法律解釈の手筋

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令和4年度 司法試験 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1

1 課題1について

(1) 被告が甲となるような見解

ア 本件訴訟の被告は、甲である。

イ 当事者の確定の基準については、原告が訴訟を提起し、判決を求める意思を有する以上、原告の内心に従って当事者を決すると考える。

ウ 本件では、原告たるXは、甲を被告とする意思を有する。

エ したがって、本件訴訟における当事者たる被告は甲である。

(2) 被告が乙となるような見解

ア 本件訴訟の被告は、乙である。

イ 当事者の確定の基準については、基準の明確性から、訴状に表示された者を当事者と考える。

イ 本件では、訴状の記載欄には「株式会社Mテック」と表示してあるところ、本件訴訟提起時点において、かかる表示は乙を意味する。

ウ したがって、本件訴訟における当事者たる被告は乙である。

2 課題2について

(1) 本件では、口頭弁論終結前における自白の撤回が問題となっているため、当事者拘束力の生じる自白が問題となっているため、自白の成立の検討も、当事者拘束力を念頭におくものとする。Aの各陳述に、当事者拘束力の生じる自白が成立するか。

ア 当事者拘束力の生じる自白とは、相手方の主張する事実と一致する、自己に不利益な事実を認めて争わない旨の陳述をいう。当事者拘束力の趣旨は、第1次的には不要証効(179条)によって生じる相手方の信頼保護であり、間接的に、裁判所拘束力によるコスト管理の要請にある。 

そこで、「事実」とは、裁判所拘束力と同様に、主要事実に限ると考える。

また、「不利益」かどうかは、基準の明確性から、証明責任の分配基準によって決すると考える。証明責任は、ある一定の法律効果が有利に働く者が、当該法規の要件事実について、証明責任を負う。そして、その要件事実は、実体法の趣旨を基準に、立証の難易、証拠との距離等によって微調整する。

イ 本件訴訟の訴訟物は、Xの乙に対する賃貸借契約の終了に基づく本件事務所明渡請求権であるところ、要件事実は、①賃貸借契約締結事実、②①の契約に基づく建物引渡事実③①の契約の終了原因であるところ、請求原因(1)は①、同(2)は②、同(3)は③を基礎づける事実として、主要事実にあたる。また、これらの事実は、Xの乙に対する建物引渡請求権が発生するための事実であり、Xにとって有利であるところ、Xが証明責任を負う事実である。

ウ したがって、乙の上記陳述は自白にあたり、当事者拘束力が生じる。

(2) 第3回口頭弁論期日における乙の自白の撤回は認められるか。

ア 当事者拘束力の自白が認められる場合、上記の自白の趣旨からすれば、①当該事実が真実に反しかつ錯誤の場合②刑事上罰すべき相手方の行為によって自白がなされた場合又は③相手方の同意がある場合のいずれかにあたる場合には、例外的に自白の撤回をすることができる。

イ まず、乙の自白は真実に反するものであるが、乙の代表者Aは自ら甲の商号を変更し、乙を新設した者であるところ、錯誤は認められない(①不充足)。また、乙の自白について、甲の刑事上罰すべき行為は認められない(②不充足)。

ウ したがって、裁判所としては、甲の準備書面において乙の自白の撤回に同意する旨の主張がない限り、自白の撤回を排斥しなければならない。

第2 設問2

1 本件では、明文なき主観的追加的併合が認められる。

2 判例は、①新訴につき旧訴の訴訟状態を利用できるとは限らないため訴訟経済に適うとは限らないこと、②訴訟が複雑化するおそれ、③軽率な提訴や濫訴が増えるおそれ、④訴訟遅延のおそれから、明文なき主観的追加的併合を認めない。

しかし、主観的追加的併合の必要性があり、上記判例の趣旨が妥当しない場合には、判例の射程が及ばず、明文なき主観的追加的併合が認められると考える。

3 本件訴訟における乙の否認の理由は、乙はXとの間で本件賃貸借契約を締結していないという点にあるところ、本件訴訟の主要な争点は、本件賃貸借契約の当事者が甲か乙かという点になることが予想されるところ、かかる争点は事実上の択一関係ということができ、同時審判申出共同訴訟が類推適用されるものである。これを前提とした場合、Xとしては、乙の本件訴訟の主張を基に、X甲間の訴訟においてX甲間の本件賃貸借契約締結事実を主張することが可能であり、本件訴訟の訴訟状態を新訴に流用可能である(①)。また、本件訴訟と新訴の主要な争点は、いずれも本件賃貸借契約の当事者が甲か乙かという点で共通するところ、訴訟が複雑化するおそれもない(②)。さらに、本件訴訟においてXが被告を間違えた理由は被告側が巧妙に当事者を分からないように登記を修正したためであり、代表者事項証明書には、会社の設立年月日の記載がなく、Xが乙を甲と誤認したことには正当な理由があるといえる。このように、Xに正当な理由が認められる場合に限定して明文なき主観的追加的併合を認めれば、軽率な提訴が増えるおそれもない(③)。そして、本件では、一度口頭弁論が終結したにもかかわらず乙の陳述によって弁論が再開されたものであり、現在の訴訟遅延は乙によるものであるし、前述のとおり本件訴訟と新訴の主要な争点は共通する以上今後の訴訟遅延のおそれもない(④)。

4 したがって、本件では、主観的追加的併合の必要性があり、上記判例の趣旨が妥当しない場合であるといえる。

5 よって、明文なき主観的追加的併合が認められる。

第3 設問3

1 USBメモリは、「情報を表すために作成された物件で文書でないもの」(231条)に該当し、231条が適用されるか。

2 USBメモリが「文書」に該当するか。

(1) 「文書」とは、文字やその他の記号によって、作成者の思想を表現した有形物をいう。

(2) USBメモリそれ自体は作成者の思想を表現していないし、USBメモリに記録された情報それ自体は有形物ではない。

(3) したがって、USBメモリは「文書」に該当しない。

3 それでは、USBメモリは「情報を表すために作成された物件」にあたるか。

(1) 同条においてビデオテープ等が書証として取り扱われる趣旨は、記録媒体そのものが思想を表現するものであり、当該テープを法廷において再生装置を用いて再現することで、裁判官が直接的に認識することが可能であるため、書証と同様の証拠調べをすることが適当である点にある。そして、新種証拠においても、記録媒体そのものが思想を表現するものであり、プリントアウト等にとって裁判官が認識可能な状態となり、書証と同様の証拠調べをすることが可能であるところ、同条の趣旨が及ぶ。

したがって、新種証拠も「情報を表すために作成された物件」にあたる。

(2) USBメモリは新種証拠である。

(3) したがって、USBメモリは「情報を表すために作成された物件」にあたる。

4 よって、USBメモリに231条が適用される。

以上