法律解釈の手筋

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令和2年度 司法試験 民法 解答例

解答例

第1 設問1

1 第1に、BはCに対し、代金減額請求(民法563条1項)の抗弁を主張することが考えられる。

(1) 契約①は、乙建物の売買契約であるが、その具体的な内容として、Aがチェロの練習とするために、特に優れた防音性能を備えた物件であることが合意の内容とされていた。したがって、契約の内容として、かかる防音性能を備えていることが契約①の内容となっていた。そして、業者の点検により、乙建物は、契約①において合意されていた防音性能を備えていないことが発覚している。したがって、「引き渡された目的物が……適合しないもの」にあたる。

(2) 本件では、BはAに対して工事費用の見積書を提示し、費用を負担するか、工事を自ら手配するかを選択して履行するよう求めており「履行の追完の催告」をしている。それにもかかわらず、Aは何らの応答もしていないところ、「相当の期間」が経過したものと思われる[1]

(3) これに対してCは、残代金債権は令和2年7月25日にAからCに債権譲渡され、7月30日に内容証明郵便による債権譲渡の通知がBに到達して債務者対抗要件が備えられているところ(民法467条1項)、その後に発生した代金減額請求をもって対抗することはできない、と反論することが考えられる。Bの代金減額請求が「対抗要件具備時までに……生じた事由」(民法468条1項)にあたるか。

ア 「対抗要件具備時までに……生じた事由」とは、抗弁発生の基礎となる事由をいい、抗弁が発生する一般的抽象的可能性があれば足りると考える。

イ 本件では、令和2年5月20日に契約不適合の存在した乙建物の売買契約が成立しており、代金減額請求の基礎となる双務契約の成立が認められる。確かに、本件では、BはAから乙建物の引渡しを受けたのが令和2年9月25日であるところ、それまでBは代金減額請求の存在を認識し得なかったため、抗弁発生の基礎となる事由はかかる時点で生じたとも思える。しかし、双務契約の牽連性にかんがみれば、債権譲渡の債権の基礎となる契約に関して生じた抗弁については、債務者保護の観点から譲受人に対抗できると解すべきである。したがって、本件では、抗弁発生の基礎となる事由が認められるといえる。

ウ したがって、Bの代金減額請求の基礎となる契約①の成立が「対抗要件具備時までに……生じた事由」にあたる。よって、Cのかかる反論は認められない。

(4) 以上より、Bのかかる主張は認められる。

2 第2に、BはCに対し、契約①のAの債務不履行に基づく損害賠償請求権(民法415条1項本文)を自働債権として、相殺の抗弁(民法505条1項)を主張することが考えられる。

(1) まず、前述のとおり、Aは契約①の内容に適合しない本件建物をBに引き渡しており、「債務の本旨に従った履行」をしておらず、債務不履行が認められる。

(2) 次に、Aに免責事由(民法415条1項但し書)が認められるかであるが、以前Aと近隣住民との間でも騒音トラブルがあったことが認められるところ、Aは本件建物が防音性能を備えていないことについて認識しているか若しくは認識可能であったといえる。以上にかんがみれば、本件において、Aは防音性能について調査し、工事をすることができたといえ、注意義務違反が認められる。したがって、「責めに帰することができない事由」は認められない。

(3) これに対して、Cは、債務不履行に基づく損害賠償請求権は令和2年10月10日に発生すると考えられるところ、対抗要件具備時よりも後に取得した債権であって、自己に対抗することができない、と反論することが考えられる。Aの債権取得について、469条2項各号に該当する事由が認められるか。

ア 「前の原因に基づいて生じた債権」(民法469条2項1号)とは、債権の発生原因のすべてが備わっている必要はなく、主たる発生原因が備わっていれば足りると考える(一部具備説)。

イ 本件では、令和2年5月20日に債務不履行の生じた契約①が締結されており、かかる時点で主たる発生原因が備わっているといえる。確かに、自働債権の発生原因たる契約締結のみで主たる発生原因といってよいかは問題であるものの、本件では、受働債権である残代金債権と自働債権である損害賠償請求権は同じ契約①から生じた債権であり、牽連関係が認められるため、このような場合には、Bにとって相殺の合理的期待があったといえるから、目的物の引渡し等がなくても、主たる発生原因と解してよいと考える。

ウ したがって、「前に生じた原因」が認められる。よって、Cのかかる反論は認められない。

(4) 以上より、Bのかかる主張は認められる。

第2 設問2

1 (1)について

(1) c部分について、囲繞地通行権(民法213条1項)が認められるか。

(2) 甲土地は、かつて丙土地と一筆の土地であったが、分割されて袋地になっているところ、甲土地は「分割によって公道に通じない土地」にあたる。Bはかかる土地をAから買い受けており、「土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合」(213条2項)の譲受人である。したがって、Bは、丙土地について囲繞地通行権を有する。

(3) それでは、Bは、c部分全部について囲繞地通行権を取得するか。「通行の場所……損害が少ないもの」は、いかなる部分までか。

ア 囲繞地通行権は、公道に至るための最低限の通行を保障する趣旨であるところ、最低限の通行は、その土地によって様々な考慮があり得るところ、「通行の場所……損害が少ないもの」かどうかは、通行権者の生活内容、地域の特質等諸般の事情を考慮して決すると考える。

イ 本件では、c部分の幅員は約2メートルであり、過度に広いものとはなっていない。また、Bは、自家用車を既に購入しており、自家用車の通行のためには、最低限2メートルの幅員を要するところ、最低限の幅員といえる。確かに、甲土地は鉄道駅から徒歩圏内の住宅地にあるため、自家用車を生活のために購入する必要がなく、最低限の通行としては、人の出入りできる幅員で足り、b部分は不要であるとも思える。しかし、鉄道駅から徒歩圏内に甲土地があるとしても、今日において自動車を別途購入することは通常であるし、地域によっては、鉄道があったとしても、自動車がないと生活できない地域もあり、一義的に決することはできない。Bは後述の地役権の設定によって対処することができるとも思われるが、Dがこれに応じない限り地役権の設定を受けることができず、Bは自家用車を使用することができないという重大な障害が生じる。以上にかんがみれば、本件における最低限の通行としては、自家用車の通行できる幅員を要すると考える。

ウ したがって、c部分は「通行の場所……損害が少ないもの」といえる。

(4) よって、Bの発言は正当である。

2 (2)について

(1) Bの発言について

Bは、地役権設定契約の性質について、同契約が無償契約のみによって設定されるであると捉えていると考えられる。それを踏まえ、Bは毎年の2万円については、有償契約の対価としてではなく、「償金」(民法212条本文)類似の趣旨であると分析していると考えられ。また、Bは、解除の制度趣旨について、債務不履行に対する救済手段との理解を基礎としていると考えられる。

(2) Dの発言について

Dは、地役権設定契約について、同契約は無償契約のみならず有償契約としても有効であると捉えており、DのCに対する毎年の2万円については、地役権に対する対価として牽連関係に立つと分析していると考えられる。また、Dは、解除の制度趣旨について契約の拘束力からの解放であるとの理解を基礎としていると考えられる。

(3) Dの解除の当否

まず、解除の制度趣旨については、改正後民法においては、債務者の帰責事由が不要とされており(民法541条、542条)、Bの理解に立つことはできない。そうだとすれば、仮に契約②が無償契約だとしても、Dの解除が認められると考える(民法651条1項参照)。もっとも、地役権設定契約は、当事者の意思による契約である以上、有償契約によっても締結可能であると考えるため、DはBの債務不履行を理由に解除することが出来ると考える(民法541条)。

第3 設問3

1 Bは、Gに対して、BE間の売買契約に基づく所有権移転登記請求をしているものと考えられるところ、かかる請求は認められるか。

2 契約③は、BとFとの間で法律行為が行われているところ、かかる契約が有効か。FはEの配偶者であるところ、契約③が「日常の家事」(民法761条)にあたり、代理行為として有効か。

(1) 「日常の家事」とは夫婦が日常の家庭生活を営む上で通常必要とされる事務をいい、法律行為の種類・性質等の客観的な事情のほか、夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的も考慮される。

(2) 本件では、契約③は、2000万円の土地の売買契約であるところ、夫婦の日常の家庭生活を意図雄南無上で通常と必要とは到底いえない。

(3) したがって、契約③は「日常の家事」にあたらない。

3 もっとも、Bは、表見代理(民法110条)によって、契約③が有効に成立すると反論することが考えられる。

(1) この点について、民法110条を直接適用することは、夫婦別産性の財産的独立を害することになるため、認められない。しかし、法律行為が夫婦の日常の家事行為だと信じた相手方の信頼を保護する必要性がある。そこで、民法110条の趣旨を類推適用し、第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信じるにつき正当の理由がある場合には、同法律行為は有効であると考える。

(2) 本件では、FはBに対して売買代金をEの医療費に充てることを話しているところ、Bが契約③について日常の家事行為だと信じたとは到底いえない。

(3) したがって、本件では、民法110条の趣旨を類推適用することはできない。よって、契約③は無権代理となる。

4 Eは死亡し、配偶者F及び姉GがEを相続した。しかし、その後Fは相続を放棄しているため、相続人は、Gのみとなった(民法938条、939条)。Gは、Eの医療費を弁済しており、相続を承認したものとみなされる(民法921条)。そこで、Bは、 Gに対して追認の催告をし(民法114条)、かかる催告にGが信義則(民法1条2項)上追認拒絶をすることができない結果、契約③が有効にならないか(民法116条)。

(1) 本人を相続した無権代理人は、本人の資格と無権代理人の資格が併存するけれども、本人の資格で追認を拒絶することは、無権代理行為と矛盾挙動にあたるため、信義則に反するとされる。以上にかんがみれば、無権代理行為に類似する行為を行った本人を相続した第三者の相続人についても、信義則によって追認拒絶をすることができないと考える。

(2) 本件では、Gは、契約③に際して、売却代金の一部を事業の資金のために使用させてもらうことを無権代理人Fに対して申し入れており、Fはこれを了承していた。また、FはBに対して、丁土地の売却について親族の了解も得ていると話しているところ、Gが契約③について了解していることを認識していた。以上にかんがみれば、Gは、無権代理人Fと同様に契約③の締結について加担しており、重要な役割を果たしているところ、無権代理人に類似する行為を行っていたといえる。

(3) したがって、Gは、Bに対して追認拒絶をすることが信義則上認められない。よって、Bの催告に対する追認があったこととなり、契約③は有効となる。

5 以上より、Bのかかる請求は認められる。

以上

 

[1] 問題文事実6の催告をいつの時点でしたかが明確ではないため、相当期間の経過を認めてよいかどうか微妙なところであるが、防音性能の不備の発覚が10月10日、CからBに対する請求が10月30日と3週間弱開いていることにかんがみれば、相当期間の経過があったものと扱ってよいように思われる。