法律解釈の手筋

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令和4年度(2022年度) 慶應ロー入試 刑法 解答例

解答例

第1 問題1

① 203条、199条

器物損壊罪と殺人罪に構成要件的重なり合いがないため

② 254条

死者に占有が認められないため[1]

③ 61条1項、104条

防禦の濫用であるため[2]

④ 204条

被害者の承諾が成立しないため[3]

⑤ 130条前段、235条、130条前段、204条

窃盗の機会が認められないため[4]

⑥ 159条1項、161条1項

文書の性質上、作成名義人以外の作成が許されないため[5]

⑦ 208条、204条

不正の行為により自ら侵害を招いたため[6]

⑧ 不可罰

窃盗罪の客体は有体物に限られるため

⑨ 197条1項

供与の当時受供与者が公務員であるため[7]

⑩ 253条

公金への法律的支配が認められるため[8]

 

第2 問題2

1 Xが、Bをして、Aの経営するクリーニング店(以下「A店」という。)に対する強盗をさせた行為に、強盗罪の間接正犯(236条1項)は成立しない。

(1) Xは、Bを利用して強盗罪に及んでおり、Xの上記指示行為に実行行為性が認められない。

ア 実行行為とは、法益侵害惹起の現実的危険性を有する行為で、かつ、正犯性を障害する事情がないことをいう。そして、正犯性とは、結果発生の因果経過を目的的に支配した者をいう。そこで、間接正犯が認められるためには、①被利用者を道具として利用して因果経過を支配し②正犯意思が認められ③当該行為に法益侵害惹起の現実的危険性を有することが必要であると考える。

イ 本件では、確かにXは、本件犯行についてしぶしぶ承諾しているところ、XはBの意思を抑圧していたとも思える。しかし、Bは犯行時、Xから指示はされていないものの、強盗を完遂するために、防犯ブザーを押そうとしたAの手を掴んでボタンを押すことを阻止し、「死にたくなかったら妙な真似はやめろ」と申し向けている。これらの事実にかんがみれば、本件当時Bには是非弁別の能力があり、被告人の指示命令はBの意思を抑圧するに足る程度のものではなく、Bは自らの意思により本件強盗の実行を決意した上、臨機応変に対処して本件強盗を完遂したといえ、Xが結果発生の因果経過を支配していたとはいえない(①不充足)。

ウ したがって、Xの上記行為に実行行為性が認められない。

(2) よって、Xの上記行為に強盗罪の単独正犯は成立しない。

2 Xが、Bと共謀の上、A店に対する強盗を実行した行為に、強盗罪の共同正犯(60条、236条1項)が成立する。

(1) Xに共同正犯の客観的構成要件充足性が認められる。

ア 共犯の処罰根拠は、正犯者を介して法益侵害を惹起した点にあり、一部実行全部責任の根拠は、各犯罪者が役割分担を通じて、犯罪達成のために重要な寄与ないし本質的な役割を果たした点にある。そこで、①共犯者間の共謀及び②共謀に基づく実行行為が認められれば、共同正犯の客観的構成要件を充足すると考える。

イ 本件では、XはBとA店において強盗する旨を通謀し、Bはこれを承諾しているところ、犯罪の中核部分についての連絡はあったといえ、意思の連絡が認められる。また、Xは犯罪の首謀者であり、Bに犯罪を持ちかけている点で心理的因果性が強い。また、Xは自ら大型サバイバルナイフ及び覆面を用意しており、物理的因果性もあるところ、重要な役割が認められる。そして、かかる事実及び強盗によって得た利益をXがすべて享受していることにかんがみれば、Xに正犯意思が認められる。以上にかんがみれば、XとBとの間には、A店に対する強盗罪についての共同遂行合意たる共謀が認められる(①充足)。

ウ 「脅迫」とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる害悪の告知[9]をいう。Bは、サバイバルナイフを示しながら、Aの方に駆け寄り「おい、そのカネ全部よこせ」などと申し向け、かつAの手を掴んで防犯ブザーを押すことを阻止しているところ、Aは誰にも助けを求められずナイフで傷づけられてもおかしくない状況であるところ、極度の恐怖感を与えることができる。したがって、上記行為は相手方の反抗を抑圧するに足りる害悪の告知といえる。よって、Bは上記共謀に基づいて「実行行為」を行った(②充足)。

エ Bは、上記行為によって、Aの犯行を抑圧し、よって売上金20万円を「強取」した。

オ したがって、Xに強盗罪の共同正犯の客観的構成要件充足性が認められる。 

(2) Xに上記事実の認識認容があり、故意(38条1項)が認められる。

(3) よって、Xの上記行為に強盗罪の共同正犯が成立する。

3 Xが、Bと共謀の上、A店たる「建造物」に管理権者Aの意思に反して立ち入り「侵入」した行為に、建造物侵入罪の共同正犯(60条、130条前段)が成立する。

4 よって、Xの一連の行為に①住居侵入罪の共同正犯②強盗罪の共同正犯が成立し、①及び②は罪質通例上目的手段の関係にあるため牽連犯(54条1項後段)となり、Xはかかる罪責を負う。

以上

 

[1] 大判1913(大正2)年10月21日新聞2247号22頁。

[2] 最決1965(昭和40)年9月16日刑集19巻6号679頁。

[3] 最決1980(昭和55)年11月13日刑集34巻6号396頁。

[4] 最判2004(平成16)年12月10日刑集58巻9号1047頁。

[5] 最決1981(昭和56)年4月8日刑集35巻3号57頁。

[6] 最決2008(平成20)年5月20日刑集62巻6号1786頁。

[7] 最決1983(昭和58)年3月25日刑集37巻2号170頁。

[8] 大判1912(大正元)年10月8日刑録18輯1231頁、大判1919(大正8)年9月13日刑録25輯977頁。

[9] 山口青本(2015)・298頁。