法律解釈の手筋

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令和7年度 司法試験 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1

1 課題1について

(1)  訴え提起は、敗訴によってあたかも権利処分と同様の効果が発生する。もっとも、当事者適格は、誰と誰との間で紛争解決をすることが適切かという概念でもある。そこで、実体法上の管理処分権及び訴訟政策的観点から、訴訟共同の必要性を考える。

(2)  実体法的観点について、共同相続財産は、共有として、共同相続人全員によってのみ処分ができる以上(民法898条、251条)、遺産共有関係の解消も全員が共同ですべきである(民法907条1項)(遺産分割審判の必要的共同審判)。そして、遺産分割審判の前提問題に関して既判力を生じさせるための民事訴訟において、遺産分割審判における当事者適格の規律をそのまま適用させなければ、当該訴訟の目的を達成することができないため、遺産確認の訴えには、管理処分権の共同行使の必要性が認められる。次に、訴訟法的観点について、遺産確認の訴えは、これに続く遺産分割審判の手続及び審判の確定後において、当該財産の遺産帰属性を争うことを許さないとすることによって共同相続人間の紛争の解決に資することができるものである以上、共同相続人が当事者として関与し、合一確定することが遺産分割の手続全体からして合理的であり、手続が円滑に進むといえる。

(3) よって、本件では、共同訴訟の必要性が認められ、固有必要的共同訴訟にあたる。

2 課題2について

(1) XがBを被告に加えて遺産確認の訴えを提起した場合でも、確認の利益は認められる。

(2) 確認の利益とは、確認の訴えにおける当該訴訟物に対する紛争解決の実効性ないし必要性をいう。確認訴訟においてはその対象が無限定に広がるおそれがあり、訴訟経済に反することになりかねないため、必要かつ適切と認められる場合にのみ確認の利益が認められると考える。そこで、原告の有する権利や法律上の地位に危険または不安が存在し、そうした危険や不安を除去するために確認判決を得ることが有効かつ適切な場合に認められる。その際、①方法選択の適否、②対象選択の適否、③即時確定の利益の観点から総合的に考慮して決すると考える。

(3) 以下、各考慮要素について、検討する。

ア まず、①方法の選択については、本件訴訟は当該財産が遺産範囲に属することを既判力をもって確定することが目的であり、給付訴訟ではその目的を達成することができない以上、方法選択の適切性が認められる。

イ 次に、②対象選択の適否について、㋐自己の㋑現在の㋒積極的な㋓法律関係について確認であることが必要であるが、本件訴訟では特に㋑について、過去の法律関係に属するのではないかとも思える。しかし、遺産確認の訴えは、当該財産が、現在共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えであるため、現在の法律関係であるといえる(㋑充足)。したがって、対象選択の適切性が認められる。

ウ そして、③即時確定の利益については、㋐原告の保護を求めている地位が法律上保護に値する地位であること及び、㋑原告の法的地位に対する不安・危険の現実性が必要である。本件訴訟は、原告Xが本件建物について、遺産範囲に属する、すなわち相続人において共有状態にあることを確認するものであるため、法律上保護に値する地位であることは明らかである(㋐充足)。次に、Bとの関係では、Aの遺産に属することにつき争いがない。しかし、Bは本来原告になる者であり、被告として訴えを提起することは、当事者として関与していれば足りるとの考慮に基づき、便宜的になされるものである。そうだとすれば、本件におけるBは請求なき被告として、訴訟に関与するのみの当事者であり、XB間において確認の利益は要求されないと考える。そして、XY間においては、本件建物の権利関係について争いが生じており、即時確定の利益が認められることは明らかであり、これを以て足りると考える。

(4) よって、本件訴訟では、確認の利益が認められる。

第2 設問2

1 本問では、信義則違反が認められ、真実が擬制される。

2 証明妨害とは、証明責任を負わない当事者が、故意又は過失により証明責任を負う当事者の立証を失敗させ又は困難にさせることをいう。証明妨害が信義則に反するとされる根拠は、妨害行為によって惹起された真偽不明による判決の要件事実に該当する訴訟状態の利益を妨害者に享受させないことが、当事者間に利益に適う点にある。そして、このような信義則違反を基礎づける要素としては、①妨害行為②証明不能状態③①②との間の因果関係④証拠提出義務⑤証拠方法の作成・保存義務⑥故意・過失といった点が挙げられる。

3 本件では、本件契約書はY所有のものではなくA所有のものであり、Aとしてはもし仮に本件建物の買主が自身である場合には、本件契約書を任意に提出する用意があったはずであるため、Yに対して証拠提出義務は要求されない(④)。Yは本件契約書を廃棄しており(①)、契約当事者のA及びCは死亡していること、C側の本件契約書も焼失してしまっていることからすれば、廃棄行為によって(③)、本件契約書に関する内容について証明不能となっている(②)。また、Yは本件建物にAと居住していたのであるから、Aの権利・法律関係に関する証拠については、Aの死後も適切に保存しておく義務があるといえる(⑤)。さらに、令和5年5月時点で、XY間において、本件建物に関する遺産分割協議が不成立となって紛争が顕在化しているところ、今後XY間において訴訟に発展することが明らかであったといえる。それにもかかわらず、Yは令和5年7月頃に本件契約書を廃棄しているところ、今後の訴訟で本件契約書が不利に作用しないよう廃棄したといえ、故意が認められる(⑥)。

4 したがって、本件では、Yに信義則違反が認められる。

第3 設問3

1 課題1

(1)  弁論主義とは、訴訟資料の収集・提出を当事者の権能かつ責任とする建前であり、本件訴訟では、そのうち、裁判所は、当事者の主張していない事実を裁判の基礎とすることができない、という弁論主義第一原則との関係が問題となる。

(2) 本件各事実は、請求原因に対する抗弁となる。

ア 主要事実とは、権利の発生、変更、消滅という法律効果の判断に直接必要な事実をいう。そして、抗弁事実とは、①請求原因と両立し、②請求原因から生じる法的効果を障害し、消滅させ又は阻止する事実をいい、抗弁事実にあたる場合、当然に主要事実となる。

イ 本件の訴訟物は、本件建物がAの遺産に属したもので、未分割の共有状態にあることである。かかる訴訟物の請求原因は、問題文の本件請求原因事実のとおりである。そして、本件各事実は、いずれも本件請求原因と矛盾せず、両立する(①充足)。また、本件各事実が認められる場合、AからYへの死因贈与が認められ、令和5年3月30日のAの死亡と同時に本件建物の所有権がAからYへ移転することになるところ、請求原因によって発生する、相続によるAからXらへの本件建物の所有権の移転という効果が喪失するという、法的効果の消滅が認められる(②充足)。

ウ したがって、本件各事実は、抗弁にあたる。

(3) よって、裁判所は、当事者の主張していない本件各事実を認定して、Xらの請求を棄却する旨の判決をすることは、弁論主義第一原則に反し、問題がある。

2 課題2

(1) 本件では、当事者に対する不意打ちにはならないものの、弁論主義に反する。

(2) 弁論主義の趣旨は、当事者の自律的支配領域の確保にあり、その機能は訴訟当事者への不意打ち防止にある。そうだとすれば、相手方への不意打ちにならなかったとしても、当事者の訴訟行為の処分に反するような場合には、趣旨に反し、弁論主義に反すると考える。

(3) 確かに、本問下線部のように、裁判所が黙示の死因贈与契約の成立の認定を示唆した場合、それが不利に作用するX側としては、それに反する主張をする機会が与えられるのであるから、その主張をしなかったとしても、不意打ちにはならない。しかし、そもそも弁論主義の根拠は、前述のとおりであるところ、両当事者の主張しないという消極的態度決定に対し拘束力を認め、裁判所の介入を認めないものである。したがって、そのような消極的態度決定を超えて裁判所が勝手に黙示の死因贈与契約の成立を認定することは、そのような拘束力に反し、当事者の自律的支配領域を侵害する点で、弁論主義の根拠に反する結果となる。

(4) よって、当事者に対する不意打ちがなかったとしても、弁論主義に反する。

3 課題3

(1) 裁判所は、死因贈与契約という法的構成を採用する場合、当事者の認識と異なる法律構成によって判決をすることになるため、法的観点指摘義務に反しないよう、死因贈与契約という法的構成が採られる可能性があることを明らかにした上で、それを踏まえた主張立証を検討するよう促すべきである。

(2) 法的観点指摘義務とは、裁判所が当事者の主張しているのとは異なる法律構成または主張されていない法律問題を判決の基礎とするとき、裁判所はその点について指摘して当事者に攻防の機会を与えなければならない、とする義務をいう。釈明の制度趣旨は、当事者間の公平の維持・回復にあるところ、生の事実が充足しており弁論主義の観点からは問題がないような事案においても、法的観点について訴訟当事者の認識していない法律構成で判決されることで結果的に当事者に不公平が生じることがあり得る。そこで、そのような結果的な不公平を回避し、当事者間の公平の維持・回復をはかるため、裁判所は法的観点指摘義務を負うと考える。

(3) 本件では、本件各事実は当事者の主張に含まれていたと仮定されている。しかし、本件での争点は、AC間の本件建物の売買契約の成否である。そして、かかる争点を確認のうえ、その後の口頭弁論の期日において、弁論準備手続の結果が陳述され、証拠調べが実施されている。このような訴訟経過に照らせば、訴訟当事者としては、本件各事実は、AC間の本件建物の売買契約の成否に関連して主張された、間接事実ないし補助事実であると認識している可能性が高い。そうだとすれば、本件各事実から、裁判所が死因贈与であると法的に評価し、請求原因を排斥することについて、両当事者は意識していなかったといえる。したがって、裁判所は、AY間の死因贈与があったと評価するために、両当事者に攻防の機会を与える義務がある。

(4) よって、裁判所は、当事者に対し、AのYへの黙示の死因贈与契約という法的構成が採られる可能性があることを明らかにした上で、それを踏まえた主張立証を検討するよう促すべきである。

以上

 

解説・検討

設問1

課題1

(1) 総論

課題1は、民事系科目第3問の中では、最も基本的な問題の1つである。合格ラインにのるには、本問について正確な論述が求められるといえる。

課題の内容は、「遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟と解される根拠を、上記判例を踏まえつつ説明」することである。①固有必要的共同訴訟と解される根拠を述べることが問われているわけであるが、その前提として、②上記判例(後掲平成元年判例。)を踏まえることが要求されている。なお、遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟であるという結論は固定されており、基本的には判例の立場から述べれば良いのであって、予備校等の論証パターンとして用意してきたものをそのまま吐き出せば大きな問題は生じないはずである。

 

(2) 通常共同訴訟か固有必要的共同訴訟かの判断基準

固有必要的共同訴訟か通常共同訴訟かの判断基準については、①管理処分権説(実体法説)[1]②訴訟政策説(訴訟法説)③折衷説[2]の争いがあるところである。学説上はなおも争いのあるところであるが、判例理解としては、管理処分権説を基準としつつも訴訟政策説的な考慮から決する場面もある、というのが、現在の最大公約数的な理解といって差し支えないところである。受験との関係でいえば、折衷説を前提としつつ、問題となる訴訟類型ごとに、①実体法的観点と②訴訟法的観点からの説明をそれぞれまとめておく、というのが最も無難な準備といえる。なお、折衷説の論証については、平成28年度司法試験採点実感民事系科目第3問において、以下のとおり指摘を受けているため、以下を踏まえた論証を用意しておくことが望ましい。

「訴訟共同を要する固有必要的共同訴訟に該当するか否かを検討するに当たっては,当事者の管理処分権を基準としつつ訴訟政策的な考慮を加味して判断すべきとの考え方が有力であり,そのことを指摘する答案が多かった。しかし,なぜ管理処分権を基準とすべきなのかが明らかにされなければ,固有必要的共同訴訟に当たる理由やその判断基準を適切に分析したことにはならない。例えば,「訴え提起は処分行為に類似するので,管理処分権を基準に判断すべきである」といった説明が必要であり,そうしたものがなければ,単に結論を述べるのと大きな差はないと言える。さらに,なぜ,訴え提起が処分行為に類似すると言えるかについても,敗訴した場合には,問題となった権利を処分したのと類似する状態に陥るからであるといった説明を何らか工夫しておかなければ,理由を飛躍なく述べたものとは言い難い。」

「また,「訴訟政策的な考慮」をすべきことを一般論で触れるのであれば,本件事案において どのように考慮すべきなのかを……具体的に検討して理由付けることができれば高く評価されることになる。」

 

(3) 遺産確認の訴えの固有必要的共同訴訟該当性

最判平成元年3月28日[3](以下「平成元年判例」という。)は、遺産確認の訴えについて、固有必要的共同訴訟とした。その理屈としては、以下のとおり判示する。

「遺産確認の訴えは、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えであり、その原告勝訴の確定判決は、当該財産が遺産分割の対象である財産であることを既判力をもつて確定し、これに続く遺産分割審判の手続及び右審判の確定後において、当該財産の遺産帰属性を争うことを許さないとすることによつて共同相続人間の紛争の解決に資することができるのであつて、この点に右訴えの適法性を肯定する実質的根拠があるのであるから(最高裁昭和五七年(オ)第一八四号同六一年三月一三日第一小法廷判決・民集四〇巻二号三八九頁参照)、右訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。」

 

遺産確認の訴えの確認の利益を肯定した最判昭和61年3月13日[4](以下「昭和61年判例」という。)は、既判力の生じない遺産分割審判の前提として、当該財産が遺産分割の対象たる財産であることを既判力をもつて確定し、したがって、これに続く遺産分割審判の手続において及びその審判の確定後に当該財産の遺産帰属性を争うことを許さず、もって、原告の前記意思によりかなった紛争の解決を図ることができることから、確認の利益を認めた。平成元年判例は、これをテコとして、共同相続人間全員で、既判力をもって確定することは、紛争の解決に資するとして、固有必要的共同訴訟であるとした。平成元年判例が上記の判断基準のいずれの見解からの判示なのかについては学説において見解が一致していないところであるが、素直に読むのであれば、「紛争の解決に資する」との判示からして、訴訟政策的な考慮が主であると考えられる[5]

そうだとすれば、実体法的な観点については、判例の理屈とは別に用意しておく必要がある[6]。管理処分権説の立場から遺産確認の訴えについて固有必要的共同訴訟であると論じる見解として参考になるのが、鶴田滋教授の見解[7]である。同見解によれば、

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