法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成26年度(2014年度) 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1

 1 「Aが甲土地の所有者であったことは認める」との部分

 (1) かかる主張が、「裁判所において自白した事実」(179条)にあたり、不要証効が認められるか。

   ア 不要証効の認められる「自白」とは、当事者に争いのない「事実」をいう。そして、不要証効による争点整理機能の観点から、「事実」とは主要事実に限られず、間接事実や補助事実も含まれると考える。

   イ 本件訴訟物は、XのYに対する所有権(民法206条)に基づく目的物返還請求としての甲土地明渡し請求権である。かかる訴訟物における要件事実は、①Xの甲土地所有②Yの同土地占有であり、かかる事実を基礎づける具体的事実が主要事実となる。

Yの上記主張は、Xの主張したAの甲土地所有権を認めており、事実ではなく、権利に関する自白とも思える。もっとも、所有権というのは日常的に用いられる法律概念であって、一般人においてもその権利の意味するところが理解できるものである。また、かかるYの主張に自白を認めないとすると、Xとしては原始取得まで遡らなければならないことにもなり得、妥当でない。

     したがって、上記主張はXの所有権の発生を基礎づける具体的事実であり、主要事実にあたると考える。

   ウ したがって、本件主張には不要証効が認められ、後述のように証明責任を負うXは当該事実について証明を要しない。

 (2) また、本件主張は前述のとおり主要事実にあたるところ、不要証とされた自白事実と異なる認定をされる不意打ち防止のため、裁判所は当事者に争いのない事実については判決の基礎としなければならないとする弁論主義第2テーゼによって裁判所拘束力が認められる。

 (3) それでは、上記自白に当事者拘束力が認められるか。

   ア 当事者拘束力の認められる裁判上の自白とは、期日における相手方の主張する事実と一致する、自己に不利益な事実を認めて争わない旨の陳述をいう。

     「事実」とは、当事者拘束力が相手方の信頼保護にでたものであり、かかる効果には裁判所拘束力も影響しているところから、主要事実に限られると考える。

     また、「自己に不利益な」とは、基準の明確性から相手方が証明責任を負う事実をいうと考え、証明責任規範の分配は実体法の趣旨、立証の難易・証拠の距離等によって決すると考える。

   イ 本件Yの主張が「期日における相手方の主張と一致する」「事実」にあたることは、前述のとおりである。そして、Aが甲土地の所有者であった事実は、Xの甲土地の所有権の発生を直接基礎づける事実であり、自己に有利な法律効果の発生を求めるXが証明責任を負う。そうだとすれば、本件主張はYにとって「自己に不利益」な事実であるといえる。

  ウ したがって、Yに対しては当事者拘束力が認められる。①当該事実が真実に反しかつ錯誤の場合②刑事上罰すべき相手方の行為によって自白がなされた場合③相手方の同意がある場合のいずれかにあたる場合には、例外的にYは上記主張の撤回をすることができる。

 2 「Aは生前に甲土地を自分に売却していた」との部分

 (1) 抗弁とは、①請求原因と両立し、かつ、②請求原因が存在することによる権利の発生を障害し、これを消滅させ、又は権利の行使を阻止する法律要件に該当する事実をいう[1]

 (2) 本件では、Xの請求原因事実は①甲土地A元所有②A死亡③XがAの子であることに対し、上記主張部分はかかる請求原因と両立する(①充足)。また、Aが生前に甲土地をYに売却していたのであれば、AからXに甲土地所有権が承継されることもないため、Xの甲土地所有権発生を消滅させる効果を有する(②充足)。

 (3) したがって、上記主張部分は抗弁にあたり、Yは証明責任を負う[2]

第2 設問2

 1 裁判所は、この訴えをどのように取り扱うべきか。

 2 前訴既判力が後訴に及ぶか。

 (1)  既判力とは、確定された判決の主文に表された判断の通有性[3]をいう。その趣旨は紛争解決の一回的解決という制度的要請にあり、正当化根拠は手続保障充足に基づく自己責任にある。

    そこで、前訴既判力が後訴に及ぶかどうかは、前訴訴訟物と後訴訴訟物が①同一②先決③矛盾のいずれかの関係にある場合によって決すると考える。

 (2) 本件では、前訴訴訟物はXのYに対する所有権に基づく甲土地明渡し請求権であり、後訴訴訟物はXのYに対する賃貸借契約終了に基づく甲土地明渡し請求である。前訴は物権的請求権であり、後訴は債権的請求権であるのだから、①ないし③のいずれの関係にもない。

 (3) したがって、前訴既判力は、後訴には及ばない。

 3 もっとも、前訴においてYは甲土地の賃借権の抗弁を提出しており、Xはその時点において賃貸借契約終了の事実を主張し得たと思われるところ、後訴提起は信義則に反し許されないのではないか。

 (1) 前訴において主張をすべきであったのにそれをしなかった場合、相手方はもはやその主張をしないとの期待を有するはずであり、かかる期待は保護に値する。

    そこで、前訴の審理経過に照らし当然に主張すべきであった事実の主張については後訴においてすることは許されないと考える(権利失効の原則)。

 (2) 本件において、賃料不払いの事実が前訴の口頭弁論終結前にすでに生じていた場合、原告は、被告が賃借権の抗弁を提出した時点でかかる事実を前訴において主張可能であったはずである。他方、賃料不払いの事実が前訴口頭弁論終結後に生じていた場合、原告はかかる事実の主張が不可能であったため、後訴提起を認める必要がある。

 (3) したがって、賃料不払いの事実が前訴口頭弁論終結後の場合には、原告は後訴提起が可能である。

 4 以上より、裁判所は賃料不払いの事実が前訴口頭弁論終結前の場合は訴え却下判決をし、前訴口頭弁論終結後の場合は自由な心証に基づいて本案判決をすべきである。

以上

 

[1] 司法研修所編『新問題研究 要件事実』(法曹会、2011)21頁参照。

[2] 最判昭和55年2月7日参照。

[3] 高橋概論・251頁参照。