法律解釈の手筋

再現答案、参考答案、法律の解釈etc…徒然とUPしていくブログ… ※コメントや質問はTwitterまで!

慶應ロー入試 平成29年度(2017年度) 憲法 解答例

解答例

第1 設問1

1 第1に、本件条例はXのB岳へ登る自由を侵害し、憲法13条に反して違憲無効であるところ、かかる無効な条例に基づいてなされた本件過料処分も違法であると主張する。

(1) 山へ登る自由というのは、山へ登ることによって自己の身体の健康が高められることや、他によっては得られない達成感を得られることにかんがみれば、かかる自由は人格的生存に不可欠な利益といえ、憲法13条の保障が及ぶと考える。

(2) そして、本件条例によって、届出がなされないとB岳を登山することができず、制約が認められる。

(3) かかる制約は、正当化されない。

ア 上記自由は、前述のとおり自己の人格的価値を高めることにつながる重要な権利である。また、本件制約は、罰則規定によってその実効性が担保されており、制約態様が強い。

 そこで、①本件立法目的が重要で②本件手段が目的との間で実質的関連性を有しない場合には、本件条例は違憲となると考える。

イ 本件立法目的は、山岳遭難の防止及び遭難時の迅速な救助活動等を図ることにある(条例1条)。かかる目的はいわゆるパターナリスティックな制約であり、自己決定権を不当に害するものであるから不当である(①不充足)。また、仮に目的が重要だとしても、件目的は山岳へのパトロール等で目的達成可能といえ、登山者に届出制を課す必要性は認められない。また、過料の上限が5万円であることも、目的達成との関係で比例原則に反する(②不充足)。

ウ したがって、かかる制約は正当化されない。

(4) よって、本件条例は違憲である。

2 第2に、本件過料処分は、Xの上記自由を侵害し、その適用において違憲であると考える。

(1) 上記自由は憲法13条の保障が及ぶ。

 本件過料処分によって、上記自由は制約されている。

(2) B岳へ登ることが前述のように重要な意義を有し、また、Xの本件条例への違反が1回目であることに鑑みれば、その違反に条例8条の上限である過料5万円を命じる処分はその手段の必要性が認められない。

(3) よって、かかる処分は違憲である。

第2 設問2

1 法令違憲について

(1) まず、原告主張の自由に憲法13条の保障が及ぶか。

   ア 憲法14条以下の人権規定は、新しい人権を排除する趣旨のものではなく、単なる例示列挙である。また、時代の変遷と共に新しい人権を認める必要性もある[1]

    そこで、13条を包括的自由権として、人格的生存に不可欠な利益を有する自由は憲法13条の保障が及ぶと考える。もっとも、憲法13条の保障が及ばないとしても、国民の一般的自由の制限については、実質的法治国家原理の観点から、国家が恣意的な動機、合理性のない手段で規制を加えることができず、憲法上の統制が及ぶと考える。

  イ 本件における山へ登る自由は、一般人にとってそれが人格的生存に不可欠な利益とまではいえない。

  ウ したがって、上記自由は憲法13条の保障が及ばない。

(2) もっとも、原告主張の制約は正当化されるか。

   ア まず、上記自由は憲法上の保障が及ばない点で、重要な権利とまでは言えない。また、罰則規定があるといっても、届出制は、許可制等に比べてその制約態様は弱い。

     そこで、①本件立法目的が正当で②本件手段と目的との間に合理的関連性が認められれば、合憲と考える。

イ 本件立法目的は、原告主張のとおりであるが、かかる目的は正当である。

パターナリスティックな制約だとしても、それが他者または公共に対して影響を与えうる場合には、その正当性が認められる。本件立法目的には、山岳遭難によって救助活動者についても一定の危険が及ぶことから、それを未然に防止するという他社加害防止があることや、遭難によって救助に公的予算が支出されるため、その支出を抑える目的があることに鑑みれば、一般に対しても広範な影響を与えるため、本件目的は正当である(①充足)[2]

また、届出制という手段によって登山者の情報や登山ルートを予め確認すれば、登山の事前のリスクマネージメントや、遭難した際の救助範囲の手がかりになり得ることから、本件目的達成に資するといえる(②充足)。

ウ したがって、本件制約は合憲である。

(3) よって、原告のかかる主張は認められない。

2 適用違憲について

原告のかかる主張も、登山口の届出をすることの告知を無視して登山をするなど法軽視的態度が著しいことや、現に原告が遭難し、職員の救助を得ていることから、5万円の過料も相当性を有すると考える。

以上

 

[1] 小山・作法93頁以下参照。

[2] パターナリスティックな制約が許される局面は①危険行為に対する警告ないし情報提供である場合②本人の行為が他者又は公共に対して影響を与える場合の2つがある。小山・作法63頁参照。