解答例
第1 問1
1 小問1
(1) Xの後訴の提起及び主張は、既判力(114条1項)及び信義則等、前訴判決によって遮断されない。
(2) 前訴既判力は、後訴に及ばない。
ア 既判力とは、確定した判決の主文に表された判断の通有性[1]をいう。その趣旨は紛争の一回的解決という制度的要請にあり、正当化根拠は手続保障充足に基づく自己責任にある。そして、前訴既判力が後訴に及ぶかどうかは、前訴後訴の訴訟物が①同一②先決③矛盾のいずれかの関係にあるかによって決すると考える[2]。
イ 本件前訴訴訟物は、XのYに対する所有権に基づく返還請求権としての甲建物明渡請求権である。これに対して、本件後訴訴訟物は、賃貸借契約終了に基づく甲建物明渡請求権である。まず、前訴後訴訴訟物は同一でないことは明らかであるし(①不充足)、前訴訴訟物が後訴訴訟物との関係で実体法上論理的前提をなすわけでもないので、先決関係にもない(②不充足)。また、前訴訴訟物と後訴訴訟物が実体法上非両立の関係とならず、矛盾関係にあるともいえない(③不充足)。
ウ したがって、本件後訴に前訴既判力は及ばず、Xの後訴提起及び主張は既判力に遮断されない。
(3) 前訴においてYの賃借権の存在が争われていたのであるから、Xは、前訴において賃料不払いを理由とした契約解除を主張することが可能であった以上、信義則によりXの主張が遮断されるとも思える。しかし、
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