解答例
第1 設問1
1 小問1
実行の着手は、行為者の犯行計画ないし認識を基礎として事態の進行が犯行の進捗度合いという観点からみて未遂処罰にふさわしい段階に至っているかを問うものである。そこで、実行の着手が認められるかどうかは、犯行計画が未遂処罰に値する程度にまで進捗していたかによって決すると考える。具体的には、進捗度合いの判断基点は実行行為に置き、①時間的場所的近接性、②行為経過の自動性などの事情に基づいて判断し、かつ、当該犯罪の保護する被害者領域への介入を要すると考える[1]。上記見解からすれば、詐欺罪は「人を欺いて財物を交付させ」るという手段・態様を限定した犯罪であるものの、「現金の交付を求める文言を述べること」(財物交付要求行為)それ自体がなくとも、実行の着手を肯定することが可能である[2]。
2 小問2
本件は、常習的な詐欺の犯行計画が練られている事案である。①の時点においては、詐欺をはたらく対象者としてAを選定したのみであり、被害者領域への介入が認められないため、この時点で実行の着手を認めることはできない。これに対して、②の時点では、Aに対して警察官である旨の嘘を述べている。たしかに、本件犯行計画によれば、2回目の電話は1回目の電話の翌日を予定しているため、時間的切迫性は認めがたい。しかし、本件犯行計画によれば、1回目の警察官であることを名乗り、甲の指定する電話番号をAに登録させてしまえば、あとは2回目の電話で預金口座から現金を引き出させ、その後Aからの電話で警察官がA宅を訪問することを予告することが、何らの障害もなくスムーズにできる以上、行為経過の自動性が高く認められる。以上にかんがみれば、被害者領域への介入が認められる②の時点で実行の着手が認められる[3]。なお、最判平成30年3月22日[4]では、