法律解釈の手筋

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令和2年度 予備試験 民法 解答例

解答例

 

第1 設問1(民法は法名略。)

1 CはAに対して、消費貸借契約に基づく貸金返還請求をすることが考えられる。かかる請求は認められるか。

2 Cは、Bに対して、令和2年4月20日、返還の時期を定めないで、100万円を貸し付けた(以下「本件消費貸借契約」という。)。Bは、本件消費貸借契約の際、Aの代理人であることを示した。

3 もっとも、Bは、本件消費貸借契約に先だって、Aからその代理権を授与してもらっていないと主張することが考えられ、かかる主張は認められる。そこで、Cは、Bが令和2年7月10日にAの後見人になったことから、Bに対して追認の催告をし(114条)、かかる催告にBが信義則上追認拒絶をすることができない結果、本件消費貸借契約が有効になると主張することが考えられる。

(1) 制限行為能力者である本人の後見人は、本人の有する追認権や追認拒絶権を代理人として行使することができる。そして、無権代理人が本人の後見人になった場合でも、後見人は本人に代わって、本人の利益にために追認権や追認拒絶権を行使するにすぎない。そこで、無権代理人が本人の後見人になったとしても、原則として追認拒絶権を行使できる。しかし、例外的に①契約の効力を認めることでしか相手方を適切に保護できず②相手方がそのような保護に値し③追認拒絶を否定しても制限行為能力者の保護目的に反しないといえるような場合には、信義則上追認拒絶権の行使が否定されると考える。

(2) 本件では、Cの保護は、Bに対する無権代理人責任の追及によってなし得る(①)。そもそもCは、Aが意識不明の状態であることをBから聞いていたのであるから、AがCに代理権を授与できる状態になかったことを認識している以上、本件消費貸借契約の効力を認めるほどCが保護に値するとはいえない(②)。また、Aとしても意識不明の状態のときにBによって無権代理行為が行われている以上、本件消費貸借契約を認めれば、Aに不意打ちを与えることになる(③)。以上にかんがみれば、例外的場合にはあたらず、Aの後見人となった無権代理人Bは、Aに代わって追認拒絶権を行使することができる。

(3) したがって、Cの主張は認められない。

4 よって、本件消費貸借契約はAに効果帰属せず、Cのかかる請求は認められない。

第2 設問2

1 第1に、Dは、詐害行為取消権を行使して、AE間の令和5年6月10日の本件不動産を300万円で売買する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を取り消して、本件不動産の所有権移転登記抹消登記請求をすることが考えられる。

(1) まず、424条1項の要件を充足することで、詐害行為取消権を行使することができるか。

ア Dは、Aに対して、令和4年5月1日、弁済期を令和5年4月30日と定めて、500万円を貸し付けた(以下、「本件②消費貸借契約」という。)。

イ Aは、Eに対して、令和5年6月10日、本件不動産を300万円で売った。

ウ Aは、本件売買契約の際、本件不動産以外にめぼしい資産がなかった。しかし、債務者Aは本件不動産の価値が300万円を超えないものであると信じていることから、本件売買契約によって債権者を害することになると認識していない。したがって、「債権者を害することを知って」にあたらない。

エ よって、424条1項の要件は充足しない。

(2) 次に、424条の2各号の要件を充足することで、詐害行為取消権を行使することができるかが問題となる。

ア Aは本件不動産を売って現金に換えているため、隠匿等をする処分をするおそれは認められる(同条1号)。

イ しかし、Aは、本件売買契約のとき、隠匿等の処分をする意思を有していたわけではない(424条2号)。

ウ したがって、424条の2各号の要件を充足しない。

(3) よって、Dの詐害行為取消権の行使は認められない。

2 第2に、Dは、債権者代位によって、AのDに対する本件売買契約の詐欺取消権(96条1項)を行使して、さらに、債権者代位によってAのEに対する所有権に基づく妨害排除請求としての所有権移転登記抹消登記請求をすることが考えられる。

(1) 前述のとおり、DA間で、本件②消費貸借契約が締結されている。

(2) また、Aには現在AのEに対する売買代金債権300万円しかみるべき財産がなく、Aは債務超過に陥っているため、保全の必要性がある。

(3) それでは、詐欺取消権の代位行使が認められるか。

ア 詐欺取消権が、債務者の一身専属権(423条1項但し書)にあたるかが問題となる。

(ア) 一身専属権とは、行使上の一身専属権をいい、権利を行使するか否かを権利主体の意思にのみかからせることにより、権利を行使するか否かの決定につき他人の介入を許さないものをいう。

(イ) 本件では、詐欺取消権が問題となっているところ、詐欺取消権は遺留分減殺請求権のような身分上の権利の性質を有するものではない。また、債務者が無資力となっていて自己の債務を満足に弁済できないような場合にまで詐欺取消権を行使するかどうかの債務者の意思を債権者の利益より優先させるべき理由はない。そうだとすれば、詐欺取消権は、権利の行使を権利主体の意思にのみかからせていないと考える。

(ウ) したがって、詐欺取消権は債務者の一身専属権にはあたらず、Dによる代位行使が認められる。

イ Aが本件売買契約を締結したのは、本件不動産が3000万円の価値を有していたにもかかわらず、Eが本件不動産の価値が300万円を超えないと言葉巧みに欺き、そのように信じさせたためである。したがって、本件売買契約は「詐欺」にあたる。

ウ よって、Dは本件売買契約を取り消すとの意思表示を代位行使することができる。

(4) Dは、詐欺取消権の行使によって本件不動産の所有権がAに帰属したことをもって、同所有権に基づきEに対して所有権移転登記抹消登記請求をすることができる。Eは本件売買契約の代金300万円を支払っていないため、同時履行の抗弁を主張することもできない(423条の4)。

(5) 以上より、Dのかかる請求は認められる。

以上