法律解釈の手筋

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令和4年度(2022年度) 東大ロー入試 公法系 解答例

解答例

第1 問①について

1 薬機法の規定

薬機法36条の6第1項

2 憲法適合性[1]

(1) 薬機法36条の6第1項(以下、「本件規制」という。)は、憲法22条1項に反し、違憲とならないか。

(2) 憲法22条1項が職業選択の自由を保障していることは明らかである。また、自己の選択した職業を遂行することができなければ、同項の趣旨が没却されるため、職業遂行の自由も、同項により保障されると考える(薬事法違憲判決参照)。

(3) 本件規制は、上記自由を制約するといえるか。

本件規制は、要指導医薬品を、インターネット等を通じて注文を受け付け、自身の店舗以外の場所にいる者に対して、郵便その他の方法により販売すること(以下「郵便等販売」という)を禁止しているところ、要指導医薬品を郵便等販売しようとする事業者の職業遂行の自由が制約されているといえる。

したがって、本件規制は、上記自由を制約する。

(4) 本件規制は、正当化されるか。

ア 本件自由は、医薬品の店舗販売業の方法を規制するものにすぎず、職業遂行の内容及び対応に対する規制である。また、本件規制の対象となる要指導医薬品は、要指導医薬品と一般医薬品を合わせたものの1%に満たない程度の市場規模であることも併せてかんがみれば、制約強度も強いとはいえない。

そこで、立法府がその裁量権を逸脱し、当該規制が著しく不合理であることの明白である場合に限り違憲であると考える(小売市場合憲判決参照[2])。

イ 「要指導医薬品」は、製造販売後調査の期間又は再審査のための調査期間を経過しておらず、需要者の選択により使用されることが目的とされている医薬品としての安全性の評価が確定していない医薬品である。そのような「要指導医薬品」について、郵便等販売を禁止する本件規制は、その不適正な使用による国民の生命,健康に対する侵害を防止し,もって保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止を図ることを目的とするものであるところ、かかる目的は正当といえる。

また、本件規制の手段は、医師又は歯科医師によって選択されるものではなく、需要者の選択により使用されることが目的とされているものであり、上記のとおり,このような医薬品としての安全性の評価が確定していないものであるところ、上記の本件各規定の目的を達成するため、その販売又は授与をする際に、薬剤師が、あらかじめ、要指導医薬品を使用しようとする者の年齢、他の薬剤又は医薬品の使用の状況等を確認しなければならないこととして使用者に関する最大限の情報を収集した上で、適切な指導を行うとともに指導内容の理解を確実に確認する必要があるとすることは、不合理とは言えない。

ウ よって、本件規制は、22条1項に反せず、合憲である。

第2 問②について

要指導医薬品の販売方法について定める薬機法36条の6第1項については、薬剤師に「対面」により書面を提供させ、指導を行わせなければならないとしている。これに対して、一般医薬品の販売方法について定める薬機法36条の10第1項は、「対面により」との記載がなく、薬剤師に書面により必要な情報を提供させなければならない、との規定しかない。したがって、書面を郵便等の方法により提供することも認められていると考える。

第3 問③について[3]

1 厚生労働省令により、店舗販売業者による「一般用医薬品」の販売について対面販売を義務付けることは、薬機法の委任の範囲を逸脱し、違法とならないか。

2 委任命令の違法性の判断については、①当該制限規定の文言のほか、②委任の趣旨③法の趣旨・目的④委任命令によって制限される権利ないし利益の性質等を考慮し、法律の範囲を逸脱しているか否かによって決するものと考える。

3 それでは、本件委任は違法か。

(1) 「第一類医薬品」について

問②のとおり、薬機法は、「要指導医薬品」については、明示的に対面での販売を義務付けているのに対して、「第一類医薬品」については、対面での販売を義務付けていない(薬機法36条の10第1項)。また、販売方法等の制限を規定する薬機法37条1項も、明示的に対面によるべきとの規定はされていない。以上の規定振りからすれば、薬機法の趣旨としては、「第一類医薬品」については、対面による販売は禁止していないと考えられる。さらに、問①のとおり、対面販売の禁止は職業遂行の自由という憲法上の権利を制限するものであり、その制限の程度が強い。

以上にかんがみれば、厚生労働省令により、店舗販売業者による「第一類医薬品」の販売について対面販売を義務付けることは、法律の範囲を逸脱するものであるといえる。

(2) 「第二類医薬品」について

薬機法の趣旨や、他印面販売の禁止による権利制限の性質は、「第一類医薬品」と同様である。また、「第二類医薬品」についても、対面での販売は義務付けられていない(薬機法36条の10第2項)。

(3) 結論

よって、対面販売を義務付けるような厚生労働省令は、違法である。

 

以上

 

[1] モデル判例は、最判2021年(令和3年)3月18日民集75巻3号552頁。

[2] 最大判1972年(昭和47年)11月22日刑集第26巻9号586頁。

[3] モデル判例は、最判2013年(平成25年)1月11日民集67巻1号1頁。