法律解釈の手筋

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平成28年度 予備試験 刑事実務基礎 解答例

解答例

第1 設問1[1]

1 殺意とは、死の結果発生に対する認識・認容(刑法38条1項)をいう。本問では、証拠⑭のAの供述に基づくと、Aには被害客体Vについての認識がないため、死の結果発生に対する認識がないとして、殺意が否定されることとなる。

2 そこで、弁護人としては、以下のとおり主張することが考えられる。

人に向かって拳銃で弾丸3発を発射させる行為が、人を死亡させる危険性の高い行為であることは争わない。

被告人は、Aが暴力団乙組事務所前路上にいることを認識して拳銃で弾丸3発を発射したことについては争う。

第2 設問2

1 小問1

(1)  下線部㋐は、犯行時のWとVの位置関係を測定するための動機が示されたにすぎない。また、下線部㋑は、犯行時の犯人の位置を測定するための動機が示されたすぎない。したがって、下線部㋐及び㋑は、犯行現場の状況という要証事実との関係でその内容の真実性が問題となるものではなく、現場指示として非伝聞証拠にあたる。

(2)  よって、検察官としては、下線部㋐及び㋑が現場指示であると意見を述べるべきである。

2 小問2

検察官としては、証拠③について刑事訴訟法(以下「法」という。)321条3項としての証拠調べ請求をし、同時に、証拠③の作成者の証人尋問請求をすべきである(法321条3項、316条の13第2項)。

第3 設問3

弁護人としては、第1に、犯人性を争うため、予定主張の変更(法316条の22第1項)をすべきである。そして、弁護人は、犯人性を否認するための事実を証明するため、Cの供述を証拠化し証拠調べ請求をするか、Cの証人尋問請求(法316条の22第2項)をすべきである。第3に、証拠調べ請求した証拠について開示をすべきである(316条の22第4項、316条の18第1項1号・2号)。第4に、Cが警察官や検察官からの取調べに対してどのような供述をしたかを確認するため、Cの供述録取書面等について、主張関連証拠の開示請求(法316条の22第5項、316条の20第1項)をすべきである。第5に、問題文5のとおり、検察官の証拠調べの追加請求に対して、意見を述べるべきである(法316条の21第4項、316条の16第1項)。

第4 設問4

1 小問1

「11/1」という数字は、本件公訴事実の犯行日時と矛盾しない。また、「J町1-1-3」という記載および乙事務所周辺に似た手書きの地図は、本件公訴事実の犯行現場である暴力団乙組事務所の住所及び地図と矛盾しない。かかる事実から、本件メモ帳は、本件公訴事実の犯行を計画したものであるという事実(以下、「再間接事実①」という。)が推認される。また、かかる記載のあるメモ帳はA方から発見されており、かつ、AとCが一緒に写っている写真シールが貼付されているところ、かかるメモ帳は、Aが使用していたメモ帳であるという事実(以下、「再間接事実②」という。)が推認される。再間接事実①及び再間接事実②からすると、「Aが、本件公訴事実にかかる犯行計画をメモ帳に記載した」という事実(以下、「間接事実①」という。)が推認され、そこからAが犯人であることが推認される。

2 小問2

証拠⑬の、Aの「私が書いた犯行計画のメモに間違いない」との供述から、「Aが本件メモ帳に本件公訴事実にかかる犯行計画をメモ帳に記載した」という間接事実①を直接認定できる。また、「実行予定日と乙組事務所の住所とその周辺の地図を記載した」とのAの発言により、「11/1」という数字が犯行日時を示していること及び「J町1-1-3」という文字及び地図が乙組事務所を表していることが認定できるところ、再間接事実①が推認される。これらにより、Aが本件公訴事実にかかる犯行計画メモを作成したことへの推認の程度が高まる。そのため、証拠⑩及び⑪は、再間接事実①及び再間接事実②を認定する間接証拠から、間接事実①の信用性を増強する補助証拠となり、推認過程に違いが生じる。

 

第5 設問5

1 小問1[2]

(1) 裁判所としては、申立てに対して、検察官の尋問が誘導尋問の一種である誤導尋問にあたるとして、検察官の尋問内容の変更を命ずる決定をすべきである(法、309条3項、刑事訴訟規則(以下「規則」という。)205条の6第1項)。

(2) 誤導尋問とは、争いのある事実や未だ供述に現れていない事実を存在するものと前提し、又は仮定する尋問をいう[3]。かかる誤導尋問は、誘導尋問の一種であるものの、錯誤等から承認が認識・記憶していることとは異なった証言をする危険性が特に高いものであるところ、規則199条の3第4項但し書にかかわらず、一切許されないと考える[4]。本件では、Bが犯行当日に被告人を乗せて車を運転したという、未だ供述に現れていない事実を前提とした内容であり、誤導尋問にあたる。したがって、弁護人の異議には、理由がある。

2 小問2

(1) 調書の一部を示す行為は、規則199条の10第1項によって許されると考える[5]

(2) いわゆる自己矛盾調書の一部を示す行為は、書面などについて説明を求めるために呈示が必要なものであり、「(成立、同一性に)準ずる事項について証人を尋問する場合」にあたる。なお、規則199条の10第1項によって自己矛盾調書を示すことは許されないとする見解は、証言が自己矛盾調書によって不当な影響を受けるおそれがあると指摘する。しかし、自己矛盾調書を示すのは、自己矛盾供述の存在について確認を求める趣旨であり、示した調書の記載に基づいて供述を得ようとするものではないため、かかる指摘はあたらない。そこで、自己矛盾調書を示す行為は、成立・同一性の確認として規則199条の10第1項によって許されると考える。

以上

 

 

[1] 本問の「事実上の主張」(刑訴法316条の17第1項)として求められているものは、主要事実ないし間接事実を否認する主張である。

[2] ここでの弁護人の異議の法的性質は、証拠調べに対する異議(法309条1項)である。

[3] 司法研修所刑事裁判教官室『プロシーディングス刑事裁判(平成30年9月版)』(以下「プロシーディングス刑事裁判」という。)84頁。

[4] プロシーディングス刑事裁判84頁。なお、岡慎一=神山啓史『刑事弁護の基礎知識[第2版]』(有斐閣、2018年)139頁は、一切禁止されるとは解していないように読める。

[5] 岡ほか・前掲注(4)169頁。