項が職業選択の自由を侵害し、22条1項に反し違憲無効であるため、Xの「あん摩マッサージ指圧師」の免許取得が可能なコース新設の申請に対する不認定処分(以下「本件処分」という。)は、違法であると主張する。
2 22条1項が職業選択の自由を保障していることは条文上明らかである。
3 法19条1項は、視覚障碍者以外の者を対象とした学校・養成施設の新設・定員増加を認めないことができるとしており、視覚障碍者以外の者を対象とした養成施設の新設が事実上困難である。
薬事法違憲判決(最判昭和50年4月30日)によれば、特定場所における開業の不能は開業そのものの断念につながりうるものであることを理由に、適正配置規制を職業選択の自由に対する制約であることを認めている。
本件では、開業場所の制約ではないものの、法19条1項が、視覚障碍者以外の者の養成施設の新設を制約すること及び1964年の法改正以降そうした学校・養成施設の新設は認められてこなかったという運用によって、養成施設の開業そのものの断念につながりうるものである点において、薬事法違憲判決と同様の理屈があてはまる。そこで、本件でも職業選択の自由それ自体に対する制約が認められる。
4 上記制約は正当化されない。
(1) 前述のとおり、本件規制は、職業選択の自由そのものを制約するものであるため、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることが必要である。確かに、昭和50年判決と異なって、本件規制目的は視覚障碍者保護という社会的弱者の保護にあるところ、積極目的規制とも思える。しかし、参入規制を施すことで、業務内容の質の低下を招き、ひいては適切な医療体制の確保に支障を生じるおそれを防止する点にあるともいえるため、本件規制目的を一概に積極目的であると認定することはできない。そして、仮に積極目的規制だったとしても、本件のような視覚障碍者保護のための規制であるとすれば、最高裁において政策的当否を判断する能力がないとまではいえない以上、厳格な審査に服すると考える。
そこで、当該規制よりもゆるやかな規制によっては法の目的を十分に達成することができないと認められる場合でない限り、違憲であると考える。
(2) まず、本件規制が視覚障碍者以外の者の参入を規制することで適切な医療体制の確保にあるという議論は、観念上の想定にすぎないことは、政府が免許を持たない業者の施術が人の健康に害を及ぼすと明確にいえないとしていることからも明らかである。したがって、本件規制は必要かつ合理的な措置とはいえない。
次に、本件規制は、1964年に、視覚障碍者の保護のためになされた積極的差別是正措置である。そして、その規制は「当分の間」を想定してなされた是正措置である。それにもかかわらず、法改正から既に50年以上が経過した現在においても法19条1項は規定され続けている。したがって、数年来、免許を得ないままマッサージなどの施術を行う業者が急増している現状や、国が適切な措置を講じていないことからしても、本件規制は積極的差別是正措置として過剰な規制になってしまっている。また、法19条1項それ自体は、視覚障碍者以外の者の養成施設の開設を認めないものではないものの、その運用によって事実上その途が閉ざされている以上、かかる規制によって、過剰な規制がなされているといえる。以上にかんがみれば、視覚障碍者を保護しつつ、それ以外の者の養成施設の開設を認める規制によって法の目的を達成することも十分可能であるといえる。
(3) よって、法19条1項は違憲である。
第2 小問2
1 国側の反論
(1) まず、本件規制は、視覚障碍者以外の者のみの養成施設の開設を認めないものにすぎず、特定の営業方法の規制にすぎず、職業選択の自由それ自体を制約するものではない。
(2) 次に、仮に、かかる制約が認められたとしても、本件規制は社会的弱者保護という積極目的規制であり、裁判所の審査能力が及ばず、緩やかな審査基準によって判断すべきである。
2 私見
(1) 本件規制が職業選択の自由に対する制約か否かについて
昭和50年判決が職業選択の自由に対する制約を認めたのは、薬局の開業にあたっては、自己の希望する開業場所を選択するのが通常であり、特定場所における開業の不能は開業そのものの断念にもつながりうるものであることを根拠とする。
本件では、原告は養成施設の開業そのものの断念につながるとしているが、あん摩マッサージ指圧師の養成施設の開業にあたって、自己の希望する生徒を選択するのが通常とまではいえないと考える。
したがって、本件では、昭和50年判決の射程が及ばず、被告反論のとおり、営業の自由に対する制約にすぎないと考える。
(2) 規制目的について
そもそも、規制目的二分論の根拠は、①立法府、裁判所それぞれの機能・審査能力や権限配分という機能論的理由のみならず、②積極目的規制という業界保護立法を明示的に掲げた規制は、政治過程・立法過程において、討議・熟議コストを立法提案者が自ら引き受けている以上、裁判所の審査基準を緩めることができるという政治学的理由による。そこで、積極目的規制であることを明示的に法が規定している場合には、緩やかな審査基準が妥当すると考える。
本件では、法19条1項は視覚障害者である「あん摩マッサージ指圧師」の職域優先を図るために、1964 年の法改正で設けられた措置と明示的に掲げられており、その討議コストを立法提案者が負担したといえる。
したがって、営業の自由に対する制約であることもあわせてかんがみれば、被告反論のとおり、緩やかな審査基準によって判断するのが妥当であると考える。
そこで、当該法的規制が著しく不合理であることが明白である場合に限り違憲であると考える。
(3) 法19条1項の趣旨は、伝統的に視覚障碍者の専業とされてきたあん摩マッサージ指圧師について職域優先を図る点にあるところ、かかる規定目的が不当とはいえない。また、「当分の間」とされていながら多少の長期間にわたって当該規制をすることも、視覚障碍者の職域優先のために合理的と認められる間であれば、かかる規制をし続けることが不合理とまではいえない。確かに、国は視覚障害者である「あん摩マッサージ指圧師」の生計に配慮した施策をとくにとっていないところ、このような状況で法19条1項のみを規定し続けるのは不合理であるとも思える。しかし、現状、免許を持たない業者の増加が、他に職を見つけることが難しい視覚障碍のある「あん摩マッサージ指圧師」の営業を圧迫している、との指摘もなされていることからすれば、法19条1項の撤廃によって、さらに視覚障碍者の営業が圧迫され得ることが予想される。そうだとすれば、法19条1項はなお著しく不合理であることが明白とまではいえない。
(4) よって、法19条1項は、合憲であり、かかる規定に基づく本件処分は適法である。
以上
[1] 参考文献として、射程・第12章(132頁)、小山ほか・第14章(159頁)、山本龍彦「『教訓』としての薬事法報違憲判決」参照。