法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成29年度(2017年度) 商法 解答例

解答例

第1 設問1

 1 株式譲渡の譲渡は本来自由であり、当事者間で有効とするだけであれば、第三者の利益を害することもないため、当事者間では有効と考える。

 2 それでは、本件株式譲渡は、会社との関係でも有効か。

 (1) 取締役会設置会社における譲渡制限株式の譲渡には、役会の承認が必要である(139条1項)。

 (2) 本件では、株式の譲渡人であるAも譲受人であるCも会社に対し承認請求(136条、137条)としていない。承認請求がない以上、会社側は株式の譲渡について承認できない。

 (3) したがって、本件株式譲渡は、会社との関係では無効である。

第2 設問2

 1 まず、Bは自己に本件株式総会の招集通知がなされなかった点について、決議の手続に法令違反(831条1項1号)があると主張することが考えられる。

 (1) 会社は、株主総会に先立って、株主に招集通知を発しなければならない(299条1項)が、本件では、株主Bに対して招集通知がなされなかった。

    したがって、法令違反が認められる。

 (2) もっとも、上記手続違反には裁量棄却(832条2項)が認められ、決議の効力を取り消すことができないのではないか。

   ア 確かに、Bの有する株式は30株であり、Y社株式の全体の30パーセントである。取締役の選任決議は出席株主の議決権の過半数の賛成で可決となる(341条)ところ、Bが出席したところで結局賛成の決議が行われるため、「決議の結果に影響を及ぼさない」。

     しかし、株主への総会の招集通知は総会への出席の機会を確保するという重要な制度であり、かかる通知を怠ったことそれ自体をもって、重大な違反といえる。したがって、「違反する事実が重大でな」いとはいえない。

   イ よって、裁量棄却は認められず、Bは本件株主総会の決議を争える。

 2 つぎに、Bは本件総会に先立って行われた取締役会について、自己に招集通知がなされなかった点について、決議の手続に法令違反(831条1項)があると主張することが考えられる。かかる主張が認められるには、招集通知の瑕疵によって取締役会が無効になり、かかる無効をもって298条4項に反するといえる必要がある。それでは、招集通知の瑕疵ある取締役会が無効となるか。

  (1) そもそも、取締役会は、取締役会の権限行使を慎重かつ適切ならしめるために合議体をなしており、招集通知はそのような合議体への出席の機会を確保する重要な制度であるといえる。そこで、取締役に招集通知を欠く役会は原則として無効と考える。

     もっとも、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情があるときには、当該役会は有効と考える。

 (2) 本件では、Y社の取締役は3人であり、ABとCとの間で対立が起きている。そうだとすれば、招集通知のなされなかったBが取締役会に出席したとしても、ACが協力して経営を支配しようとしており、本件役会では決議が覆ることはない。したがって、Cが本件役会に出席してもなお決議の結果に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情があったといえる。

 (3) よって、本件役会は有効である。

   以上より、上記主張によって、Bは本件株主総会の効力を争えない。

 3 最後に、Bは、株主でないCが本件株主総会において議決権を行使しているところ、かかるCの議決権行使が無効であり、そもそも株主総会の定足数を満たしていないことになり、決議の内容に法令違反(830条2項)すると主張することが考えられる。

 (1) Cが株主でないことは設問1のとおりである。

 (2) そして、役員選任の総会決議の定足数は議決権の過半数を有する株主の出席が必要である(341条)が、本件では、議決権を行使できる株主の参加はDのみであって、その議決権は10株であり、Y社株式の全体の10パーセントにすぎない。

    したがって、同条の要件を満たさず決議の内容に法令違反が認められる。

 (3) よって、Bは上記主張によって、本件株主総会の効力を争える。

以上