法律解釈の手筋

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令和2年度 司法試験 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1

1 課題1について

(1) 本件において、本件建物の明渡時に生じる敷金返還請求権について将来給付の訴えが認められるか。

(2) 将来給付の訴えについては、あらかじめその請求をすることが必要な場合に限り許される(民事訴訟法135条)。請求の必要性については、①現時点で給付判決を得る必要性②給付請求権自体の特定性(請求適格)の2つの観点から判断する。

(3) 本件では、Xは、Aから本件契約の締結時に交付された120万円について、礼金であって敷金ではないと述べているところ、敷金返還請求権の存否についてX・Y2間で争いが生じている。したがって、Y2は、現時点で給付判決を得ておく必要性があるといえる(①充足)。次に、請求権自体の特定性について、期限付請求権や条件付請求権は、肯定されるのが一般的である。しかし、本件で問題となっている敷金返還請求権は、実体法上、賃貸借契約終了後、不動産が明け渡されたときに敷金によって担保されるそれまでに生じた一切の債務の額を控除した残額につき発生するものと解されており、敷金返還請求権の具体的な額は本件建物の明渡時まで確定しない。本件において将来給付の訴えを認めるとすれば、その後にYらにおいて生じた賃料の滞納、修繕費の発生等について、Xにおいて請求異議の訴えを提起して争わなければならないことになる。Y1が解約の合意について争っている本件では、いつ賃貸借契約が終了するかについての見通しがなく、Xにおける請求異議訴訟の起訴責任の負担が過度に重いものとなってしまう。そうだとすれば、将来の敷金返還請求権については、停止条件付請求権において将来条件成就が争いになるような場合を超える起訴責任の負担がXに生じる。したがって、本件においては、請求適格を欠く(②不充足)。

(4) よって、本件では、将来給付の訴えは認められない。

2 課題2について

(1) 第1に、「賃貸借契約終了後、建物明渡がされたときにおいて、それまでに生じた敷金の被担保債権一切を控除し、なお残額があることを条件として、支払を求める権利を有する現在の法的地位」の確認の訴えは、確認の利益が認められるか。

ア 確認の利益については、①方法選択の適否②確認対象の適否③即時確定の利益の3つの観点から判断されると考える。

イ まず、将来給付の訴えは認められないことを前提としているため、給付訴訟によることができず、方法選択の適切性が認められる(①)。次に、確認対象適格について、本件確認の訴えは、自己の現在の法律関係の積極的確認であるため適切である(②)。そして、本件では、X・A間で交付された120万円の趣旨について、敷金であるか礼金であるかについて争いが生じているところ、紛争の成熟性が認められ、即時確定の利益も肯定される(③)。確かに、本件確認の訴えで確定されるのは、敷金返還請求権の存在に限られ、具体的な本件建物明渡時の金額についてまで確定されるものではない。しかし、交付された敷金の額が確定されれば、現在の紛争解決に有効・適切であるし、確認の訴えであれば、被告に起訴責任が転換されることもないため、Xにとっても負担はそこまで大きくない。具体的な敷金返還請求権の額を巡る訴訟重複の可能性については、単純な条件付請求権における執行文付与の訴えでも生じるものであり、被告としてその負担は甘受するしかない。

ウ したがって、かかる確認の訴えは、確認の利益が認められる。

(2) 第2に、「将来において発生・具体化する敷金返還請求権」の確認ではどうか。前述の3つの観点から判断する。

ア まず、方法選択の適切性は認められる(①)。次に、確認対象適格については、本件では、将来の権利についての確認であるため、確認対象適格を欠く(②)。もっとも、確認対象適格を欠くとしても、即時確定の必要性が高ければ、確認の利益は認められる。そこで、即時確定の利益について検討すると、確かに、Xは、賃料の滞納がなく、修繕の必要もないと述べているため、返還されるべき敷金の額について具体的に決定することが可能であるとも思える。しかし、前述のとおり賃貸借契約の終了については見通しが立っておらず、近い将来確実に敷金返還請求権が発生するという見込みはない。そうだとすれば、裁判所が、YらがXに本件建物を明け渡す将来までYらに賃料の滞納がないことや修繕費用が発生しないことを予測して敷金返還請求権の額を具体的に決定することは困難であるといえる。したがって、本件では、即時確定の利益が認められない(③)。

イ したがって、かかる確認の訴えは、確認の利益が認められない。

第2 設問2

1 裁判所は、当事者に争いのある事実については、当事者の申し出た証拠によって認定しなければならない(弁論主義第3原則)。

2 和解期日におけるY2の発言は、当事者の申し出た証拠ではない上、裁判所の職権としてなされた当事者尋問でもないため(民事訴訟法207条1項)、証拠として用いることはできない。

3 もし仮に和解手続における当事者の発言内容を心証形成の資料とすることができるとすると、和解期日は非公開でなされるところ、証拠調べの公開主義の要請に反することになり、憲法違反のおそれが生じる(憲法82条1項)。また、和解期日は裁判官交互面接型和解によってなされており、本件も係る方式によって行われているところ、このような方式でなされた当事者の発言を証拠とすることができるとすれば、相手方当事者の立合いの権利(民事訴訟法240条、94条)を実質的に奪うことになり、手続保障を侵害することになるという問題も生じる。

第3 設問3

1 本件訴訟は、通常共同訴訟か固有必要的共同訴訟か。

(1) 訴え提起は、敗訴によってあたかも権利処分と同様の効果が発生する。もっとも、当事者適格は、誰と誰との間で紛争解決をすることが適切かという概念でもある。そこでk実体法上の管理処分権及び訴訟政策的観点から、訴訟共同の必要性を考える。

(2) 本件訴訟は、XのY1及びY2に対する賃貸借契約終了に基づく本件建物明渡請求権である。共同相続人に対する契約上の義務としての建物明渡請求権は不可分債務であるところ、債権者は債務者の1人に対して履行請求が可能である(民法430条、436条)。また、本件訴訟を固有必要的共同訴訟とすると、原告による被告探索の困難による訴え提起の困難という問題が生じる。さらに、通常共同訴訟と解してたとしても、原告は債務者全員に対して債務名義を取得しなければ強制執行をすることができないため、被告の保護に欠けることはない。

(3) したがって、本件訴訟は、通常共同訴訟である(民事訴訟法38条)。

2 課題1について

通常共同訴訟は、個別訴訟が束になったものであり、訴訟相手方が一方の共同訴訟人に対してした訴訟行為は、相手方と他の共同訴訟人との関係において効力を有しない(共同訴訟人独立の原則 民事訴訟法39条)。

したがって、Xは、Y2に対する訴えのみを取り下げることが可能である。

3 課題2について

(1) 共同訴訟における証拠調べの効果

ア XY2訴訟における本件日誌の証拠調べの結果をXY1訴訟との関係で事実認定に用いてよいか。共同訴訟人独立の原則(民事訴訟法39条)から認められないとも思えるが、解釈として共同訴訟人間の証拠共通の原則が認められるかが問題となる。

イ 共同訴訟人間の証拠共通の原則とは、共同訴訟人の申し出た証拠方法から得られる証拠資料は、申出をしていない他の共同訴訟人に関する事実認定にも使用されてよいという原則をいう。確かに、かかる原則を認めることは職権証拠調べの禁止を命じる弁論主義第3原則に反する。しかし、自由心証主義の下では、一つの歴史的事実の心証は一つしかあり得ないのに、共同訴訟人の一人のためには真実であるが、他の一人に対して虚偽であるという認定は、不可能ではないとしても、極めて不自然である。そこで、司法政策的観点から、弁論主義よりも自由心証主義を重視すべきであり、同原則が認められると考える。

ウ 本件では、Y2が提出した本件日誌の取調べの結果を、XY1訴訟との関係でも事実認定に用いることができる。

(2) 訴えの取下げによる影響

訴えの取下げによって、XY1訴訟は、初めから係属していなかったものとみなされる(民事訴訟法262条1項)。したがって、Y2の証拠調べについても、遡及的に消滅する結果、裁判所はかかる証拠調べの結果をXY1訴訟において事実認定に用いることはできなくなると考える。

確かに、上記の帰結は、共同訴訟人間の証拠共通の原則に反するとも思われる上、Y1に不意打ちを与えることになり、妥当でないとも思える。しかし、そもそも共同訴訟人間の証拠共通の原則は、XY1訴訟とXY2訴訟で異なる認定をすることになる不都合を解消するものであって、一方の訴訟が遡及的に消滅した場合にまで職権証拠調べの禁止よりも自由心証主義を優先させる理由はない。また、Y1としては、自己の訴訟との関係でもY2の証拠を認定に供してほしいのであれば、Y2の証拠を援用すればよいだけの話であって、Y1にとって大きな不意打ちともならない。そうだとすれば、本件日誌の取調べの結果を事実認定に用いてはならないとしても、妥当でないともいえない。

以上