解答例
第1 問題1(以下、刑法は法名略。)
① 60条、181条2項、177条
実行の着手が認められるため[1]。
② 60条、65条1項、252条1項
占有者は、真正身分であるため[2]。
③ 60条、199条
積極的加害意思を有し、過剰防衛が成立しないため[3]。
④ 235条
不法領得の意思が認められないため[4]。
⑤ 199条、235条
Xとの関係でAに現金の占有が認められるため[5]。
⑥ 130条前段、238条
窃盗の機会が認められるため[6]。
⑦ 253条
所有権の機能を危殆化する行為といえるため[7]。
⑧ 60条、110条1項
公共の危険の認識は不要であるため[8]。
⑨ 235条、246条1項、159条1項、161条1項
加盟店にとって重要な事項を偽る行為であるため。
⑩ 203条、199条
被利用者を支配・利用しているため[9]。
第2 問題2
1 Xが、殺意をもって、Aの腰付近を果物ナイフで突き刺し、よって同人を死亡させた行為に殺人罪(199条)が成立する[10]。
(1) Xの上記行為は、Aの生命侵害惹起の危険性を有する「人を殺」す行為であり、A死亡の結果との間に因果関係も認められる。また、Xには殺人罪の未必的な故意(38条1項)が認められる。
(2) BはAから暴行を受けていなかったため、「急迫不正の侵害」が認められず、Xの上記行為には正当防衛(36条1項)が成立しない。
(3) Xは、BがAから暴力を振るわれていると誤信しているものの、上記行為は、Aの暴行の程度を超えるため、責任故意(38条1項)は認められない。
ア 故意責任の本質は反規範的行為に対する道義的非難であるところ、違法性阻却事由も規範たり得る。そこで、行為者の認識を基準にして正当防衛(36条1項)が成立する場合には、行為者は規範的障害を乗り越えたといえず、責任故意が認められない。
イ 以下、本件について検討する。
(ア) まず、Xの主観において、AはBに暴力を振るおうとしているのであるから、「急迫不正の侵害」が認められる。
(イ) また、XはAに対する憤りの気持ちが高ぶっているものの、Bを守らなければならないと思っているため、「他人の権利」を「防衛するため」に上記行為に出たといえる。
行為不法の観点から、防衛の意思は必要と考える。そこで、「防衛するため」とは急迫不正の侵害を認識しつつそれを避けようとする単純な心理状態をいうと考える。そして、防衛者が侵害者に対して攻撃意思を有することは通常あり得るため、専ら攻撃意思によるのでない限り「防衛するため」にあたると考える。
本件では、XはBを守らなければいけないと思っているため、専ら攻撃意思によるものではない。
したがって、「防衛するため」にあたる。
(ウ) もっとも、Xの上記行為は、Aよりも体格、腕力で上回るXがさらにナイフを用いてAに対抗するものであり、防衛するための必要最小限度の法益侵害行為とはいえず、「やむを得ずにした行為」とはいえない。
ウ したがって、Xの認識においても正当防衛は成立せず、Xの責任故意は認められない。
(4) よって、Xの上記行為に殺人罪が成立する。
(5) また、甲の上記行為に36条2項は適用されず、任意的減免も認められない。
ア 36条2項は、過剰防衛において、防衛行為としての性格があることを理由に刑の減免を認めるものである。そこで、行為の相当性の誤信について過失がある場合には36条2項が適用されるが、侵害の誤信についての過失がある場合には36条2項は適用されないと考える。
イ 本件では、Xは、自宅の居間に入ったところでAが手を振り上げるような素振りをしているように見えたとしているが、Xには慎重にAの行為を注視する義務があるにもかかわらずそれを怠ったといえる。以上にかんがみれば、Xには侵害の誤信についての過失が認められる。
ウ したがって、Xの上記行為に36条2項は適用されない。
2 以上より、Xの行為に殺人罪が成立し、かかる罪責を負う。
以上
[1] 最判1970(昭和45)年7月28日刑集24巻7号585頁。
[2] 最判1952(昭和27)年9月19日刑集6巻8号1083頁。
[3] 最決1992(平成4)年6月5日刑集46巻4号245頁。
[4] 最決1980(昭和55)年10月30日刑集34巻5号357頁。
[5] 最判1966(昭和41)年4月8日刑集20巻4号207頁。もしくは、暴行後の領得意思における強盗罪の成否について聞きたかったのかもしれないが、この点について通説は新たな暴行脅迫必要説に立つ。山口青本・300頁参照。
[6] 最決2002(平成14)年2月14日刑集56巻2号86頁。
[7] モデル判例としては、最大判2003(平成15)年4月23日刑集57巻4号467頁と思われる。
[8] 最判1985(昭和60)年3月28日刑集39巻2号75頁。
[9] 最決2004(平成16)年1月20日刑集58巻1巻1号。。
[10] 訴因記載例「Xは、×年×月×日の夜、X宅において、父Aと母Bが口論していた際、AがBに対して暴力を振るおうとしているものと感じて、Bを守らなければならないと思い、果物ナイフを腰付近に刺せば同人を死に至すかもしれないことを認識しながら、あえて果物ナイフで同人の腰付近を突き刺し、よって、救急搬送中の救急車内において、同人を出血性ショックにより死亡させて殺害したものである。」