法律解釈の手筋

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令和元年 予備試験 行政法 解答速報 解答例

解答例

第1 設問1[1]

 1 Cは、本件許可処分について「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)にあたると主張する。

 2 「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も法律上保護された利益にあたる。

 3 Cは求める処分の名宛人ではなく、かつ、かかる処分によって自己の権利利益が侵害される者でもないため、行訴法9条2項の事由を考慮して判断する。

 4 Cが本件許可処分によって受ける不利益は、①本件広告物の設置による落ち着いた住宅地である周辺の景観が害されること②明るすぎる映像が深夜まで表示されることにより、本件広告物に面した寝室を用いるCの安眠を害するおそれがあること、の2つである。

 5 A県屋外広告物条例(以下「本件条例」という。)1条は、良好な景観の形成、風致の維持及び公衆に対する危険の防止を目的としている。そして、同条例2条は、広告物等について以上の目的に適合するものであることを求める。同条例6条は一定の地域においては、あらかじめ県知事の許可を受けなければならないことを定めており、同条各号によれば、良好な景観の形成、風致の維持又は公衆の危害を防止する必要性の高い地域について、事前規制を設けていることが分かる。以上の規定にかんがみれば、条例は、許可制度によって、広告物等の設置による表現の自由(憲法21条1項)を制限し、景観の利益を保護する趣旨にでたものといえる。したがって、不特定多数者のかかる景観利益を保護しているものといえる。

 6 それでは、個別的利益要件を充足するか。

 (1) A県は以下のとおり反論することが考えられる。

ア まず、景観利益というものは、その性質上国民全体が等しく享受する利益である。また、かかる利益について個別的利益として保護すべきものと解されるような法令上の手掛かりもない。以上にかんがみれば、上記景観利益は、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むとはいえない。

イ 次に、公衆に対する危害を防止するとされているのは、広告物等の形状、設置場所から、物理的に傷害を負わせる危険を防止しようとするものであるところ、上記のような電子広告物によって安眠を害する不利益まで含まれているとはいえず、 Cの上記不利益については個別的利益要件を欠く。

 (2) 以上も踏まえ、Cは以下のように主張すべきである。

   ア まず、景観利益は、民法上法的保護利益として承認されている。また、確かに景観の利益は国民全体の利益ではあるものの、その性質上その利益を日常的に享受しているのは地元住民であり、地元住民はその景観利益について密接な利害関係を有しているといえる。また、広告物設置により、かかる利益は永続的に侵害され続けるものである。そうだとすれば、公益の代表者としての原告適格をCに認めるべきである。

   イ 次に、公衆の危害については、確かに本件条例が当初想定していた公衆の危害はA県の反論のとおりである。しかし、科学技術の進歩によって新たな公衆の危険が生じることは十分に起こることである。そして、電光掲示板を用いた広告物は、深夜になればその明るさから住民の睡眠を妨害することは十分に想定される。そして、このような不利益は生活環境上の不利益にとどまらず、その性質上継続的な睡眠障害によって身体、健康に著しい被害を生ずるおそれのあるものである。そして、かかる利益は当該広告物に特に近い者に直接的に著しい被害を生ずるといえる。

     そこで、当該広告物に近接した地点に居住し、直接的に著しい被害を受けるおそれのある者については、その者の生命・身体といった利益を個別的利益として保護する趣旨であると考える。

     本件では、Cは本件申請地点の隣地に居住する者であり、非常に近接した場所に居住している。

   ウ したがって、Cには原告適格が認められる。

第2 設問2

 1 基準1は、本件条例の委任の範囲を超えるため、無効・違法であると主張する。

 2 基準1を定めるのはA県屋外広告物条例施行規則(以下「本件規則」という。)である。本件規則は、本件条例9条の委任を受けて制定されており、憲法94条に基づく自治立法である条例の一種の法規命令たる委任命令にあたる。そして、委任命令においては法律の委任の範囲を超えることはできない。

   委任の範囲を超えているかどうかは、委任規定の文言、趣旨、対象となる私人の権利の性質等諸般の事情を考慮して決すると考える。

 3 基準1は、一定の広告物について鉄道等までの距離を100メートル以上であることを定める。本件条例6条1項2号は、道路及び鉄道等に接続し、かる当該道路及び鉄道等から展望できる地域のうち、知事が交通の安全を妨げるおそれがあり、又は自然の景観を害するおそれがあると認めてしている区域について、広告物の設置にあらかじめ県知事の許可を要するとしている。かかる規定からすれば、鉄道等の近くに広告物を設置してはならないのは、交通の安全が害されるおそれがあり、かつ、鉄道からっ見える自然の景観が害されるおそれがあるからであるということができる。しかし、鉄道には地上を通るものから、高架上を通るもの、地下を通るものと種々様々である。そして、地下鉄の場合、上記のように広告物によって交通の安全が害されるおそれもなければ、景観が害されるということもあり得ない。そうだとすれば、以上のような鉄道の類型を区別せず一律に基準1として定めたことは、広告物を設置しようとする者の営利的表現の自由を不当に制約するものである。

 4 したがって、条例の委任の範囲を超え、無効違法である。

以上

 

[1] 類似の問題として平成25年予備試験行政法設問2参照。