解答例
第1 設問1
1 小問1[1]
Bは、令和3年3月1日の夜、Aから電話で本件犯行をもちかけられたこと、同月9日午後0時過ぎ頃、Aと共にV方付近へ向かい、Aからサバイバルナイフを借りて本件犯行を実行したこと、AにVから奪ったキャッシュカードを渡した等ことから、Aが本件住居侵入・強盗致傷の共犯者であると供述している。
Bの供述は、Bが使用していた携帯電話機の通話履歴に合致している上(証拠⑫)、Bの使用車両と車両番号の下4桁が同じで同車種の車が現場付近の防犯カメラに記録されていたこと整合している(証拠④、⑤)。また、A方から、Bの指紋の付着したサバイバルナイフとキャッシュカードが発見されたこととも整合している(証拠⑫、⑬、⑭)。Bは、本件住居侵入・強盗致傷への自己の関与を認めつつAの犯人性を供述していることなどから、引き込みの危険も少ない。
よって、検察官は、Bの供述のうち、本件被告事件に関与したのはAであるとする供述部分の信用性が認められると判断した。
2 小問2[2]
(1) 共謀の成否
ア 事実認定
(ア) 関係者の人的関係
AとBは、地元の先輩・後輩の関係で、Bが学校でいじめられていたときに助けてもらったり、BがAから金を貸してもらったりしていた(証拠⑩、⑰)。
(イ) 犯罪実現に対する利害関係、意思連絡の経過等
Aは消費者金融2社に対して総額325万円の債務を負っていた(証拠⑯)。
令和3年3月1日、Aは、Bに対して本件犯行を持ち掛け、Bはこれを承諾した。その後、AとBとの話し合いの結果、Bが宅配業者を装ってV方に入り、刃物でVを脅して現金とキャッシュカードを奪うこと、その間Aが見張りをすることを決めた(証拠⑩、⑰)。
(ウ) 実行行為以外の加担行為
Aは、同月9日の犯行当日、Bの車を運転し、Bを連れてV方付近に向かった。Aは、Bに対して凶器としてサバイバルナイフ1本を渡した(証拠⑩、⑰)。
(エ) 犯行後の行為等
Aは、犯行後しばらく車を走らせた後、コンビニエンスストアでV名義のキャッシュカードを用いて現金を引き出そうとしたが、キャッシュカードが利用停止になっており、出金できなかった(証拠⑥、⑩、⑰)。AとBは、V方から奪った現金500万円の取り分を、Aが300万円、Bが200万円とした(証拠⑩、⑰)。Aは、同日、消費者金融への債務を返済した(証拠⑯)。
イ あてはめ
(ア) 意思連絡について
上記(1)イの経緯に照らせば、令和3年3月1日夜、AとBとの間に、Vの金を奪う住居侵入・強盗を共同遂行するとの意思連絡があったといえる。その後、各自の役割についても取り決めをしていることから、意思連絡していたことは一層確実といえる上、役割分担も決定された。
(イ) Aの正犯意思について
Aは、本件犯行を持ち掛けた、いわゆる首謀者の立場にあった。また、Aは凶器であるサバイバルナイフを用意し、実行犯であるBを犯行現場まで送り、見張り役をする重要な役割を果たしている。また、Aは300万円以上の負債を負っており、本件犯行によって300万円の金銭を得、それによって当該債務を返済していることから、相当額の利得を得ているといえる。これらの事実からすれば、Aは、本件強盗行為を自己の犯罪として実現したものと評価できる。
(ウ) 小括
以上から、AとBとの間に本件住居侵入・強盗を共同遂行することについての合意、すなわち強盗の共同が成立したと認められる。
(2) 共謀に基づく実行行為があること
Bの強盗行為は、上記(1)で認定した強盗の共謀のとおり行われたものであるから同共謀に基づく実行行為であることは明らかである。
(3) 以上より、検察官は、Aに共謀共同正犯が成立すると判断した。
第2 設問2
1 公判前整理手続は、充実した公判審理争を継続的、計画的かつ迅速に行うことを目的として、争点及び証拠の整理を行い、審理計画を策定するための制度である(刑事訴訟法(以下、「法」という。) 316条の2、316条の3、刑事訴訟規則(以下「規則」という。)217条の2)。
Aの弁護人は、AとBの共謀がないとの予定主張記載書(法316条の17第1項)を提出しているところ、共謀の有無が主要な争点となることが想定された。そのため、裁判所は、共謀の有無のより詳細な証明方法について、追加の証明予定事実記載書(法316条の21第1項)の提出を求めた。
第3 設問3
1 接見等禁止の請求(法81条)は、①逃亡のおそれがあると疑うに足りる相当な理由があるとき、又は、②罪証隠滅のおそれがあると疑うに足りる相当な理由があるときに認められる。本件では、下線部㋒の前後で、脱獄をする相当な理由までは認められないことは明らかであるため、罪証隠滅のおそれについて検討する。「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」とは、勾留によっては防止できない程度の罪証隠滅のおそれがあることをいう[3]。罪証隠滅のおそれについては、①罪証隠滅の対象②罪証隠滅の態様③罪証隠滅の客観的可能性及び実効性④罪証隠滅の主観的可能性の観点から判断する[4]。
2 本件では、下線部㋒の時点では、公判前整理手続が終了したのみで、証拠調べがまだ終了していない。かかる時点で接見を認めた場合、AとBは面識のあることが認められるところ(証拠⑪)、接見にきた第三者が、Aからの依頼を受けてBと接見をして虚偽の供述を求める等の態様で(②)、AB間の共謀の事実について(①)、罪証隠滅を図るおそれがある(③)。また、Aは共謀の事実について争っており、罪証隠滅行為にでる主観的可能性も有する(④)。
3 これに対して、下線部㋓の時点では、全ての証拠調べ手続が終了している。かかる時点以降にBに対して虚偽の供述を求めてもほとんど意味がなく、罪証隠滅の客観的可能性がない。したがって、接見等禁止請求の要件を欠く。
4 そのため、検察官は、異なる対応を採った。
第4 設問4
1 小問1
(1) Bは、証人尋問で「当日Bが着ていた作業着やロープはAが用意したものである」旨証言していたのに対し、証拠⑩で「作業着を自分で購入した」旨及び「家にあった物干しロープを使うことにした」旨供述しており、証人尋問の証言内容と証拠⑩の供述内容が矛盾している。そこで、弁護人は、Bの証言の信用性を弾劾するために証拠⑩の取調べを請求した。
(2) 第2回公判期日におけるBの証人尋問によってBの自己矛盾供述が認められたため、証拠⑩の取調請求の必要性が生じた。そのため、弁護人としては、公判前整理手続時点では証拠調べ請求の必要がないと考えたことに十分な理由があると認められ、「やむを得ない事由」があると考えた。
(3) 弁護人としては、Bの証言の信用性を弾劾するため、自己矛盾供述である証拠⑩の取調べを請求しているところ、証拠⑩は弾劾証拠(法328条)にあたる。そのため、弁護人は証拠⑩について証拠能力が認められると考えた。
2 小問2
上記1(3)のとおり、弁護人は弾劾証拠として証拠⑩の取調請求をしているため、証拠⑩は法326条1項の同意の対象とならない。そこで、検察官は「異議なし」と述べた[5]。
以上
[1] 論述の処理手順については、司法研修所検察教官室『検察終局処分起案の考え方(令和元年版)』(以下、「検察起案」という。)参照。共犯者供述の信用性についての論述は、①他の証拠・事実との整合性②知覚・記憶の条件③共犯者と「事件・被疑者・被害者等」との利害関係やその程度④供述態度・供述過程⑤供述内容等の観点から検討することになる。
[2] 犯罪の成否については、基本的に①構成要件要素の文言解釈②事実認定③あてはめ、という流れで論述するのが基本となる(検察起案21頁。)。しかし、時間的・紙面的制約の観点から、予備試験レベルでは②と③を混同して記載することでも問題ないと思われる。
[3] 司法研修所刑事裁判教官室『プロシーディングス刑事裁判(平成30年9月版)』(以下「プロシーディングス刑事裁判」という。)106頁。
[4] プロシーディングス刑事裁判103頁。
[5] プロシーディングス刑事裁判70頁。