法律解釈の手筋

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令和4年度 予備試験 倒産法 解答例

問題文

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解答例

第1 設問1小問1(以下、破産法は法名略。)

1 B社が、令和4年3月1日に行った所有権移転登記手続の申請行為(以下「本件申請行為」という。)は、「第三者に対抗するために行われた行為」(対抗要件具備行為)であるところ、対抗要件否認(164条1項)が適用され、管財人GのB社に対する否認権の行使が認められる。

2 本件申請行為は、「支払の停止等」(164条1項、160条1項2号)が「あった後」に行われた行為である。

(1) 本件通知は、「支払の停止等」にあたる。

ア 「支払の停止等」とは支払の停止又は破産手続の申立てをいう。支払の停止とは、債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為[1]をいう。

イ A社は、令和4年2月20日、代理人弁護士Eの名義で、A社は近日中にEを申立代理人として破産手続開始の申立てを行う予定であり、債務の支払についてもそれまでの間停止する旨の通知(以下「本件通知」という。)を発しており、支払不能である旨の表示行為がある。また、本件通知は、取引先や取引金融機関に対し発されており、外部への表示行為もある。以上にかんがみれば、本件通知は支払の停止にあたる。

ウ したがって、本件通知は、「支払の停止等」に該当する。

(2) 本件申請行為は、令和4年2月21日以降に行われているため、支払の停止等が「あった後」に行われている。

3 本件申請行為は、令和3年9月15日にA社とB社との間で締結された売買契約(以下「本件売買契約」という。)を原因行為とするものであるから、「権利の変更があった日から十五日を経過した後」に行われている。

4 B社は、本件申請行為の行為者であり、また、受益者である。B社は、令和4年2月21日に本件通知を受け取っているところ、本件申請行為時点において、A社の「支払の停止等」の事実について「知って」いた。

5 以上より、GのB社に対する否認権の行使が認められる。

第2 設問1小問(2)

1 本件申請行為は、令和4年2月3日から12日に行われている。A社の支払停止は令和4年2月20日であり、破産手続の申立ては同年3月6日であるところ、本件申請行為は、「支払の停止等」があった前に行われている。

したがって、対抗要件否認(164条1項)は認められない。

2 もっとも、本件申請行為は、一般的詐害行為否認(160条1項1号)が適用され、否認権の行使が認められる。

(1) 対抗要件行為も、一般詐害行為否認の対象となる。

ア 対抗要件否認の制度趣旨について、否認類型全体との関係でその否認可能性を164条所定の場合に限る趣旨であるとする場合(制限説)、164条以外の否認権行使は認められない。また対抗要件否認の制度趣旨について、対抗要件具備行為は本来的には否認の対象となりえないものであるが、破164においてこれを創設的に否認の対象とする趣旨であるとする場合も(創設説)、164条以外の否認権行使は認められない。

イ しかし、164条は、その要件の内容からして、危機否認の成立可能性を制限しているにすぎず、故意否認の成立要件を制限しているものではない。そして、原因行為たる売買契約自体に正当な対価を得ていたとしても、その取引の存在を隠蔽して、他の債権者から信用供与を受けるなどしていた場合には、債権者に対する詐害性が認められるところ、160条1項1号の適用が認められるべきである[2]

ウ したがって、対抗要件具備行為も、一般詐害行為否認の対象となる。

(2) 本件申請行為は、詐害行為否認が適用され、否認権の行使が認められる。

ア 「破産債権者を害することを知ってした行為」(詐害行為)とは、破産者の責任財産を減少させる行為をいうところ、本件では、令和4年2月3日時点で、D社及びメインバンクへの債務の弁済を遅滞するに至っているところ、A社は債務超過にあったといえる。本件申請行為は、当該債務超過以降に行われているところ、詐害行為にあたる。

イ B社は、A社において取引先に対する買掛金の支払やメインバンクに対する借入金の返済が滞っているとの情報に接しているため、A社が債務超過にあることを知っており、本件申請行為が「破産債権者を害することを知って」いたといえる。

ウ 対抗要件具備を受けた受益者はB社である以上、「破産債権者を害することを知らなかった」とはいえない。

(3) 以上より、GのB社に対する否認権の行使が認められる。

第3 設問2

1 前段について

(1) 否認権が行使された場合、破産財団が原状に復される(167条1項)。

(2) したがって、B社は破産管財人Gに対して、5000万円の甲土地の対抗要件具備請求権という破産債権(2条5項)を有する[3]

(3) これに対して、GはB社に対して、A社の所有権に基づく甲土地返還請求権を有する。

(4) なお、B社は、A社に対して登記申請を半年程度猶予しているため、債務不履行解除をすることはできない。

2 後段について

(1) B社は、1000万円の財団債権を有する(168条1項2号)。

(2) これに対して、GはB社に対して、A社の所有権に基づく甲土地の返還請求権を有する[4]

 

以上

 

[1] 最判昭和60年2月14日判時1149号159頁(判例百選26①事件〔松下祐記〕)。

[2] 伊藤・604頁。伊藤教授の見解(なお、いわゆる変質した制限説と伊藤教授の見解を同一のものとして扱う。)は、おそらく、対抗要件具備行為の有害性について財産減少行為及び偏頗行為の両方の性質を有する可能性があることを前提にした議論であると思われる。しかし、金銭債務の弁済によっても責任財産から金銭が逸出することになるが、これは財産減少行為ではなく、偏頗行為として捉えられていることからすれば、原因行為と切り離して財産減少性をいうことには無理がある。対抗要件具備行為の有害性は、原因関係上の義務の履行としての偏波行為又は原因行為が偏頗性を有する場合にそれを完結するという意味での偏頗行為のみにあると考えるべきである(畑瑞穂「対抗要件否認に関する覚書」井上追悼・550頁参照。なお、畑教授自身の立場はいまいち明確ではない。)。このように考える場合、破産法160条1項は詐害行為否認類型である以上、対抗要件具備行為への適用の余地はない。本解答例では、160条1項1号の要件該当性も論じるという答案上の便宜のため、伊藤説の立場から記載している。164条の制度趣旨又は対抗要件具備行為の有害性の観点から、160条1項1号の適用を否定する見解を説得的に論じることができていれば、160条1項1号適用否定説でも何ら問題はないと思われる。なお、対抗要件否認の有害性を偏頗行為と捉え、160条1項1号の適用を否定する見解に立った場合でも、164条の「支払停止」要件を「支払不能」と読み替える見解に立てば、164条により否認が可能となる(畑・前掲注(2)555頁で紹介されている山本弘教授の提案参照。)。

[3] これに対して、伊藤・605頁は、5000万円の財団債権の行使として代金の返還を求められるとする。しかし、理論的根拠は明らかではないし、このような相当の対価による場合にもかかる帰結を維持するかは明らかではない。財団債権と解することの問題意識については、伊藤眞ほか『新破産法の基本構造と実務』(有斐閣、2007年)・427頁[山本克己]発言参照。これに対する反論としては、畑・前掲注(2)551頁参照。

[4] 対抗要件具備行為を否認した場合、B社は5000万円分の対抗要件具備請求権たる破産債権を有するにすぎないこととなる。したがって、破産管財人Gとしては、配当率が20%を下回ることが予想される場合には原因行為を否認し、配当率が20%を上回ることが予想される場合には対抗要件具備行為を否認するということになる。