法律解釈の手筋

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令和2年度 予備試験 刑事訴訟法 解答例

解答例 

第1 設問1(刑訴法は法名略。)

1 ①公訴事実の判決の確定によって、②公訴事実について「確定判決を経た」(337条1号)といえるか。いわゆる一事不再理効の客観的範囲が問題となる。

2 既に前訴で確定判決を経た場合には後訴が免訴判決となる、すなわち一事不再理効が生じるのは、被告人は既に判決の確定した裁判によって有罪判決を受けるおそれがあったにもかかわらず、さらに同一の犯罪事実について被告人の裁判を許すことで被告人が重ねて有罪判決の危険にさらされることを防止する、二重の危険の禁止にある(憲法39条)。そこで、一事不再理の客観的範囲は,被告人が前訴確定判決で危険にさらされていたといえる範囲、すなわち、前訴と後訴共に有罪とされれば二重処罰となる関係にある「公訴事実の同一性」(312条1項)の範囲であると考える。

3 本件では、①の公訴事実は、令和元年6月1日にH県I市内の自宅において、交際相手の乙を被害者とする傷害事件であるのに対して、②の公訴事実は、令和元年5月15日にJ県L市内の路上において、丙を被害者とする傷害事件である。したがって、基本的事実関係の共通性が全く認められないところ、狭義の公訴事実の同一性が認められない。また、①②の両公訴事実を比較しても併合罪(刑法45条)となるにすぎないため、公訴事実の単一性も認められない。したがって、「公訴事実の同一性」が認められない。弁護人の主張によれば、②の公訴事実は①と共に常習傷害罪の包括一罪にあたるため、公訴事実の単一性が認められ、「公訴事実の同一性」が認められるとの主張であると思われる。しかし、暴力行為等処罰に関する法律(以下「法」という。)1条の3第1項は、暴行、脅迫等同条所定の行為を常習として行なう習癖のある者が新たに犯した暴行、脅迫等につき、通常の暴行、脅迫等よりも法定刑の重い特別罪を構成するものとした規定である。そうだとすれば、本件①と②の公訴事実をそれぞれ単純傷害罪のとして併合罪で処罰したとしても、①と②を常習傷害罪として処罰するより重い刑罰を科せられることはなく、二重処罰の関係にあるとはいえない。したがって、本件において訴因外の事実を考慮する必要はなく、弁護人の主張を採用することはできない。

4 よって、裁判所は、弁護人の主張を排斥し、本案判決をすべきである。

第2 設問2

1 設問1と同様に、②公訴事実について「確定判決を経た」(337条1号)といえるか。上記の一事不再理効の客観的範囲に照らして考える。

2 本件では、①の公訴事実について、設問1と異なって罪名が常習傷害罪となっている。②の公訴事実は①の公訴事実の日時よりも半月前の傷害事件についてのものであるところ、かかる公訴事実は常習傷害罪を構成する可能性がある。もし仮に②の公訴事実が常習傷害罪を構成するとすれば、①②は一罪の関係にあるため、公訴事実の単一性が認められ、「公訴事実の同一性」が認められる。

3 したがって、裁判所としては、②の公訴事実について、常習性の発露によって傷害が行われたかについて審理し、常習性の発露が認定できる場合には、「確定判決を経たとき」にあたるとして、免訴判決をすべきである。常習性の発露が認定できない場合は、本案判決をすべきである。

以上