法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 令和2年度(2020年度) 民法(新規定対応) 解答例

解答例

 

第1 設問1

 1 AはBに対し、用法遵守義務違反(616条、594条1項)を理由に、契約の解除をし(541条)、本件建物の返還請求をすることが考えられる。

 (1) 賃借人は、契約または目的物の性質により定まった用法に従い、使用収益しなければならない(616条、594条1項)[1]

    本件賃貸借契約では、約定①において、本件建物の1階部分は事務所として利用することがAB間で合意されている。したがって、Bは、本件建物の1階部分を事務所として使用収益しなければならない義務を負っていたといえる。それにも関わらず、Bは本件建物の1階部分をレストランとして利用している。

    したがって、Bには用法遵守義務違反が認められる。

 (2) よって、Aは、Bに対して用法遵守義務履行の催告をし、Bが相当期間内に履行をしない場合には、解除をすることができ(541条)、かかる請求が認められる。

 2 また、Aは、Bに対し、本件建物の1階部分の修補にかかる損害について、Bに対し、損害賠償請求することができる(415条1項、415条2項3号)。

第2 設問2

 1 第1に、CはAに対し、248条に基づく、1500万円の費用請求をすることが考えられる。

 (1) Cは本件賃貸借契約の賃借人Bからの注文により、本件請負工事をしているところ、不動産の付合が生じ(242条)、本件建物の所有者Aに改築部分の所有権も帰属し「受益」を得ている。Cは、Bから請負工事代金の2500万円のうち残金1500万円について支払いがないため、「損失」が生じている。両者の間には、因果関係が認められ、かつ「法律上の原因」もない。

AはBに対し、改装を承諾しているところ、当該受益について「悪意」である。

 (2) これに対して、Aは、そもそも本件の賃貸借契約関係においては、248条ではなく608条2項が適用されるべきであって、Cは248条に基づく費用償還請求をすることはできない、と反論することが考えられる。

    608条2項は、賃貸借契約の当事者の利害状況をとくに考慮して置かれた規定であるのに対し、248条は、実質的不当利得規定であるにすぎないところ、賃貸借契約関係においては、608条2項が適用されると考える[2]。実質的に考えても、請負人は、注文者と不動産所有者が異なる場合に、両者の責任財産を引当てにできるとすることは、不当に利益を与える結果となるのであって、妥当でない。

 (3) よって、Cのかかる請求は認められない。なお、後述のとおり、CはBが無資力の場合には、BのAに対する費用償還請求を代位行使でき、かつそれで満足すべきであるから、不都合はない。

 2 第2に、Cは、Bに対する1500万円の請負代金債権を被保全債権として、BのAに対する608条2項に基づく費用償還請求を債権者代位権に基づき行使していくことが考えられる(423条1項)。

 (1) CはBに対し、1500万円の債権を有し「自己の債権」がある。また、Bは事実上の倒産状態となっており無資力であるといえるため、Cの債権を「保全するため必要がある」といえる。

(2) 「有益費」(608条2項)とは、賃貸目的物の改良のために支出した費用をいう[3]。Bは、Cに注文して本件建物を改装しており、賃貸目的物の改良のために2500万円の費用を支出している。したがって、かかる費用は「有益費」にあたる。

   よって、債務者BはAに対し2500万円の費用償還請求権を有し、「債務者に属する権利」がある。

 (3) もっとも、Cは既に、Bから1000万円の請負代金を受領しているため、1500万円の限度で債権者代位権を行使することができる(423条の2)。

 (4) これに対して、Aは、改装による価値の増加が残っている場合には、Aが300万円を限度としてBに償還することが約定されていた以上、Cもかかる範囲でのみ請求することができるにすぎない、と反論することが考えられる。

    BがAに対し608条2項に基づく費用償還請求をした場合、Aが約定③に基づいて、300万円の限度でのみ償還を負わないと反論することは当然に認められるところ、423条の4により、Aは、かかる抗弁をCに対しても主張することができる。

 (5) よって、Cは、300万円の限度でかかる請求をすることができる。なお、Cは、Aに対し、300万円を直接自己に支払うよう求めることができる(423条の3)。

以上

 

[1] 潮見債権各論Ⅰ[2版]・137頁。

[2] 佐久間物権[初版]・183頁参照。

[3] 潮見債権各論Ⅰ[2版]・138頁。