解答例
第1 設問1
1 裁判所の本件判決は、弁論主義第1テーゼに反し許されないのではないか。
(1) 弁論主義とは、判決の基礎をなす事実の確定に必要な資料の収集、提出を当事者の権能かつ責任とする建前をいう。その趣旨は、私的自治の訴訟法的反映に基づく当事者の自律的水平空間確保にあり、その根拠は当事者への不意打ち防止にある。そして、かかる弁論主義から、裁判所は当事者の主張していない事実を判決の基礎とすることはできないとの弁論主義第1テーゼが一導かれる。
「事実」とは、当事者の最低限の不意打ち防止の点から主要事実に限られると考える。「当事者」とは、自律的水平空間の確保という観点から、両当事者の内一方を意味する。また、訴訟資料と証拠資料の峻別の観点から、「主張」は弁論期日になされている必要がある。
(2) 本件訴訟物は、XのYに対する所有権に基づく甲土地明渡請求権であり、その請求原因事実は、①甲土地Aもと所有②AX甲土地売買③Y甲土地占有である。裁判所は、Aから甲土地を買ったのはXではなくCであるとの認定をしようとしている。かかる事実は、AX売買甲土地売買という請求原因事実と両立しない主張であって積極否認にあたるところ、間接事実である。したがって裁判所の認定しようとしている事実は「事実」に含まれない。
(3) したがって、裁判所の本件認定は弁論主義第1テーゼに反せず、許される。
2 よって、裁判所はXの請求を棄却する判決を言い渡すことができる
第2 設問2
1 裁判所の本件判決は、弁論主義第1テーゼに反し、許されないのではないか。前述の解釈に照らし検討する。
(1) まず、裁判所が認定しようとする事実のうちXはAから甲土地を買ったという点は、Xの甲土地所有権を基礎づける請求原因事実であり、主要事実にあたるところ「事実」にあたる。もっとも、「当事者」たるXによってかかる事実は「主張」されているため、かかる点は弁論主義第1テーゼに反しない。
(2) 次に、Xが甲土地をCに売ったという点は、請求原因と両立し、Xの甲土地所有権を喪失させる事実であるところ、抗弁事実にあたり主要事実である。しかし、かかる点は「当事者」であるXYのどちらも「主張」していない。
(3) したがって、裁判所が、Xが甲土地をCに売ったという事実を認定することは、弁論主義第1テーゼに反し、許されない。
2 よって、裁判所はXの請求を棄却する判決を言い渡すことができない。
第3 設問3
1 裁判所の本件判決は、処分権主義(246条)に反し、許されないではないか。
(1) 処分権主義とは、訴訟の開始、審判対象の特定、訴訟の終了を当事者の自由な処分に委ねる建前をいう。その趣旨は私的自治の訴訟法的反映にあり、その根拠は被告の不意打ち防止にある。
そこで、裁判所は、当事者の申立事項を超えて判決をすることはできない。
(2) 本件では、XはYに対し、甲土地売買契約に基づく1000万円の代金支払請求をしているのに対し、裁判所はXのYに対する乙土地売買契約に基づく1000万円の代金支払請求について請求認容判決をしようとしている。以上にかんがみれば、裁判所のしようとしている判決はXの提起した訴訟物と異なるため、Xの申立事項を超える。
(3) したがって、裁判所の本件判決は、処分権主義に反し許されない。
2 よって、裁判所は、Xの請求を認容する判決を言い渡すことができない。
以上