法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成29年度(2017年度) 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1

1 裁判所が、Xの申し立てよりも低い150万円の立退料と引き換えに当該建物明け渡しの認容判決をしたことが、処分権主義(246条)に反し、許されないのではないか。

2 処分権主義とは、訴訟の開始、審判対象の特定、訴訟の終了について当事者の自由な処分に委ねる建前をいう。その趣旨は私的自治の訴訟法的反映にあり、その機能は被告への不意打ち防止である。

   そこで、原告の申立事項の一部を認容する判決は、原告の合理的意思に反しない限り認められるが、原告の申立事項を超える判決をすることは許されないと考える。

3 本件では、原告は200万円の立退料と引き換えに当該建物の明け渡しを求めていた。それに対して、裁判所の150万円の立退料という認定は、原告の申立事項よりも原告にとって有利な判決であり、原告の申立事項を超える判決である。これは、Xの合理的意思に反するうえ、少なくとも200万円の立退料は認められると考えていたYにとっても不意打ちとなる。

4 したがって、本判決は処分権主義に反し、許されない。

第2 設問2[1]

1 第1に、XはYを被告として、本件土地の所有権(民法206条)に基づく当該建物収去土地明渡しを求める訴えを別訴として提起することが考えられる。もっとも、かかる別訴は、重複訴訟の禁止(142条)に反し、許されないのではないか。

(1) 同条の趣旨は、被告の応訴の煩、訴訟不経済、既判力抵触のおそれといった弊害を防止する点にある。

   そこで、「事件」とは、①当事者が同一で②審判対象が同一である場合をいうと考える。

(2) 本件では、旧請求新請求ともに、原告X被告Yであり、当事者は同一である(①充足)。もっとも、訴訟物は、旧請求がXのYに対する、賃貸借契約終了に基づく建物明渡請求であるのに対し、新請求はXのYに対する所有権に基づく建物収去土地明渡請求であり、訴訟物たる権利関係が異なる(②不充足)。

(3) したがって、「事件」にあたらず、本件別訴提起は許される。もっとも、信義則ないし争点効の抵触が生じうるため、弁論併合が望ましい。

なお、これでは原告は旧訴における訴訟資料を当然には継続的に使用できない。また、訴え提起にかかる訴訟費用を無駄に負担することになりかねない。

2 そこで第2に、Xは訴えの追加的変更(143条1項)によって、前述の訴えを本件旧訴に追加することが考えられる。かかる変更が認められるか。

(1) 「請求の基礎に変更がない」といえるか。

   ア 同要件の趣旨は、防御の対象が無関係なものにされて、被告が困惑することを防ぐ点にある。

     そこで、「請求の基礎に変更がない」とは、両請求の主要な争点が共通であって、旧請求の資料が新請求に利用でき、両請求の利益主張が社会生活上は同一または一連のものと評価できることをいうと考える。

   イ 本件では、新請求が賃貸借契約に基づくものに対して、新請求は土地の所有権に基づくものであり、訴訟物が異なる上、執行対象も広くなるため、利益主張が社会生活上同一とはいえない。また、訴訟物がここまで異なれば、主要な争点が共通でもないし、訴訟資料や証拠資料が新請求に利用できるとも言えない[2]

   ウ したがって、「請求の基礎に変更がない」とはいえない。

(2) もっとも、本件訴えは、Yの防御に応じてなされたものであるところ、同要件の趣旨が妥当せず、例外的に同要件は不要といえないか。

  ア 請求の基礎の同一性が要求される趣旨は前述のとおりである。そうだとすれば、被告の防御方法によって訴えの追加的変更を行う場合には、かかる趣旨が妥当しない。

    そこで、被告の防御方法に基づいて訴えの追加的変更を行う場合には、被告はその訴えの変更が許されないことを主張することはできないと考える。そして、相手方の陳述した事実は、積極否認の内容となる重要な間接事実も含まれると考える。なぜなら、積極否認も実質的に判決の対象となりうるのであり、被告はかかる事実の陳述に責任をもたなければならないからである。

  イ 本件では、土地上の建物がYの所有物であるとの主張に基づいてXは本件訴えの変更を行っている。そして、Yのかかる主張の事実は、解約通知による賃貸借契約終了という請求原因と両立しない積極否認である。

  ウ したがって、本件訴えの変更は請求の基礎の同一性を要しない。

(3) そして、本件は客観的併合の一般的要件も満たす。

(4) よって、「口頭弁論の終結」前に、「著しく訴訟を遅延させ」ない限りで、「書面」によって、本件訴えの変更が可能である。

以上

 

[1] モデル判例は最判昭和39年7月10日参照。なお、旧司法試験平成2年民事訴訟法第2問参照。

[2] 判例はこの点について判断をしていない。肯定説もありうるところである。そもそも両訴訟の真の目的は、Yの土地上の占有を排除するという点にあり、この点からみれば両請求は社会生活上利益主張が同一といい得る。また、土地上の建物がYの所有物であるという点について先行自白が成立するのであれば、旧請求の裁判資料を新請求において継続的に使用できることに意味がある。昭和39年判例の第1審及び原審は請求の基礎の同一性なしとしたが、学説では同一性ありとの見解が多数説と思われる。