法律解釈の手筋

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令和3年度(2021年度) 慶應ロー入試 民法 解答例

解答例

第1 設問1(以下、民法は法名略。)

1 第1に、BはAに対し、562条1項本文に基づく追完請求をすることが考えられる(559条、562条1項本文)。

(1) Bは、Aに対し、2020年7月15日、本件機械の製作及びα工場への設置工事について、請負代金3000万円、設置工事の納期同年8月20日、弁済期同年9月10日との約定で注文した(以下、「本件請負契約」という。)。

Aは、上記契約に基づき、本件機械を製作してα工場に設置したが異常振動及び異常音が発生し、かつ、そのまま稼働を続けると重大な故障につながる恐れがあることが判明している。当事者の合理的意思からすれば、本件請負契約の本件機械の設置とは正常な稼働のために適切な設置をすることであるといえ、本件設置は、その「品質」において「契約の内容に適合しない」ものとなっている。

(2) これに対して、Aは、本件異常振動及び異常音がBの従業員の操作によるものである故障であり「買主の責めに帰すべき事由」があると反論することが考えられるが(562条2項)、Cの調査によれば、本件機械の設置のバランスが適切なものではないために発生していることが認められ、かかる反論は認められない。

(3) したがって、Bのかかる請求が認められる。

2 第2に、上記追完請求をしたにもかかわらず相当期間を経過してもAが追完をしない場合には、BはAに対し、563条1項に基づいて代金減額請求をすることができる(559条、563条1項)。減額の算定方法が問題となるが、後述の追完に代わる損害賠償請求との統一性確保の観点から、現実価額から不適合物の価額を差し引く方法によって算定すると考える。Cの調査によれば修理費用は200万円であるため、3000万円から2800万円へ減額請求をすることができる。

3 第3に、BはAに対して、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることが考えられる(564条、415条1項本文)。

(1) まず、上記契約不適合は、Aの設置によるものであり、「債務者の責めに帰することができない事由」(415条1項但し書)にはあたらない。

(2) Bは本件機械の稼働停止により、1日30万円の営業損失を受けており、かつ、修理には10日ほどの日数を要するところ、最低でも300万円の「損害」を受けている。かかる損害と債務不履行の間には因果関係が認められる。

(3) また、Bは、修理費用の200万円について追完に代わる損害賠償請求をすることができる。かかる請求は上記代金減額請求と選択的に行使できると考える。

第2 設問2

1 第1に、DはBに対して、606条1項本文に基づく修繕請求をすることが考えられる。

(1) 本件機械は稼働を停止しDは賃借物を使用収益することができなくなっている。

(2) 本件機械の稼働停止は、本件機械に用いられたβ社製の製品に欠陥があり、誤作動が生じ、本件機械の他の部品が損傷したことによるところ、「賃借人の責めに帰すべき事由」はない(606条1項但し書)。また、DはBに修補を求めており、通知(615条)も認められる。

(3) したがって、Dのかかる請求は認められる。

2 第2に、Dは自ら本件機械の修繕をし(607条の2柱書)、かかる修繕費用についてBに対して608条1項に基づく費用償還請求をすることが考えられる。

(1) DはBに対し修補を求めているところ、「修繕が必要であることの通知」があったといえる。したがって、Bが修繕をせずに相当期間が経過した場合には、自ら本件機械の修繕をすることができる。

(2) 修繕費用は賃借物を使用収益に適する状態にするために支出した費用であり、「必要費」にあたる。

(3) よって、Dのかかる請求は認められる。

3 第3に、DはBに対し、611条1項に基づく9月分の賃料減額を理由に、不当利得に基づく金銭返還請求(703条)をすることが考えられる。

(1) 本件では、本件機械という賃借物であるα工場の一部が故障により「使用収益をすることができなくなった」。また、かかる故障は、上記のとおり「賃借人の責めに帰すべき事由」ではない。

(2) 本件機械の故障によりα工場は一切操業できず、9月15日から全面的に使用収益ができなくなった。そこで、9月の賃料は、200万円から100万円に減額される[1]

(3) したがって、Bが8月末にDから受領した賃料200万円の内100万円については、Bに「利得」、Dに「損失」が認められ、かつ両者の間に因果関係があり、「法律上の原因」がない。

(4) よって、Dのかかる請求は認められる。

4 第4に、Dは、Bからの10月分の賃料請求に対して、本件機械が修補されるまで賃料の支払を拒絶することができる(611条1項)。

5 第5に、DはBに対し、債務不履行に基づく損害賠償(415条1項本文)をすることができる。

(1) 本件の使用収益義務違反は、本件機械の故障であり、賃貸人たるBの「責めに帰することができない事由」(415条1項但し書)にあたらない。

(2) 9月16日から9月末までの営業損失である450万円の「損害」のほか、修補までの1日当たり30万円の営業損失について「損害」が認められる。かかる「損害」はBの債務不履行と因果関係が認められる。

(3) よって、Dのかかる請求は認められる。

以上

 

[1] 15日分の稼働停止も含まれるとすれば厳密には減額後の賃料は93万3333円となるようにも思われるが、おそらくそこまでを出題の意図としていないと思われるため、単純に半額としておく。これ以降の算定も同様に15日分の稼働停止は含まずに計算する。