法律解釈の手筋

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平成29年度 予備試験 刑事実務基礎 解答例

解答例

 

第1 設問1

1 「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の判断は、①罪証隠滅の対象②罪証隠滅の態様③罪証隠滅の客観的可能性④罪証隠滅の主観的可能性の観点から判断する[1]

2 本件では、Aは本件被疑事実の暴行行為について否認しているところ、罪証隠滅の対象としては、Aが本件被疑事実に係る暴行行為を行ったことに関するV証言、W証言、B証言が考えられる(①)。Aとしては、それぞれの者に接触して、脅迫等をして虚偽の供述をするように働きかけを行うという態様が考えられる(②)。まず、V及びWについては、Aはこれらの者と面識がなく、かつ、居住地等も知らない以上接触による働きかけの客観的可能性が低い。これに対し、Bについては、Aと交際、同居している者であり、AとしてはBと接触することが容易であるため、罪証隠滅の客観的可能性は高い(③)。さらに、前述のとおり、Aは本件被疑事実の暴行行為について否認しており、かかる供述態度からすれば、罪証隠滅の主観的可能性も高い(④)。

3 したがって、裁判官は、罪証隠滅のおそれがあると判断したと考える。

第2 設問2

1 下線部ⓑの供述は、公訴事実記載の暴行に及んだこと、という要証事実との関係では、間接証拠にあたる。

2 直接証拠とは、証拠の信用性が肯定できれば、その証拠から要証事実を推論の過程を経ずに認定することができる証拠をいう[2]。間接証拠とは、間接事実を証明するために用いられる証拠をいう。間接事実とは、要証事実の存否を推論の過程を経て推認させる事実をいう。

3 下線部ⓑの供述は、AがVの胸部を押したという行為を目撃したものではないため、公訴事実記載の暴行を著臆説証明するものではない。これに対して、同供述から、AがVの腹の上に馬乗りになって、『この野郎』と怒鳴りながら右腕を振り上げた、という事実を証明することができれば、暴行を加えようとする意思の強い者については、直前にも暴行を加えていたであろうことが推認されるため、公訴事実記載の暴行を加えていたことを推認することができる。

4 したがって、下線部ⓑの供述は、間接証拠にあたる。

第3 設問3

1 類型

5号ロ

2 理由

甲3の証明力を判断するには、Vの未開示の供述録取書等全部の開示を受けて供述過程を検討することが重要である。

第4 設問4

1 甲4号証については、Vの説明が付されているため、Aの公訴事実記載の暴行行為があったことという要証事実との関係で伝聞証拠(刑訴法320条1項)となるため、不同意意見を述べたものと考える。

2 これに対して、甲5号証は写真という証拠物に関するものであるため、非供述証拠であり、320条1項の適用がなく、刑訴法326条の同意の対象ではない。しかし、同写真は、公訴事実を推認させる蓋然性が全くないとして、関連性を欠くことを理由に異議を出したものと考える。

第5 設問5

1 (1)について

(1) 裁判長は、刑訴規則199条の12第1項の許可を求められたところ、以下のとおり、許可をすることができると判断したと考える。

(2) 同項が裁判長の許可を要するとした趣旨は、証人に不当な影響を及ぼしたり、法廷の品位を害したりするおそれのある図面等を排除する点にある。そこで、証人に不当な影響を及ぼさないといえるためには、①証人の供述を明確にするために必要であること②証人に不当な影響を与えるものでないこと、が必要であると考える[3]

(3) 本件では、甲4号証は犯行再現状況の写真であることが分かるところ、証人Vの供述を視覚的に明確化するために必要である(①充足)。また、Vは、証人尋問において犯行場所、犯行経過、行為態様等について供述し、被害状況等に関する具体的な供述を十分にしている。さらに、犯行再現状況写真の内容はVの同供述と同趣旨の内容であることが予測できる。以上にかんがみれば、Vに甲4号証貼付の写真を示したとしても、証人に不当な影響を及ぼすおそれはない(②充足)。

(4) したがって、裁判長は、同項の許可をしたと考える。

2 (2)について

証人Vに示した被害再現写真は、独立した証拠として採用されたものではないため、証言内容を離れて写真自体から事実認定を行うことはできないが、証言において引用された限度においては事実認定の用に供することができる。

第6 設問6

1 (1)について

(1) 相反供述

Bは、甲7号証において、AがVに対して公訴事実記載の暴行行為を行ったことについて供述しているのに対し、証人尋問では、AがVの胸を押した事実はない、と供述しており、供述内容が矛盾している。

(2) 相対的特信情況

Bは、甲7号証について、嘘を話した覚えはない、録取された内容を確認した上、署名・押印したものが、甲7号証の供述録取書である、と供述しており、同証拠の成立及び内容の真正について認めている。また、Bは平成29年5月に入ってからAの子を妊娠していることが発覚しており、甲7号証の作成月である4月に比べて、Aを庇って虚偽の供述をする利害関係が大きくなっている。したがって、相対的に甲7号証のB供述の方が得に信用すべき状況のもとに作成されたといえる。

2 (2)について

検察官は、①Bは、公判廷において甲7号証の供述と矛盾する供述をしており、甲7号証を取り調べる必要性がある②甲7号証は公訴事実記載の暴行行為があったことについての唯一の直接証拠であり、W証言及びV証言とは別の証拠価値が認められるため必要性がある、と釈明すべきである。

以上

 

[1] 『プロシーディングス刑事裁判』(司法研修所刑事裁判官室、2018年)103頁。

[2] 『刑事事実認定ガイド』(司法研修所刑事裁判教官室、2019年)。

[3] 最決平成23年9月14日刑集65巻6号949頁(刑訴法判例百選第10版68事件〔平出喜一〕)。