法律解釈の手筋

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令和4年度(2022年度) 慶應ロー入試 刑事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1(刑事訴訟法については、以下法名略。)

1 憲法35条1項、刑事訴訟法218条1項

第2 設問2

1 そもそも令状主義(憲法35条1項、刑事訴訟法218条1項)の趣旨は、令状裁判官が「正当な理由」を事前に審査し、あらかじめ捜査機関の恣意的権限行使を抑制する点にある。そこで、「正当な理由」(憲法35条1項)が認められるためには、①目的の正当性②差押えの目的物が捜索する場所に存在する蓋然性③処分の必要性・相当性が必要であると考える。

2 本件では、Mらは乙方と丙方の両方を捜索しようとしているところ、これは権利侵害の程度が大きくなる点で処分の必要性・相当性を欠く可能性が生じる(③)。

3 そこで、裁判所としては、「正当な理由」の確保のため、捜索場所を1つに限定するように述べたものと考えられる。

第3 設問3

1 「捜索すべき場所」に下線部④のポケットは含まれない。

2 刑訴法は、捜索の対象としての「人の身体」と「場所」を区別して規定していること(222条1項、102条)、身体に対する捜索によって侵害される人身の自由やプライバシーの利益は、場所に対するプライバシーとは異質であり、包摂されないことから、場所に対する捜索令状によって、人の身体に対する捜索はできないからである。

第4 設問4

1 下線部⑤の行為は、「必要な処分」(222条1項、111条1項)及び捜索令状に基づく捜索として有効である。

2 設問3のとおり、下線部④のポケットは、下線部③の令状の「捜索すべき場所」に含まれないため、捜索令状に基づいて同ポケットを捜索することができないのが原則である。しかし、それでは、Mらの丙方における捜索は功を奏しないところ、丙が右ポケットへ突っ込んだ封筒の内容を確認する必要性が高い。

(1) 捜索・差押えの実効性確保のために必要不可欠な付随的強制処分については、令状裁判官により本来的処分と併せ許可されているといえるため、必要最小限度で行使することが令状の効力によって認められると考える。「必要な処分」(222条1項、111条1項)は、かかる付随的強制処分についての確認規定である。そこで、捜索場所にいる人が、捜索を妨害し、又は差押対象物を隠匿したと疑うに足りる相当な理由が認められる場合には、捜索・差押えの実効性確保のための妨害排除措置として合理的に必要な限度でこれを制圧阻止・原状回復等を行うことができると考える。

(2) 本件では、丙は、落ち着かない様子で、室内の小物入れの上にあった封筒を手に取り、素早くズボンの右ポケットに突っ込んでいるところ、捜索中のこのような不自然な行為は、差押対象物を隠匿したと疑うに足りる相当な理由にあたるといえる。そして、このままでは本件の捜索・差押えの実効性を確保できないため、Mは、「必要な処分」として、丙のポケットから封筒を取り出す原状回復措置を講じることができると考える。そして、Mの行為態様も有形力行使等がなされているわけでもなく単にポケットに手を入れて封筒を取り出しているにすぎず、原状回復のために合理的に必要な限度であるといえる。

(3) よって、下線部⑤の丙のポケットから封筒を取り出した行為は、「必要な処分」として許される。

4 そして、下線部⑤の当該封筒の中を確認する行為は、捜索行為として、捜索令状により許される。

5 以上より、下線部⑤の行為は、適法である。

以上