法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成26年度(2014年度) 民法 解答例

 解答例

第1 設問1

1 AはCに対して所有権(206条)に基づく返還請求として、本件クレーンの返還請求をすることが考えられる。

2 本件クレーンはAの所有である。本件クレーンは、現在Cが占有している。

3 これに対して、Cは即時取得(192条)によって本件クレーンの所有権を取得したため、Aは本件クレーンの所有権を喪失したと反論することが考えられる。

(1) CはBとの売買契約という「取引行為」によって本件クレーンを取得している。

(2) Cは「平穏」にかつ「公然」と本件クレーンの引渡しを受けて「占有」を始めた。

(3) Cは、Bが本件クレーンを購入したという噓の説明を聞いて、本件クレーンがBの所有であると信じているため、Aの所有であることについて「善意」である。また、動産では、登記による公示もないため、Aには本当は誰の所有であるかが調べようもない。したがって、Cは「無過失」といえる。

(4) もっとも、BC売買契約には所有権留保特約が付されているところ、Cは所有権を取得できないのではないか。

ア 所有権留保の法的性質は、所有権留保の現実社会での必要性及び担保の実効性確保のため、留保所有権者に所有権が帰属したままであると考える。もっとも、その実質は担保である以上、所有権留保設定者は物権的期待権を取得すると考える。

イ 本件では、Cは代金を完済しておらず、BC間の契約によっても本件クレーンの所有権はBに留保されたままといえる。そうだとすれば、本件請求時にCはいまだ所有権を取得することはない。したがって、Cは即時取得によって本件クレーンの所有権を取得しない[1]

4 よって、Cの反論は認められず、Aのかかる請求は認められる。

第2 設問2

1 DはBに対し所有権に基づく妨害排除請求として、本件クレーンの撤去を請求することが考えられる。

(1) Dは工事現場の土地所有者である。

(2) 本件クレーンは、工事現場に放置されており、工事現場の土地を占有している。

(3) Bは本件クレーンについて無権利者であり、撤去義務を負わないと反論することが考えられる。

しかし、工事現場に本件クレーンが放置されたのは、BC間売買契約によってCが利用したことに起因する。また、Bは他人物売買によって本件クレーンを売り渡したものであり、帰責性が大きい。そして、Bは賃借人として、少なくとも本件クレーンについて、占有・利用する権限は有している。そうだとすれば、Bは自己が無権利者であることをもって撤去義務がないことを反論することは、信義則(1条2項)に反し許されないと考える。

(4) 次に、Bは、本件クレーンはCが売買契約によって所有権を取得したため、自己が撤去義務を負うことはないと反論することが考えられる。所有権留保特約付き売買契約における撤去義務者は誰かが問題となる。

   ア 所有権留保においては、期限の利益を喪失するまでは留保権設定者のもとに、物権的期待権としての目的物の使用収益する権利が認められる。もっとも、期限の利益喪失後には、留保権設定者にかかる権利は認められず、留保権者に目的物の引渡しを受けて、処分する権能を有する。

     そこで、弁済期の後においては、所有権留保権者に撤去義務が認められると考える。

   イ 本件では、既にBC売買契約の弁済期が経過している。

   ウ したがって、Bは本件クレーンの撤去義務を負う。

(5) よって、Dのかかる請求は認められる。

2 次に、DはCに対し、所有権(206条)に基づく妨害排除請求として、本件クレーンの撤去を請求することが考えられる。

(1) Cとしては、所有権留保の弁済期経過によって、自己が無権利者になったため、撤去義務を負わないと反論することが考えられる。

(2) しかし、本件クレーンを自ら工事現場に放置した帰責性の極めて大きい者が、撤去義務を負わないと主張することは、信義則(1条2項)に反し許されない。

(3) よって、Dのかかる請求は認められる。

3 最後に、DはAに対し、本件クレーンの撤去を請求することが考えられる。

(1) Dは工事現場の所有者であるし、Aは本件クレーンの所有者で、かつ、本件クレーンは工事現場を占有している。

(2) よって、Dのかかる請求は認められる。

    なお、このように解しても、AはBに対して撤去費用の求償を求めることができると考えられ、不都合はない。

以上

 

[1] 所有権留保設定者の有する物権的期待権が即時取得の対象になる、という見解もあり得るのではないかと思われる。すなわち、物権的期待権の限りで留保所有権者に対抗でき、留保所有権者が換価処分権を行使しない限り、留保目的物の返還義務を負わないと考えることは一応可能なのではないだろうか。もっとも、かかる見解を述べる文献は見当たらなかった。また、仮にこの見解を採るとしても、本件でCはすでに弁済期を徒過しているため、Aから換価処分権を行使されてしまえば目的物返還義務を負うことになり、実益は少ない。