法律解釈の手筋

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平成24年度(2012年度) 東大ロー入試 民事系 解答例

解答例

第1 設問1(この設問については民法は法名略。)[1]

1 (ア)について

(1) C及びDは、Bに対して、共有持分権(249条)に基づき、甲建物明渡請求をすることが考えられる。かかる請求は認められるか。

ア 甲建物はA元所有である。C及びDはAの相続人であり、Aは死亡した。また、Bは甲建物を占有している。

イ これに対して、Bは、自己もAの相続人であり、共有持分権に基づいて甲建物を占有していると反論することが考えられる。少数持分権者が建物を占有している場合、他の共有者に対して占有権原を抗弁として主張できるか。

(ア) 共有持分権は、持分に応じて共有物の全部について使用することができる。もし仮に少数持分権者がかかる占有権原を主張できないとすると、少数持分権者は持分権に応じた共有物の使用さえできなくなる。

そこで、多数持分権者は明渡しを求める理由を主張・立証しない限り、少数持分権者に対して明渡請求をすることができないと考える[2]

(イ) 本件では、確かにC及びDはEに対して甲建物を賃貸するという協議を成立させている[3]。しかし、BはAの許諾を得て甲建物に居住しているところ、後述のとおり、BはAの死後も遺産分割により甲建物の所有関係が最終的に確定するまでは、他の共有者との間で、無償で使用させる旨の合意があったものとされる。以上にかんがみれば、C及びDの協議は、明渡しの理由として不適切であり認められない。

(ウ) したがって、C及びDの請求は認められない。

(2) C及びDは、Bに対して、不当利得(703条)に基づく金銭返還請求をすることが考えられる。かかる請求は認められるか。

ア Bは共有物である甲建物に居住することで全部を使用しており、持分割合を超えた「利得」を得ている。C及びDは、共有物である甲建物を使用できず「損失」を被っており、利得と損失の間に因果関係も認められる。

イ もっとも、「法律上の原因」がないか。

(ア) 相続開始前から被相続人から許諾を受けて同居していた相続人と被相続人との間については、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致すると考える。

そこで、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により当該建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、特段の事情のない限り、引き続き同居の相続人に当該建物を無償で使用させる旨の合意があったと推認されると考える[4]

(イ) 本件では、BはAの許諾を得て甲建物に居住している。したがって、AとBとの間で、使用貸借契約の合意があったものと推認され、Aの地位を承継したC及びDが使用貸借の貸主になる。また、特段の事情にあたるような事情もない。

(ウ) したがって、本件「利得」については「法律上の原因」がある。

ウ よって、C及びDの請求が認められる。

2 (イ)について

(1) C及びDは、Bに対して、共有持分権(249条)に基づき、甲建物明渡請求をすることが考えられる。本件において、多数持分権者の明渡しの理由は認められるか。

ア 本件では、(ア)と異なり、AとBとの間に使用貸借の合意は推認されない。そして、C及びDの協議は管理行為(252条本文)として認められるところ、明渡しの理由として認められる。

イ したがって、C及びDの請求は認められる。

(2) C及びDは、Bに対して、不当利得(703条)に基づく金銭返還請求をすることが考えられる。本件では、「法律上の原因」が認められるか。

ア 本件では、BはAに無断で甲建物に居住しており、AとBとの間で使用貸借の合意があったと推認されない。

したがって、「法律上の原因」があるとはいえない。

イ よって、C及びDの請求は認められる。

第2 設問2(この設問では民事訴訟法は法名略。)[5]

1 最高裁判所は、控訴審判決が弁論主義違反であるとして「法令の違反」(325条2項)があるとして、破棄差戻ししなければならないのではないか。

2 弁論主義とは、資料の収集・提出を当事者の権能かつ責任とする建前をいう。その根拠は私的自治の訴訟法的反映にあり、その機能は被告への不意打ち防止にある。ここから、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならないという弁論主義第1テーゼが導かれる。本件は、かかる弁論主義第1テーゼに反しないか。

「事実」とは、被告への不意打ち防止の観点からは、主要事実にのみ弁論主義の適用認めれば最低限の不意打ち防止が図られるため、主要事実に限られると考える。また、弁論主義は裁判所と当事者の間の役割分担の規律であるため、「当事者」とは両当事者を意味する。そして、訴訟資料と証拠資料の峻別の観点から、「主張」とは弁論期日における主張を意味する。

3 以下、本件について検討する。

本件訴訟物は、C及びDのBに対する、共有持分権に基づく乙土地所有権移転登記手続請求権である。その請求原因事実は、①乙土地P元所有②乙土地AP売買③C及びDがAの相続人であること④A死亡となる。

これに対して、控訴審の認定した事実は(1)乙土地は、AがPから買い受けたものである、(2)その後、AからBへの死因贈与がなされたものである、という事実である。

かかる事実の内、(1)は共有権に基づく所有権移転登記手続請求の請求原因事実であり、一定の法律効果を発生させる要件に該当する具体的事実である主要事実にあたる。また、その主張もC及びDからなされている。したがって、かかる点に弁論主義違反はない。

もっとも、かかる事実の内、(2)はどうか。かかる事実は、請求原因と両立し、かつ、請求原因によって発生する法律効果を消滅させる抗弁であるところ、一定の法律効果を発生させる要件に該当する具体的事実である主要「事実」にあたる。それにもかかわらず、かかる事実は「当事者」たるC、D及びBから弁論期日において「主張」がなされていない。したがって、かかる点は弁論主義違反である。

4 よって、最高裁判所は、破棄差戻しをすべきである。

以上 

 

[1] 主要論点:①共有者間での不動産明渡請求の可否②被相続人の許諾を受けて相続した共有物に居住している場合の、他の共同相続人の不当利得返還請求の可否

なお、平成24年度司法試験予備試験民法設問1参照。

[2] 最判昭41・5・19参照。

要件事実:E.被告も相続人であること R.多数持分者において明渡しを求める理由があること、になると思われる(私見)。後述の平成8年判例の射程内になると、C・Dの本件協議は変更行為(251条)にあたるという理解も可能かもしれない。また、平成8年判例の使用貸借合意の推認が別個の占有権原の抗弁になるとの理解も可能かもしれない。

[3] この協議は遺産分割協議ではない。遺産分割協議であれば相続人全員で行わなければならず、相続人の欠ける遺産分割協議は無効である。

[4] 最判平8・12・17参照。

[5] 主要論点:弁論主義第1テーゼ