法律解釈の手筋

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平成25年度 予備試験 民事訴訟法 解答例(民法新規定)

解答例

第1 設問1(1)

 1 アについて

 (1) まず、債務者が別訴を提起することは、重複訴訟禁止(142条)にあたり、許されない。

(2) 次に、Bが被保全債権を争って訴訟参加をすることが考えられるが、いかなる方法によるべきか。改正前民法の下では、当事者適格の点で非両立であることを理由に、独立当事者参加(民訴47前段)を認めるのが判例であったが、改正後民法では、債務者の管理処分権が喪失しないため(民423の5)、独立当事者参加が認められないのではないかが問題となる。

(3) 独立当事者参加(民訴47Ⅰ後段)が認められるか。本件参加申出が「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利」の主張にあたるか。

ア 独立当事者参加の制度趣旨は、本訴の原告の請求認容により自己の不利益を被ることになる第三者による牽制を認める点にある。そして、補助参加の利益との区別の観点から、「自己の不利益」とは、単なる事実上の不利益を超えて参加人の権利実現が困難になるという強い事実上の不利益を意味すると考える。

     そこで、「訴訟の……自己の権利」とは、参加人の権利実現の困難となるおそれが認められる場合をいうと考える。もっとも、本訴当事者間の訴訟上の和解等の自由な訴訟追行を制約することとの均衡の観点から、参加人は自己の権利実現の困難性の主張だけでなく、その疎明をも要すると考える。

イ 本件では、もし仮に両請求に理由があると判断された場合、いかなる判決をすべきかが関連して問題となるが、債務者の訴え取下げによる策動のおそれ及び請求認容確定判決取得後に債務者が強制執行をしないおそれを防止する観点から、債権者の請求も債務者の請求も共に認容すべきであると考える。そうだとすれば、Aは独自に債権回収が可能であり、Aの債権回収後、BがAに対して不当利得返還請求をしたとしても、すでにAが金銭を費消し無資力になっているときにはBの不当利得返還請求権は事実上行使不可能となる。

ウ したがって、本件参加申出は「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利」の主張にあたり、独立当事者参加は認められる。

(4) もっとも、被参加訴訟である債権者代位訴訟の既判力は債務者に拡張される(民115Ⅰ②)結果、債権者代位訴訟と参加訴訟たる債務者の第三債務者に対する被代位債権の請求訴訟は既判力抵触のおそれがある。そこで、本件参加申出がなされた場合には、共同訴訟参加もなされたものとみなすと考える。

   なお、独立当事者参加であれば、両請求が同一裁判体によって審理・判断されるため、訴訟経済、矛盾判断、被告の応訴負担のいずれの弊害もなく、重複訴訟禁止(142条)にあたらない。

 2 イについて

 (1) 訴訟1について

    訴訟1については、甲債権の存在が認められていない。甲債権は請求原因であると同時に、Aの当事者適格を基礎づける訴訟要件でもあるところ、甲債権が不存在である以上、訴訟要件を欠くとして訴え却下判決をすべきである。

 (2) Bの独立当事者参加について

    BのCに対する乙債権の支払請求については、請求認容判決をすべきである。

第2 設問1(2)

 1 甲債権が存在していたと判断する場合 

 (1) 債権者の当事者適格を法定訴訟担当と解する場合、債権者代位訴訟の既判力は債務者に拡張される(115条1項2号)。

(2) 甲債権が存在していた場合には、Aに当然に当事者適格が認められるため、Bに訴訟1の既判力が拡張される。

(3) したがって、裁判所は、訴訟2について請求棄却判決をすべきである。

 2 甲債権が存在していなかったと判断する場合

 (1) 裁判所は、甲債権が存在していなかったとして、再度、乙債権の存否について甲に主張立証を許すべきか。

ア 確かに、債務者は前訴において、訴訟告知によって債権者代位訴訟の存在を認識しており、訴訟参加の機会があった以上、後訴において被保全債権の存在を争うことはできないとも思える。しかし、訴訟告知は債務者に訴訟参加の機会を与えるにすぎず、訴訟参加をしなかったことが債務者に不利益に作用すると考えることには論理の飛躍がある。

     そこで、債務者は、原則として後訴において被保全債権の存否を争うことができる。もっとも、債務者が前訴において訴訟参加をして被保全債権を争わなかったことが信義則に反するといえるような特段の事情がある場合には、かかる主張は遮断されると考える。

   イ 本件においても、特段の事情がある場合には、裁判所は、乙債権の存否について、甲の主張立証を信義則違反として遮断すべきである。

   ウ したがって、特段の事情が認められる場合には、請求棄却判決をし、そうでない場合には、乙債権の存否を審理し、本案判決をすべきである。

第2 設問2

 1 Dは、訴訟1において、いかなる方法によって訴訟参加すべきか。

(1) 独立当事者参加(民訴47Ⅰ後段)が認められるか。本件参加申出が「訴訟の……自己の権利」の主張にあたるか、前述の基準により判断する。

ア 本件では、もし仮に両請求に理由があると判断された場合、両請求が共に認容されると考えるところ、一般債権者の被代位債権の権利実現が困難になると思える。しかし、一般債権者に被保全債権が認められる場合の債権者代位権行使は正当な権利行使であって、これによってDがAに対し不当利得返還請求をすることができるわけではなく、Dの被る不利益は、実体法が予定しているものといえる。以上にかんがみれば、DがAの被保全債権を争わない場合には、権利実現の困難性はないと考える。

イ したがって、本件参加申出は「訴訟の……自己の権利」の主張にあたらず、独立当事者参加は認められない。

(2) 共同訴訟参加(民訴52Ⅰ)が認められるか。参加2は、訴訟1と「合一に確定すべき場合」にあたるか。

ア 「合一に確定すべき場合」とは、被参加訴訟の既判力が参加訴訟に拡張される結果、両訴訟の間で既判力抵触のおそれがある場合をいうと考える。

イ 本件では、訴訟1及び訴訟2の既判力がBに拡張される(民115Ⅰ②)結果、債務者Bにおいて、既判力が矛盾抵触するおそれがある。

ウ したがって、「合一に確定すべき場合」にあたり、共同訴訟参加が認められる。

(3) よって、Dは共同訴訟参加によるべきである。

以上