1.はじめに
※この項目は他の書評記事でも記載した内容と同じなので、そちらをすでに読んでいただいた方はこの項目を飛ばしていただいて構わない。
ここでは、受験生がよく使用している会社法の基本書や演習書について、個人的な書評を交えながら、紹介する。
まず、前提として、僕は人にはそれぞれに合った勉強法があると考えている。基本書等を読まなくても予備校教材だけで予備試験に1年程度で合格できる人もいれば、基本書等や演習書等を通じて深い理解をすることで司法試験に合格できる人もいる。
僕はどちらかといえば後者側の人間だった。予備校のような論点を紹介する教材だと、どうしても論点の文脈が分からなかったりするが、基本書では、原理原則から説き起こして各論点を説明するため、スッと入ってくる感じがあった。
これから紹介する基本書等は、そのようなタイプであった僕が紹介する基本書等になるため、予備校教材だけで十分合格できるタイプの受験生が無闇に手を出すことは、全くお勧めしない。また、仮に手を出すにしても、無闇やたらに全ての書籍を購入するのは、消化不良を起こし、弊害の方が大きくなるおそれがある。自分のキャパシティとの兼ね合いは非常に大事であることに注意してほしい。
今現在予備校教材でよく理解できていない部分がある方や成績に伸び悩んでいる方にとっては、もしかすると最良の教材になり得る。立ち読みからでも良いので、一度気になった書籍を読んでみることを勧めたい。
2.基本書
(1) サクハシ行政法
2019年8月出版。432頁。
初学者から上級者まで、最後まで使用する行政法テキストのベストセラー版である。改訂する度に少しずつ分量が多くなっているが、それでもかなりコンパクトにまとめているため、通読もしやすい。初学者から上級者まで、とりあえずこの1冊を持っておけば安心、という位置づけの書籍である。
行政法のテキストを1冊買うのであれば、やはりこの書籍が現時点では決定版といえる。
(2) スタンダード行政法
2021年12月出版。386頁。
サクハシと同じ方向性の、コンパクトな基本書として、新しい選択として村上行政法を紹介しておく。
法学教室の連載を書籍化したものであり、コンパクトにすべての網羅を簡潔に解説している。サクハシが改訂を重ねて少しずつ厚くなっているため、より薄く、それでも司法試験まで通用し得る書籍を、という方はこちらを手に取ってみることをおすすめする。
(3) 基本行政法
2018年3月出版。498頁。
基本シリーズの行政法Ver.である。他の基本シリーズと同様に、事例をベースに解説をするという形式となっているため、実際の試験を念頭においたインプットをしやすいといえる。
ただ、個人的には解説の仕方がやや独特な印象を受けるのと、そこまで分かりやすい内容になっていないように思われる点で、お勧め度としては低い。もっとも、受験生のシェアは比較的高いので、多くの受験生と外れない勉強をしたい、という方にはこちらの書籍が無難だと思う。
(4) 大橋行政法
2019年5月出版。506頁。
2021年11月出版。502頁。
個人的に、行政法のなかで最も分かりやすく、使いやすい基本書であると思っている。
図などを用いて、分かりやすい内容となっているのが特徴であるが、二分冊になっているので、サクハシやスタンダード行政法よりもさらに深い内容を得ることができる。ケースを念頭に置く点で、構成としては基本行政法に近い。
受験生で大橋行政法をメインに据えている方は少ないイメージであるが、他の基本書よりも圧倒的に受験対策用としても用いやすい基本書であると思う。サクハシの次のステップの基本書で迷っている方には、圧倒的にこの書籍をお勧めする。
(5) 塩野行政法
2015年7月出版。442頁。
2019年4月出版。450頁。
2021年4月出版。476頁。
紹介するか非常に迷ったが、さすがに紹介しないと怒られそうな(?)気がしたので、念のため紹介しておく。
行政法の大家の塩野先生による3冊組の基本書となる。現在最も権威のある基本書で、調べものをするときにはまずこれを参照しろ、といわれる基本書である。
もっとも、受験的には使いづらいと思われる。そもそも受験対策を念頭に置かれた基本書ではないことはもちろん、公物法等まで深入りするので基本書としてはオーバースペックな内容となっているからである。
行政法を得意科目にしたい方は、ぜひこの基本書を購読することをお勧めする。
3.副読本
(1) 曽和行政法
2014年3月出版。510頁。
あまり参照している受験生は少ないイメージだが、かなりの良書である。法学教室の連載を書籍化したもので、イメージ的には、刑法でいうところの「悩みどころ」、刑事訴訟法でいうところの「古江本」などに近い位置づけにある書籍である。僕も、論点を深掘りしたいときなどに愛用していた。
ネックなのは、行政救済法が書籍化されていない点である(年月が経ちすぎていることから、今後も書籍化はされないのであろう。非常に残念である。)。
行政法総論は、答案への落とし方が難しいと感じている受験生が多いと思うが、そのような苦手意識を持っている人は、この書籍を読めば他の科目と同じような感覚で理解していくことができるので、ぜひ一度読んでみてほしい。また、行政救済法の連載も非常に分かりやすいので、気に入った方は図書室でコピーすることをお勧めする。
(2) 行政法解釈の基礎
2013年12月出版。300頁。
いわゆる「仕組み解釈」と呼ばれる解釈技法を広く広めた橋本教授が、各分野ごとに、司法試験過去問をモデルにその実践方法を解説する書籍である。
司法試験をモデルとするため、その内容は高度なものとなっているため、予備試験受験生等にとってはオーバースペックになるかもしれない。しかし、この書籍をしっかり読み込んで理解できれば、どんな問題が出題されても現場で対応可能となる思考方法を身に着けることができるであろう。
ネックなのは、2013年から改訂がされておらず、モデルとしている司法試験もかなり古くなってしまっている点であろうか。ただ、行政法の問題を解くときの頭の使い方を知るという意味では、書籍が古くなっていることはそこまで大きなデメリットにはなっていないと思うので、今日でも強く推薦できる書籍の1冊である。
(3) 解釈の技法
2023年3月出版。352頁。
受験指導に深く携わる伊藤先生、大島先生に加え、橋本教授の共同著書である。
「仕組み解釈」と呼ばれる行政法特有の解釈技法等について、平易に解説する書籍である。この書籍のすごいところは、平成23年度から令和4年度までのすべての予備試験過去問の起案例を掲載してくれている点である。受験指導に長く携わる専門家による起案例であり、その内容の信頼性は非常に高いといえる。個人的には、解説パートの部分についてより深く立ち入ってほしかったが、対象者としては予備試験受験生を主に念頭に置いたものであろうことからすれば、これが必要十分な内容と考えているのかもしれない。
4.演習書
(1) 基礎演習行政法
2106年3月出版。298頁。
下記の事例研究よりは易しい問題となっているが、予備試験、若しくは司法試験まで十分通用するレベルの演習書といえる。一通り行政法を勉強した方が使う演習書として最も最適だと思われる。
(2) 事例研究行政法
行政法の演習書の決定版である。
Ⅰ部からⅢ部に分かれており、Ⅰ部が基本的な問題(それでも予備校等で行政法を勉強した方にとっては目から鱗の情報が盛りだくさんだと思う。)、Ⅱ部が司法試験レベルの応用的な問題、Ⅲ部はさらに高度な問題(解説もない)、という構成である。
予備試験受験においてはⅡ部はかなりオーバースペックであるが、Ⅰ部だけでも解いておくと、必ず力になる問題が含まれている。
5.判例集
(1) 行政判例ノート
2023年3月出版。344頁。
行政法の判例集の中で最もコンパクトな書籍である。長めに判旨を引用してくれているのと、最後に橋本先生の簡単なコメントが付されている。
行政法の判例百選は、司法試験対策ということを考えると若干分量が多いように思われる。基本書や過去問を解いて少し判例の判旨を詳しく知りたい、というときの参照用としては、判例ノートでも十分なように思われる。
(2) 判例百選
2022年11月出版。264頁。
2022年11月出版。268頁。
行政法の問題は、基本的に判例をベースにした問題が出題されることからすれば、行政判例百選を持っておくことに越したことはないようにも思われる。
ただ、行政法で大事なことは、どんな問題でも対応可能な抽象的な処理手順・思考方法を身に着けることであり、すべての重要な行政判例をインプットしようとするのは悪手だと思う。そう考えると、個人的には行政判例ノートで十分なように思う。
勉強を進める中で、あるいは過去問を解く中で、行政判例ノートの判旨の引用では足りない、とか、当該判例の評釈を読んでみたい、という思いが強くなった場合には、判例百選を手に取ることを勧める。
(3) 行政法判例集
2019年5月出版。538頁。
2018年10月出版。498頁。
判例百選よりも、より長く判例を引用する判例集である。その反面、判例百選のような解説等は付されておらず、文字通りの「判例集」である。
行政法を研究しつくしたい、上位合格を目指したい方は、ぜひこの行政法判例集を手元に置いておくことをお勧めする。
6.おわりに
かなり多くの書籍を紹介させていただいたが、冒頭にも記載したように、決して全ての書籍を購入することを勧めているわけではないことに注意してほしい。僕も受験生の頃に全てを使用していたわけではない。
僕の書評を読んでいただいた上で、今の自分にとって必要な書籍はどれか、というのをしっかり吟味していただいた上で、各書籍を読んでみてほしい。
以上