法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成28年度(2016年度) 商法 解答例

解答例 

第1 設問1

 1 本件貸付けの効力

  本件貸付は直接取引(会社法(以下法名略)356条1項2号)にあたるにもかかわらず、Yが取締役会の決議を経なかったことを理由に、本件貸付けが無効とならないか。

 (1) 本件貸付けが直接取引にあたるか。

 ア 直接取引とは、取締役が自己または第三者のために会社と取引をすることをいう。そして、同条の趣旨は会社の利益の犠牲の下に取締役が自己の利益を優先することを防止する点にある。

   そこで、「ために」とは、自己または第三者の計算で取引をすることをいうと考える。

 イ 本件では、Yは自宅の新築資金として、甲社から5000万円を借り受けているところ、自己の計算において事故が取締役を務める会社と取引をしている。

 ウ したがって、本件貸付けは直接取引にあたる。

 (2) Yは取締役会において、本件貸付けに係る重要な事実を開示しなければいけなかった(365条1項、356条1項2号)にもかかわらず、それをしていない。Yには365条1項違反が認められる。

 (3) したがって、本件貸付けは無効である。もっとも、かかる規制違反の取引をした取締役の側からかかる無効は主張できないと考える。

 2 Yの対会社責任(423条1項)

 (1) 甲社は本件貸付をYに有利に行われており、有利に貸付けがなされた分、甲社には「損害」が生じている。

 (2) Yは本件貸付けに先立って取締役会に重要な事実を開示しなければならなかったにもかかわらず、それをしていない法令違反があり、忠実義務(355条)違反が認められる。したがって、Yは本件貸付けにおいて、「任務を怠った」(任務懈怠)といえる。

 (3) そして、損害とYの務懈怠の間には、因果関係が認められ、Yには、任務懈怠について、少なくとも過失は存在したといえる。

(4) よって、Yは甲社に対して、任務懈怠責任を負う。

第2 設問2

 1 株主Xは、847条1項に基づいて、甲社に対し、Yの責任追及の訴えを提起するよう

に請求することが考えられる。

もっとも、Yの甲社に対する債務は取引によって生じたものであるところ、このような債務も「責任」に含まれるか。

 (1) 取締役は会社に対して忠実義務を負っているところ、取締役と会社との間の取引によって生じた債務についても、取締役は履行すべきである。

    そこで、会社と取締役の間で生じた全債務が「責任」に含まれると考える。

 (2) 前述のとおり、本件債務はYと甲社の間でなされた取引である。

 (3) したがって、本件貸付け債務も「責任」に含まれる。

 2  Yは「60日以内」に甲社が責任追及の訴えを提起しない場合には、自らYに対して訴えを提起できる(847条2項)。また、上記の期間の経過により甲社に回復することのできない損害が生じるおそれがある場合には、Yは直ちに訴えを提起することができる(847条4項)。

以上