解答例
第1 設問1
1 甲が小屋の出入口扉を外側からロープできつく縛った行為に監禁罪(220条)が成立する、との主張は、監禁罪の保護法益を「移動しようと思えば移動できる自由(可能的自由)」と捉え、被害者に場所的移動の自由をはく奪されていることの認識は不要であると解するものである。これに対して、監禁罪が成立しない、との反対の立場は、監禁罪の保護法益を「現実に移動しようと思ったときに移動できる自由(現実的自由)」と捉え、被害者が場所的移動の自由をはく奪されていることの認識が必要であると解するものである。
2 この点、監禁罪の保護法益は、移動の可能性・選択肢を有することに意義があるところ、可能的自由が妥当であると考える。
3 本件では、Xのいる小屋を外側からロープできつく縛り、小屋という一定の場所からの脱出を困難にして移動の自由を奪い「監禁」している。本件では、甲のかかる行為の間、Xは熟睡して一度も目を覚ましていないものの、上記のとおり、被害者の認識は不要である。
4 よって、甲の上記行為に監禁罪が成立する。
第2 設問2
1 甲が、Xの携帯電話1台を自己のリュックサックに入れた行為に、器物損壊罪(261条)が成立する。
(1) Xは、犯行隠蔽目的で上記行為を行っているが、犯行隠蔽目的には不法領得の意思が認められず、窃盗罪(236条)が成立しない。
ア 使用窃盗罪及び毀棄隠匿罪との区別の必要性から、不法領得の意思とは、①権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として②その経済的用法に従い利用・処分する意思をいうと考える[1]。
イ 本件では、甲の上記行為の動機は、Xの携帯電話機をXの死体から遠く離れた場所に捨てておけば、Xの死体の発見を困難にできる上、山中をさまよって滑落したかのように装うことができるという犯行隠蔽目的によるものといえる。そして、