法律解釈の手筋

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『ロースクール演習 民事訴訟法[第2版]』 問題27 解答例 【否定説ver.】

 

解答例

 

第1 設問1 (以下、民事訴訟法は法名略。)

 1 まず、XY訴訟とXZ訴訟は貸金返還請求権と保証債務履行請求権で訴訟物は別個であるため、両訴訟は通常共同訴訟(38条)の関係にある[1]

 2 XY訴訟について

   裁判所は、XのYに対する消費貸借契約に基づく貸金返還請求の抗弁事実たる弁済の事実の存在について、Y提出の領収書の証拠調べによって、合理的疑いを超える程度の心証を形成している。また、当事者Yによる主張もなされており、弁論主義にも反しない。

   したがって、請求原因が存在することによる権利の発生が消滅したとして、請求棄却判決をすべきである。

 3 XZ訴訟について

 (1) XY訴訟と異なり、Zは領収書を証拠調べ請求していない。共同訴訟人独立の原則(39条)により、Yの証拠調べ請求は、XZ訴訟との関係では何らの効果も生じない。したがって、裁判所は、XZ訴訟との関係では弁済の事実の存在について合理的疑いを超える程度の心証を形成しているとはいえない。そうだとすれば、裁判所は請求原因事実の存在について合理的疑いを超える心証を形成したのであれば、請求認容判決をすべきとも思える。

 (2) もっとも、共同訴訟人間の証拠共通の原則が認められ、裁判所はY提出の領収書をXZ訴訟との関係でも事実認定に用いることができないか。

   ア 共同訴訟人間の証拠共通の原則とは、共同訴訟人の申し出た証拠方法から得られる証拠資料は、申出をしていない他の共同訴訟人に関する事実認定にも使用されてよいという原則[2]をいう。

     確かに、かかる原則を認めることは職権証拠調べの禁止を命じる弁論主義第3テーゼに反する。しかし、自由心証主義の下では、一つの歴史的事実の心証は一つしかあり得ないのに、共同訴訟人の一人のためには真実であるが、他の一人に対して虚偽であるという認定は、不可能ではないとしても、極めて不自然である。

     そこで、司法政策的観点から、弁論主義よりも自由心証主義を重視すべきであり、同原則が認められると考える。

   イ 本件では、Y提出の領収書を、XZ訴訟の関係でも事実認定に使用することができる。裁判所は、前述のとおり弁済の事実の存在について合理的疑いを超える程度の心証を形成することになる。

 (3) よって、裁判所はXZ訴訟との関係でも、請求棄却判決をすべきである。

第2 設問2

 1 XY訴訟について

   裁判所は、前述と同様に、請求棄却判決をすべきである。

 2 XZ訴訟について

 (1) 前述のように、裁判所はXZ訴訟との関係でも、Y提出の領収書の証拠調べによって得られた証拠資料を、Zとの関係でも事実認定に使用することができる。もっとも、XZ訴訟では、弁済の事実について両当事者から主張がなされていない。そうだとすれば、裁判所が弁済の事実を認定することは弁論主義第1テーゼに反することになる。したがって、裁判所は、XZ訴訟において弁済の事実を判決の基礎とすることができない。そうだとすれば、裁判所は請求認容判決をすべきとも思える。

 (2) しかし、共同訴訟人間の主張共通が認められ、Yの弁済の事実の主張をZとの関係でも判決の基礎とすることができないか。

   ア 共同訴訟人間の主張共通の原則とは、各共同訴訟人が積極的に訴訟行為をしない限り、一人のした主張もそれが有利なっものであれば他の共同訴訟人に及ぶという原則[3]をいう。

     確かに、効果を及ぼされる者はそれが嫌であれば独自に訴訟行為をすればよいのであり、訴訟行為の自由を害するわけではない。相手方としても一人が訴訟行為をする以上十分な攻撃防御を尽くさなければならないのであるから、特に不利益を被るわけでもない。裁判所としても統一的な判断を可能にする。

     しかし、かかる見解を認めると裁判所の職権である弁論の分離・併合(152条1項)によって、結論が正反対となり得ることは弁論主義との関係で問題がある。また、かかる点から弁論の分離・併合に当事者の拒否権を要件として要求する見解もあるが、裁判所の裁量を解釈論によって奪うことは疑問である。

     そこで、かかる規律は認められないと考える。

   イ 本件では、Yの弁済の事実の主張をXZ訴訟との関係でその効果を認めることはできない。

 (3) そうだとしても、当然の補助参加により、Yの主張をXZ訴訟との関係でも用いることができないか。

   ア 当然の補助参加とは、請求相互の関係から補助参加の利益が認められる場合には、補助参加の申出はなくとも、当然に補助参加がなされていると扱うべきであるとの見解である。かかる見解によれば、共同訴訟人の一人の主張を、他の共同訴訟人との関係でもその効果を認めることができる。

    もっとも、かかる見解は、いかなる関係があるときにこのような効果を認めるかに関して明確な基準を欠き、訴訟を混乱させるおそれがある[4]

    そこで、かかる見解は認められないと考える。

  イ 本件においても、Yの主張をXZ訴訟との関係で、その効果を認めることはできない。

 (4) 以上より、裁判所は、請求認容判決をすべきである。

第3 設問3

 1 XのYに対する訴えの請求棄却判決の反射効がZのXに対する債務不存在確認訴訟に及び、同訴訟について請求認容判決を導かないか。

 2 反射効とは、当事者間に既判力の拘束のあることが、当事者と実体法上特殊な関係すなわち従属関係ないし依存関係にある第三者に反射的に有利または不利な影響を及ぼすこと[5]をいう。

   まず、反射効ないし既判力の拡張を実体法的観点から認める見解があるが、これは既判力が訴訟法上の効果のみ持つとすることと整合しない。

   次に、判決効拡張の根拠から、その根拠が妥当する場合には、反射効を肯定してよいとする見解がある。しかし、かかる見解は、債権者勝訴の場合の保証人には反射効が及び、債権者敗訴の場合の保証人には反射効が及ばないという結論の違いが説明できない。

   そこで、このような明文の規定がなく、明確な基準が存在しない反射効を認めることはできないと考える。

 3 したがって、XのYに対する訴えの請求棄却判決は、ZのXに対する債務不存在確認訴訟に何らの影響も及ぼさない。

以上

 

[1] 多数当事者訴訟の問題が出た場合、両訴訟が通常共同訴訟か必要的共同訴訟かを一言論じるのは鉄則である。一番簡単な論じ方は、本答案例のように、両訴訟が別個の訴訟物であることを論じることである。

[2] 高橋宏志・重点講義(下)371頁参照。

[3] 高橋宏志・重点講義(下)373頁参照。かかる見解をどのような場合でも主張共通を認めると勘違いする者がいるが、そうではない。共同訴訟人が積極的に訴訟行為をしない場合に限って認めるのが、この説の特徴である。共同訴訟人独立の原則は、各共同訴訟人が自由に「積極的な」訴訟行為をすることを認める原則と捉え、主張共通はそのような訴訟行為をしない場合の規律であるとし、両者は併存すると説くのである。

[4] 最判昭和43年9月12日参照。

[5] 高橋宏志・重点講義(上)748頁参照。