法律解釈の手筋

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平成23年度(2011年度) 東大ロー入試 刑事系 解答例

解答例

第1 設問1

1 甲が「東大楼」に入った行為に、建造物侵入罪(130条)が成立しないか。

(1) 「東大楼」は、中華料理店であり、「建造物」にあたる。

(2) 甲の上記行為は平穏な態様のものであるが、「侵入」にあたるか[1]

ア 住居侵入罪の保護法益は、管理権にある。保護法益を住居の平穏と考えることは、強盗犯が平穏に侵入した場合等に住居侵入罪が成立し得なくなること、仮にここで住居侵入罪を肯定するとすれば、平穏の侵害は管理権者の意思を基準にせざるを得ず、管理権に収斂されることから、妥当でない。

そこで、「侵入」とは、管理権者の意思に反して立ち入ることをいう。

イ 本件では、「東大楼」の管理権者は、無銭飲食をしようと思っていたものの入店については同意していないと考えることが管理権者の合理的意思に合致すると考える。したがって、甲の上記行為は、「東大楼」の管理権者の意思に反する。

ウ よって、「侵入」にあたる。確かに、上記のような場合に住居侵入罪を認めていくことは、処罰範囲を無限定に広げかねないが、保護法益との関係から不合理とはいえず、不起訴や一部起訴によって調整していくべきである。

2 甲がAに対して代金合計4500円相当の食事を注文し飲食した行為に、「東大楼」に対する詐欺罪(246条1項)が成立しないか。

(1) 甲の上記行為は、直接的に欺罔内容を明示していないが、「人を欺」く行為にあたるか。

ア 「人を欺」く行為とは、①財産移転に向けられた②財産処分の判断の基礎となる重要な事項を偽る行為をいう。

イ 上記行為は、「東大楼」の料理という財産の移転に向けられている(①充足)。また、注文行為というのは、通常、後に代金を支払うことを買主売主ともに前提としているものであるから、代金の支払う意図なく注文する行為は、挙動による欺罔行為にあたる。そして、代金を支払う意図がないにも関わらず、支払う意図があるかのように見せて注文することは、代金が支払わなければ経営が成り立たない以上、取引通念上「重要な事項」にあたる(②充足)。

ウ したがって、上記行為は「人を欺」く行為にあたる。

(2) 「東大楼」は、上記行為によって、料理という「財物」を甲に「交付」している。

(3) 甲に詐欺罪の故意(38条1項)が認められる。

(4) よって、甲の上記行為に詐欺罪が成立する。

2 甲が、Aに対してナイフを振り回した行為に、Aに対する強盗未遂罪(243条、236条2項)が成立しないか。

(1) 「東大楼」は、甲に対し代金債権を有しており、「利益」を有している。

(2) 甲の上記行為は、「前項の方法」たる「暴行」にあたるか。

ア 「暴行」とは、強盗罪の法定刑の重さから、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行をいう。また、1項強盗との均衡から相手方の処分行為は不要であるが、処罰範囲限定の観点から、上記暴行は具体的かつ確実な利益移転に向けられている必要があると考える。

イ 本件では、甲は刃渡り8センチメートルという殺傷能力の高いナイフを、Aの顔という人体の枢要部付近で振り回しているところ、かかる行為によってAが甲に近づくことができずにひるむことが考えられ、相手方の反抗を物理的に抑圧するに足りるといえる。また、甲とA及び「東大楼」に面識はなく、甲がこのまま逃走すれば、「東大楼が」この先甲に対して代金請求することが相当期間困難になり、相当期間経過によって、その支払いはもはや別個の支払いと同視し得る。以上にかんがみれば、甲の上記行為は、具体的かつ確実な利益移転に向けられているといえる。

ウ したがって、「暴行」にあたる。

(3) もっとも、甲はその後Bに取り押さえられており、不法の利益を得たとはいえないため、結果発生は認められない。

(4) よって、甲の上記行為に、Bに対する強盗未遂罪が成立する。

3 甲の2の行為によってBが打撲傷を負った点について、Bに対する強盗致傷罪が成立するか。

(1) 前述のとおり、甲は客観的に「強盗」にあたる。

(2) Bの負傷の原因行為と思われる甲の上記行為は、強盗の手段たる暴行行為であるため、強盗の機会を論ずるまでもなく、実行行為性が認められる[2]

(3) もっとも、Bの2日で痛みもなくなった軽い打撲傷は「負傷」したといえるか。

ア 「負傷」とは、生理的機能の障害を意味すると考える[3]。傷害罪と別異に関する理由はないうえに、強盗罪は負傷結果までをその保護法益には含んでいないからである。かかる解釈による結論の不都合性は、不起訴や一部起訴によって調整していくべきである。

イ 本件では、Bは2日で治ったとはいえ、打撲傷を負っているところ、生理的機能の障害がみられる。

ウ したがって、「負傷」にあたる。

(4) もっとも、Bの負傷結果はBの捕まえる行為という被害者自身の行為が介在しているところ、甲の上記行為との因果関係が認められるか。

ア 因果関係は、行為者に当該結果発生を帰責させることができるかという問題であるところ、当該行為の危険性が結果へと現実化した場合には、因果関係が認められると考える。

イ 本件では、Bは、甲が公道上でナイフを振り回していたために捕まえようとしており、甲の上記行為に誘発されているといえる。また、勇敢な者が強盗を捕まえようとすることは通常考えられる行為であり、Bの上記行為も、異常な介在事情とはいえない。

ウ したがって、甲の上記行為とBの負傷結果との間に因果関係が認められる。

(5) よって、Bの上記行為に強盗致傷罪が成立する。

4 以上より、甲の一連の行為に、①詐欺罪②強盗未遂罪③強盗致傷罪が成立し、②と③は観念的競合(54条1項前段)、①と②③は、実質的には料理という財産上の利益の点で法益が一致しているといえるため、混合的包括一罪となる。

第2 設問2(1) (以下、刑事訴訟法は法名略。)

1 検証としての令状が必要であるのは、被処分者の意思に反し、重要な権利利益を制約する処分である「強制の処分」(197条1項但し書)にあたる場合である。本件では、公道での実況見分であり、私人の重要な権利利益を制約することはないため、任意処分として行い得る。

2 したがって、令状という面倒な手続が必要な検証ではなく、実況見分として行われたと考える。

第3 設問2(2)[4]

1 本件実況見分調書(以下「本件調書」という。)全体について

本件調書全体は、五官の作用によって認識する検証調書に準じる書面であり、321条第3項が規定する要件を満たせば、伝聞法則の例外として証拠能力が認められる。

続いて、実況見分調書中の記述について、伝聞証拠該当性及び伝聞例外の要件該当性を検討する。

2 実況見分調書の記述について

本件調書は、伝聞証拠(320条1項)にあたり、原則として証拠能力が認められないのではないか。

(1) 伝聞証拠とは、①公判廷外供述を内容とする証拠で、②その内容の真実性が問題となる証拠をいう。なぜなら、伝聞法則の趣旨は、知覚・記憶・叙述表現の各過程に誤りが介在するおそれがあるにも関わらず、反対尋問等によってその内容の真実性を確保できないところ、誤判防止の観点から証拠能力を否定する点にある。

そこで、内容の真実性が問題となるかどうかは、要証事実との関係で決せられると考える。

(2) 要証事実の設定

本件では、甲は私人による現行犯逮捕がなされているものと思料するところ、甲の犯人性が争点となるとは考えにくい。警察官Kは甲がナイフを振り回した状況を明らかにするために実況見分を行っていることにかんがみても、本件要証事実は「甲のナイフを振り回す行為が「暴行」にあたること」であると考える。

(3) Kの説明部分及び現場見取図

Kの説明部分及び現場見取図は、甲がナイフを振り回した地点と店員の立ち止まった地点を特定することにより、甲の行為による店員の反抗の抑圧を証明しようとするものである。かかる部分は、犯行現場という場所の状態を五官の作用をもって明らかにしたものとして、321条3項が規定する「検証の結果を記載した書面」 の典型であるといえる。

したがって、かかる部分は、要証事実との関係で内容の真実性が問題とならず(②不充足)、非伝聞であると考える。

(4) Bの説明部分

Bの説明部分は、Kが、実況見分の対象を特定するに至った動機・手段を明らかにするためのものであり,その内容の真実性を目的とするものではない。したがって、Bの説明部分は現場指示であり、要証事実との関係で内容の真実性が問題とならない(②不充足)。

よって、非伝聞であると考える。

3 結論

以上より、本件調書を証拠とすることができるのは、Kが公判廷において、本件調書の内容及び作成の真正を供述した場合である。

以上

 

[1] ここまでの大展開は、現場ではむしろ有害と思われる。学習上の参考にしていただきたいため、詳しく論じた。

[2] 本件では、強盗の機会は問題とならないと思われる(私見)。Bの負傷結果が生じたのは、甲がナイフを振り回しているという行為の最中にBが甲を捕まえようとしたからであり、原因行為は甲の強盗手段たる暴行にある。したがって、強盗の機会を論じる実益がない。もし仮に、甲の暴行行為から負傷結果が生じていないというのであれば、それは因果関係の問題であり、強盗の機会の問題ではない(強盗の機会とは、負傷結果の原因行為はどこまでの範囲を含むか、という実行行為性の問題である。)。

[3] 東京高判昭和62・12・21参照。なお、負傷の程度を強度の生理的機能の障害と捉える見解として、大阪地判昭和54・6・21参照。その論拠は、軽度の生理的機能の障害は、強盗罪によって評価されているとする。

[4] これの応用問題として、新司法試験平成25年設問2参照。なお、本問の解答作成について、新司法試験平成25年「採点実感等に関する意見」を参考にした。